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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
裏面 私は、いつでもヒトの為に
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1 Dirty old One

 はあ~…………困った、困ったなあ……


 明るさの他には何もない、ただ拡がった空間……金髪をたなびかせた妙齢の女の姿がうろうろと歩き回り、くるくると髪を弄び、ぎりぎりと顔を歪め……ぶつぶつとボヤいている。




 変な気配がしたけど、まあ気のせいでしょって二度寝しようとしたら……警戒触(アラート)!?


 ……そして、このパターンは……アイツの封印減衰…………なんで? ナンデェ!?



 最悪かよ!? なんでもうアイツが出てきてるの!? アイツを封印させてから、まだ千年も経っていないはずなのに!

 上手くいけば永久に、どんなに短くとも二千年はあの「渦炎の牢獄」に閉じ込められるはずなのに!


 ……父さんが、命を削ってまで準備した封印なのに……

 封印が効いてる間に、どうにかして私がアイツに勝てるだけの力を蓄える計画だったのに……


 アイツのせいで、父さんは……

 そして、私は…………




 女はしばらくの間涙ぐみながらその場に座りこみ、膝を抱え込むように身体を丸めて身悶えしていた……が、突然背筋を伸ばした。



 いつまでも腐ってられない、とにかくまずはアイツの様子を見てみよう。


 私はアイツに気取られないように、力の弱い(しもべ)に「繋ぐ」。

 私はヒトの世界に生きる僕に「繋ぐ」ことで、その五感を介して世界の干渉を受けられる。

 それが、最果て(ここ)からヒトの世界を安全に知るひとつの方法。



 ────やっぱり、この世界はいい所ね。

 獣に、草木に、小鳥に……僕を介してヒトの世界に触れるたびに、いつもそう感じさせられる。


 この世界をヒトにすべて委ねることが、絶対に正しいとは……今でも言い切れないけれど。

 けれど確かに、私たちの手を離れたヒトの世界、ヒトの暮らしは……とても美しいと思う。

 世界がこのまま美しいなら、私も永遠ここに居ても……いいかもしれない。


 エルフ? ドワーフ? オーガ? 知らないわ、そんな連中。

 私たちの、ヒトの世界こそ……美しいのよ。


 っと、目的を忘れちゃいけない、アイツの様子を見てみよう。



 深夜、辺境の代官屋敷……一羽の小鳥が、他者に気取られぬよう注意しながら元「魔王」に接近していく。



 へえ、仮面つけるのやめたんだ。まあ確かに、顔はイケてるからなあ……って、アイツさっそくヒト殺してるじゃん……

 相変わらず光線(レイ)の威力ヤバいな、あれには巻き込まれないようにしないと。この身体じゃ、一発でも百回は余裕で死ねる。


 それにしても、なんでアイツは私たちの(ヒト)を助けないで、先住民(エルフ)なんかに肩入れしやがるんだ。

 私たちの仔でもない、あんなバカで薄汚い連中に……封印されてる間に、少しは悔い改めたりしろよ。


 やっぱり出来損ないだ、アイツは。アイツも、アイツの家族も……アイツの一族はみんな、みんな出来損ないだ。早く死んでしまえばいいのに。


 ……アイツ以外は、だいたい殺せたはずなのに。



 ん? アイツの側にいる女……?

 誰だろうか。変わった格好をしてるけど、ヒト? のように見える……けど、アマレの匂いがしない。私たちの仔とは違う? それとも、小鳥の五感だから感じ取れないだけ?  まあどうでもいいけど。


 とりあえず、アイツに見つかる前に逃げておこう。

 アイツ昔と同じどころか、前より強くなってるかもしれない。今の私じゃ、本来の身体でも……ちょっと勝てそうにない。

 だから、今はアイツに見つかるわけにはいかない。




 一夜明けた、エルフの集落の外れ……一羽の小鳥が、相手に気取られぬよう注意しながら元「魔王」に接近していく。



 アイツ、今日もあの女と一緒にいるのか。今度は信頼できる部下を見つけた、とでも思ってるんだろうか?

 それならもう一度、寝返らせ…………なんて? 笑える。けど今の私だと、それで自棄を起こして暴れられても困るかな……


 とりあえず、もう少し様子を見てみよう……連れの女、服を脱ぎ出した? まさかアイツも、部下と一緒に水浴びなんて、しちゃうのかな?



 その時小鳥が身動ぎし、止まり木の枝葉をざわめかせる音が元「魔王」とその姿を盗み見る者の双方に届いた。


 

 しまった、「連繋」が疎かになってた!? やけにキョロキョロしてる、感づかれたんでなきゃいいけど……


 って、えっちょっと、それ使っちゃう!? うわ、ヒトの高僧が見たら、騒ぎのネタになっちゃうかもね……

 なんにしろ、こうなっちゃ様子もよく見えないし、いちど戻ろうかな。



 元「魔王」が詠唱を終えると……外界全ての視線を、聞き耳を拒絶するような巨大な石壁が地より立ち上り彼らを囲い込む。

 小鳥はそれを見届けもせず、飛び去っていく。

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