表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第四章 来者争乱、災禍繚乱
69/313

八 刃ツキ刺さるならば

 荒野……日の落ちかけた、生命の匂いに欠けた地に十人ほどの人間が集っている。そして、それを小高い岩の上から見下ろす者がいる。



 コアイは騎乗したまま高所に立ち、人間の集団を眺めていた。

 人間達は夜営の支度をしているようであった。焚き火を囲み煮炊きをする者、焚き火から火を移して篝火を立てる者、皆よどみなく動き回っている。


 あの中に、おそらくあの声に導かれた……強者がいる。

 できれば、「敵」と呼べる者であってほしい。



 コアイはそう思いながら、別の言葉を呟く。


「灯よ走れ、趣くがままに」

 己が魔力を弱く弱く、抑え込みながら。


「熱を語れ、求むがままに」

 けして彼等に危害を与えぬように。


「望むがままに、駆けて燃やせ 『猫火(キャシャ)』」

 詠唱を終えると、コアイの掌に青い火球が形成された。それは人の頭ほどの大きさをしており、術者であるコアイにも高熱を伝えてくる。


 まだ少し力加減が甘かったか、と反省しながらコアイは火球を足元に放った。火球は穏やかに地面を転がりながら、重力に従って前方の低地へ落ちていく。



「な、なんだあの光は!?」

 火球の向かう先から、人間の叫び声が聞こえる。それに連れて、人間達の視線が火球に向く。


「炎!? 向かって来てる?」

「あわてるな、様子を……ん?」



 人間達にも、火球の先に……私の姿が見えただろうか?


 コアイには、奇襲を仕掛ける気などさらさら無い。その気であれば、魔力を絞りに絞って『猫火』を放つ必要もなければ、そもそも『猫火』を用いる必要もないのだから。

 人間達を殺すだけであれば、ひたすら『光波(コウハ)』を射ち込めば事足りるのだから。



「あ、高台に何か……いるぞ!」

「この方向、あの光を出した術者か!?」


 コアイは人間達が己に気付いたと察し、迂回して人間達の野営地へと降りていく。



「そこな人間達よ、私に何の用だ」

 コアイは馬蹄の音を響かせながら人間達に近付いて、声を掛けた。


「……お前こそ、何の用だ?」

「あの、青い光を出したのはお前か?」

 コアイと相対した人間達は口々に疑問を並べる。


「それより、まずはあの炎を止めねば……あれはゆっくりと近付いて、やがてうぬ等を焼き尽くすぞ」

「炎だと? あんな青い炎があるものか」


「いんや、青い炎ってのは……普通の火より熱いんだぜ」

 人間達の奥から、魔力の臭い……荒々しい力を臭わせた男が歩いてきた。コアイはこの男が、例の強者だと直感している。


「貴公が、ヒサ……ヒサ? なる者か」

「俺ぁヒサシってんだ、よろしく」

 男は合図をするように右手を上げる。


「んで、一応聞くけど……オメーがコアイってやつなんだよな?」

「……そうだ」

 そう答えるコアイの口元は、歪んでいる。

 男の発する臭いに、期待を滲ませて。



「反逆者コアイ、本当に来たのか……」

「聞いてた通り、本当に綺麗だな」

「オメーらさぁ、無駄口はいいから俺の槍持って来いよ」

 不満げな言葉を吐きながら男は笑っている。


「小手調べだ、まずはあの炎を止めて見せろ」

 コアイは向かってくる青い炎……自らの魔術で生み出した炎を指差す。


「なんでそんな指図されなきゃなんねーんだよ、オメー何様だよ」

「……やらねば、周りの人間達が焼け死ぬぞ」

 コアイは人間の反応に不快感を抱きつつも、まずは炎に対応するよう仕向ける。



 いつしか日は完全に沈み、大の月と篝火が辺りを照らす光となっていた。

 そこに割り込んできた不自然な青さをもたらす炎の光を、人間はどのように吹き消すのか。


 コアイは男の様子を黙って見ている。


「めんどくせぇな……ふぅ」

 男は一息吐いてから、青い炎へ向かい一気に駆け出す。そして少し間の空いた位置で跳躍し、手にした槍の切先を向けて飛び掛かった!


「オラァ!!」


 そこには詠唱らしき術も、魔力の高まりも見て取れなかった。

 ただ、青い炎が槍に突かれて消え去ったという事実だけが残っていた。


「へっ、準備運動にもなんねえよ」

「……ふむ」

 コアイは男に正対する。


「いいのか? 俺には見えてるぜ、オメーの周りに渦巻いてる変なそれが」

「……良い、良いぞ」

 コアイは丸腰のまま、少しずつ男との距離を詰めていく。

 すると突然、周囲にいた人間の一人が声を上げた。


「ヒサシ殿! 渦の巻いていない部分を狙え、と!」

「オーケー!!」

 男が力強く飛び込んでくる、コアイは身構えるでもなく、ただそれを凝視している。


「肉、目の前の肉、とにかく喰い破れ! 『刺突(ピッカータ)』!!」

 男の魔力が急激に高まる、男が一瞬引いた槍をコアイへ突き出すと同時に、魔力が槍先に集中する!

 槍は真っ直ぐに、コアイの胸を貫かんと迸る!


 しかし。


「良い腕じゃないか」

「!?」

 男の槍は、コアイの身体から逸れた向きで空中に固定されていた。

 男には、その顛末が見えていた。刺突はコアイの周囲に浮かぶ「渦」をほんの少し抉ったところで逸らされ、「渦」に絡め取られていた。



「僅かだが、この防護を破った……褒美に「次」を見せてやろう。貴公にも、その陰で見ている輩にも」

 コアイは不敵な冷笑を隠そうと……しながらも、表情を抑えられないままに呟いた。そうしてから、詠唱を始める。


「三相に分かたれし水よ、和合せよ」

撹拌(こうはん)されし雫よ、風を補え」

「気液の妙を讃え、湛えよ  『祝祭(クンブ・メーラ)』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 強者である魔王がスノウに対しては初々しい反応を見せる所など、二人の関係性が微笑ましく思えます 特にコアイが召喚でスノウを呼び出すときは、待ちきれないという思いが伝わってきて好きです [気に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ