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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第四章 来者争乱、災禍繚乱
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四 ソコになにが在るとしても

「な……自爆? んーなわけねえかあ」

 控えていた男のほうから、声が聞こえる。


「つかなんであれで無傷なんだよアイツ……服が燃えるとか、髪が焦げてアフロになるとか多少は何かあんだろ普通さあ」

 コアイはひとまず、そうこぼした男に視線を向ける。


「あっちは無傷でこっちは黒焦げ……うん、無理。逃ーげよっとうわあっ」

 男がそう言ってそっぽを向いたところで、男の頭上に細い雷が落ちた。それは先ほどの『咬雷』と比べたらあまりに些細な、弱々しいものではあったが。


「あ熱っち!? ぼ、暴力反対!」

 男は雷を身体に受けながら、まだ無事なようだ。


「いやまあ夢じゃないのは分かったけどさあ! つかあんなん絶対無理だろ!?」

 男はキョロキョロと辺りを見渡しながら声を上げる。


「いや、まあ確かに俺も無事っぽいけどさ? そういう問題か!?」

 そう答える男の姿は、服も髪も無事なように見えた。



「はぁ……しゃあないか、若干恥ずかしいんだけど」

 男がそう言い終えた辺りで、コアイは男に魔力の集まりを感じた。


 男は詠唱を始める。

「父よ願わくば、我に与えたまえ」

「父よ願わくば、御心為すための英知を」

「やがて授かりしは無尽の光芒」


「『拳霆(セスタ・フルメナ)』…………だっけ?」


 男が詠唱を終えると、再び男に雷が落ちた。しかしそれは男の頭上ではなく、その両手に導かれる。

 するとまばゆいだけではない、はっきりとした熱を伴った光が男の手に集められていた。


「さっきのやつとは少し違う……のか? は? なんだよ五倍以上のエネルギー源て」

 呆れたように呟く男の拳からは距離があるが、それでも熱と魔力がコアイにまで伝わってくる。

 先ほどの者とは違う、確かな力を感じて……コアイは戦意を新たにした。



「ぅおおっ!!」

 男は吼えた。それと同時に、意を決したかのように男の視線が鋭くなる。

 男は真っ直ぐ踏み込んでコアイに飛びかかる。そして拳を、時折蹴りを混ぜてコアイに打ち込んできた。


「ほう、なかなかだな」

 打ち込まれる男の拳足はけしてコアイには触れないが、その拳が持つ熱は少しずつコアイの身体に伝わってきた。

 先ほどの者よりは、明らかに強い。西の城市で闘った、あの女魔術士くらいの力はあるだろうか。


 コアイは躍動する男の拳足をかわしながら、しばらく反撃はせずにその熱量を受け取っていた。



「チッ、当たらねえんじゃどうにもなあ」

 数十回は拳を空振っただろうか。男は舌打ちし、ぼやきながら後方に跳んで距離を取った……少し息を切らせ、やや苦しそうな表情でコアイを睨んでいる。


「他に何かないのかよ、武器とかさあ……!?」

 男の声に応えるかのように、その拳が輝きを増す。


「お……あーいや、気持ちはありがたいんだけどさ、当たらなければ同じだって……ああいやいやいや、ありがたく頂きます!」

 男の声と連動するように拳の輝きが一旦鈍り、後に輝きを取り戻した。輝きと同様に、熱も、魔力も高まっている。


「けどなあ、結局な~……」

 男の煮え切らない態度を見たコアイは、血の鞭を細長くあつらえて男へと伸ばしてやる。すると血の鞭は、男の拳に触れるまでもなく焼き切れていた。


「折角のこの力、試してみなくていいのか?」

「……なんでアンタが笑って、楽しそうなんだよ」

 男は首を軽くひねって眉間にしわを寄せ、やや迷い疲れたような様子を見せている。あまり積極的に攻めてきそうな雰囲気ではない。



 ひとつ、こちらから攻めてみるか。

 コアイは風を想起し…………


「風よ我がやい」

「ちょっと待ったあーーーー!!!」


「……どうした?」

 コアイは大声を上げた男に尋ねてやる、その目的には見当がついているが。しかし、けして魔術に詳しくなさそうなこの男が自力でそれに気付けたのなら……素晴らしい。


「あ、ああ、いやその……」

 コアイの反応に狼狽えているのか、男は答えに困っていた。


「どうした? その声に入れ知恵されたか、それとも?」

 コアイはそう問い掛けながら身を乗り出すように、無防備に男へ近寄っていた。


「ああ、何となく、そのまじない? を言わせちゃいけないんじゃないかと思ってさ」

「ほう、筋が良いな貴様」

 詠唱を妨げ、完了させない。それは魔術士を相手に闘う際の要である。もちろん、コアイほどの力量があれば考慮する必要もなかろうが。


「まあ、せっかくだから聞いてみようかな。アンタ、旦那とか彼氏とか、好きな人とかは……いるかい?」



 コアイが心に浮かべるのは、もちろん……彼女の姿。


「……好きな人、守りたい人なら……居る」

 コアイは男を真っ直ぐ見つめながら答えた。



「急にマジメになったな……そっか、いるのか」

「さて……そろそろお喋りは終わりにしようか」

 コアイは再び、風を想起する……が。


「やーめた」

 ふと、男は座り込んでしまった。


「……は?」

「なんか、アンタと殺し合いたくねーわ」

「貴様、ふざけているのか」

 コアイは困惑した。


「なんつーか、この声の女よりアンタのほうが信用できそうでさ」

「なに?」

「この声の女の言う通りにアンタと闘うのは、良くない気がするんだよ」

 男はそう言って動こうともしなくなった。しかしそれは許されないらしい。


「えっ……!?」

 突然男は発光し、苦しみ出す。


「ああ゛っ、がぁ……や、やっばりっ……」

「貴様、早く私と闘え」

「嫌だ……こんな女のために、なんで……」

「ならば、()()、命じる。闘え」

 そして、せめて苦しまぬように殺してやる。

 コアイは男の思考を理解しきれなかったが、男に敬意を払おうと意識していた。


「……分かった、分かったよ」

 男は何かを察したか、立ち上がりコアイに飛びつこうと膝を屈めた……

 コアイはそれを見て、素早く()の魔力を練り上げる。そして。


「これぞ必殺! 『光波(コウハ)』!!」

 男への思いやりと、男の背後に潜む存在への嫌悪感が、魔力を引き出し……光束に暴威を授ける。

 太く、煌々とした光束は男を影も悲鳴も残さぬほどの力で焼き尽くした。またその先の空家数棟をも貫きながら、少しずつ上昇し……城壁を越えて虚空へ突き刺さり消えていった。

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