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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第四章 来者争乱、災禍繚乱
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三 稲妻が騒者の上をハシりサり

 コアイは、彼女がくれた絵をじっと見つめていた。そこには、どこか固い表情でこちらを睨む自分と、それとは対照的なほど自然に微笑む彼女が描かれている。


 コアイはまた、一人で少し失笑した。それから、絵を丁寧に丁寧に折り畳んで懐にしまいこんだ。

 それは、彼女と再び繋がるための鍵。もちろん、そうでなかったとしても……己が命と変わらぬほど、丁重に扱うべきもの。


 懐にあたたかさを感じて、コアイはまた……少し失笑していた。



 しばらく立ち尽くした後、コアイはベッドに寝転がってみる。するとそこには、彼女のあたたかさが……まだ微かに残っていた。

 コアイは、そのあたたかさを少しでも多く感じ取ろうと目を閉じる。



 彼女の居ないそこは、それでも……とても、あたたかい。


 何故か、コアイの目元は濡れて……時間が経っていたのか頬が少しヒヤリとした。しかし、そんなことはどうでも良かった。

 ベッドから伝わる彼女のぬくもりに比べたら、そんなものは。



 コアイは彼女にあたためられながら、眠っている。


 それは、幻かもしれない。

 それは、思い違いかもしれない。

 けれど、ここには安らぎを感じられる。それは確かなことだから。




 東側から注ぐ力強い日の光のなか、やがてコアイは目覚めた。しかし目覚めたのは、陽光が理由ではない。

 強く打たれ続ける鐘の音のような、けたたましい音が城内に響いたのだ。


「陛下! お目覚めあれ!」

「王様! あれはなんだ!?」

 息を切らせながら走ってきた老人ソディと、慌てた様子で駆けつけた大男アクドがほぼ同時に寝室へ押し寄せてきた。


「何があった」

「ああ……また、例の光だ……今度は、妙な音を鳴らしながら降ってきた」

 まだ少し眠気を残したコアイの問いに、大男が額の汗を拭いながら答えた。

 それを聞いたコアイは少し面倒に思いつつも、今なら……憂いなく、来た者全てを叩き潰してやれるとも思っている。


「私が行こう、貴様はここを守ってくれ」

「わかった、ご武運を」

「……心配してくれるのか?」

 コアイは大男の顔を横目に見つめてから視線を正面に戻して歩きだした。コアイが横目に見た大男は……顔を伏せ、鼻で笑うような声を漏らしながら苦笑していた。




 コアイは再び、不快な赤い光柱の前に立っていた。

 光柱はコアイが近付くのを待っていたかのように鐘の音を止め、代わりに唸り声を上げた。


 そして唸り声が止む頃、光柱はかき消え、そこに二人の男が現れた。


「目の前の……? あの美人かな?」

「あいつを倒せ? なんか物騒な話だな」

 二人の男は、何やら言葉を交わしているのだろうか。それらはやはり、何故だかコアイに嫌悪感をもたらす。



 そうだ、あの光柱から現れたこいつらは……配慮の必要もない、敵だ。



 コアイは二人に近づきながら、風を想起する。

 二人はコアイの視線に、歩みに、どこか戸惑ったような態度をしながらも身構える。


「風よ我が刃よ、『突風剣(エアスラッシュ)』」

 コアイの短い詠唱に応え、風刃が二人を襲う……が、二人はそれに掌を向けて何やら力を込め……耐えてみせた。


「ほう……」

 先の光柱の男よりは、楽しめる。そう感じたコアイに対し、二人は突如距離を詰めてきた!


「や、やってやるぞ!? うおおおっ!」

「女殴るなんてなんかヤだけど、この際しゃあねえか!」


 二人はほぼ同時に殴りかかり何度もコアイに向けて拳を振るう、しかしその拳はけしてコアイに触れられない。


「どうした。我々は敵同士、遠慮は要らぬ」

 コアイは己に向かってくる拳に魔力が宿されていないことを感知し、一旦間合いを取らせてみようと試みる。

 コアイはスノウを帰した際に噛み切った指の傷痕に爪を立て、血を滲ませる。そして外界に出でた血を見やすいように太めに撚り、二人の顔面を薙ごうと横に振って見せた。


「わっ!?」

 コアイの狙い通り二人にも血の鞭が見えたらしく、二人は慌てて飛び退いた。

 そして両者は間合いを空けたまま様子を見る……すると、男のうちの一人が声を上げた。



「父よ願わくば、我に与えたまえ」

「父よ願わくば……みこころ、ナス? ……ための英知を」

 男は途切れ途切れに詠唱らしき呟きをこぼす。


「やがて授かりしは……むじんの、こうぼう?」

 魔力を感じさせなかった男に、魔力が集まりだしていた。それに気付いたコアイは、淡い期待を抱く。


「えっと…… 『拳霆(セスタ・フルメナ)』?」



 ……雷か。以前の女も、似たような詠唱の後、雷を振るっていた。


 コアイは自然と、()()が眼前の二人のような種の敵に雷の力を……付与するものだと悟っていた。


「来い、闘おう」

 コアイは無意識に、男に語りかけた。それとほぼ同時に、男の両手がまばゆく輝き出す。


「うおっ、これで……叩けって? 大丈夫か?」

「怖じ気付くな」

 コアイは手元に残っていた血の鞭で男の手を打ってやる。すると弾けるような音を残して、血は蒸発して消えた。


「お、おお……!?」

 男はそわそわと、己の手やコアイに目を向けてから……


「うわあぁっ!!」

 叫びながらコアイに飛びかかってきた! 

 少し大振りな拳は熱く、(まばゆ)く輝きながらコアイの周囲を駆け回る。しかし……やはり、コアイに触れることはない。

 空振りを繰り返すうちに……男は疲れと焦りを浮かべ出す。


 コアイはうなだれ、一度溜め息を吐いた。そうしてから、唇をきつく締めて男を睨んだ。

 男はコアイの鋭い視線に気付いたのか、顔を引きつらせて目をそらす。


 もう恐れに流されるのか。こ奴は、その程度の者か。

 コアイは敵への失望を押し流すかのように、嵐、風雨……荒天を想起する。そして、拳を避けられてふらつく男を羽交い締めに捕らえてから……詠唱を始めた。



「召し下すは(いかづち)、地にて雷を受け取りて」

(たけ)(こがね)の撃ち晴らさんと」


「……『咬雷(シャクラ)』」


 青天には似合わぬ稲光が天から落ちて、術者(コアイ)にのし掛かる。

 そしてその光熱は、コアイに掴まれた男へと瞬時に伝播する!



 コアイともう一人の男の視界が戻った頃……コアイの正面には臭気を放つ黒い煤だけが残っていた。

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