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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第三章 災禍に挑み花やぎ華散り
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十三 ヒトの思い、魔王のオモい、人斃れて

 この辺りに馬を繋いでいたはずだったが……居なくなってしまった。


 帰るにしろ、人間の兵を追うにしろ、馬が居らぬのでは不便だな……



 そう考えたコアイの耳に、馬……多数の騎馬の足音が聞こえた。コアイがその方向に振り向くと、騎馬達はコアイに向いて駆け出してきた。

 コアイは棒立ちのまま、彼等が近付くのを待ってみる。



「あれが、反逆者コアイか?」

「はっ、大公殿下」

 騎馬達はコアイから少し間合いを取って足を止めた。その後、騎馬達の前列中央、彼等を率いるような位置にいた豪奢(ごうしゃ)な装いの男がコアイの名を口にする。



「ふむ、聞いていた通りの……いや、それ以上の美しさだな」

「……それがどうした」

「寝室に侍らせたいほどだ、そして……フフッ」

 大公殿下と呼ばれた威厳ある顔つきの男は、冗談とも本気ともつかない言葉を並べる。


「この美しき魔術士が、反逆者コアイ……」

「お前達は、私と闘いたいのか?」

「ぶっ、無礼な!?」

 大公は横で怒声を上げた男を制しつつ語り始めた。


「問題はそこだ、そこなんだ」

「お主が辺境騎士団程度の戦力であれば、多数のカネと犠牲を出してでも討ち取るつもりでいた」

「我が勢威を示すとともに、旧アルマリック領を得ておく良い機会だからな」

 大公はそう話しながら、ジロジロと品定めするような目でコアイを見つめてくる。


「我々にも立場なりの事情があってな」

「こんな所で、そのようなことをべらべらと(しゃべ)って良いのか」

「無論、問題のない場で、問題のない程度の話しかしておらんよ」


「しかしだ、そもそも、惰弱(だじゃく)なアルマリック伯が相手とはいえ……辺境騎士団程度が一国一城を()とせるものだろうか?」

「王国最強の騎兵隊の一角と目される騎士団が、エミールの南で壊滅した……そういう情報も入ってきている」

「どうにも、評価が難しい……と思案していたところに、坊主共が妙な相談を持ちかけてきた」

 大公はつらつらと流れるように話し続ける。


「と思いきや突然お主が現れたと聞いて、一度この目で見てみようと手飼いの兵だけ連れて来てみたら……この有り様だ」

 そう言いながら大公は右手を外向きに振り、顔も同じ側へ向けた。


「随分な暴れっぷりよ」

「私は信心深くはないが、あれは本当に御使(みつかい)からの預言なのかもしれぬな」

「なれば、預言に従ってみるべきかとも思うのだ」



 周辺を荒らしたのは、私ではないのだが……



「……お喋りだな」

 コアイは長々と話し続ける大公の様子を、ただ見ていた。


「お主が聞いてくれているからな」

「ならば今すぐ、闘おうか?」

「……どうやら、話の通じぬ相手という訳ではなさそうだ」

 大公の思わせぶりで掴みどころのない態度に、コアイは少し反感を抱いた。


「反逆者コアイよ、お主は……何を求めている?」

 大公はそう問い掛けながら下馬していた。それを見た周囲の兵は、少し遅れて続々と下馬し、(ひざまず)く。



「私に刃向かう者、私のものを傷付ける者、それらを殺すだけだ」

「その先だ、お主は何を欲して人を……我等が国と争うのか」

「……それは、お前達に言えることではない」

 それは、彼女のためだから。


「言えぬ、か。ならば質問の仕方を変えよう」

 大公は少し間を置いてから、()き直した。


「お主の目的は、我等が国の簒奪(さんだつ)、あるいは断滅、か?」


 それは、コアイにはわからない。




 コアイは考えてみる。

 彼女の希望(のぞみ)は、どのような世界の姿だろうか?



………………………………………………………………



「……そなたは、それを私に望むのか?」

「ん~、なるべく……助けてあげてほしいかなって」



………………………………………………………………



 そうだ、そうだった。

 彼女は「助けてあげて」と言ったのだ。

 ただ、あの老人達を助けてやって欲しい、と…………




「お前達が逆らわぬ限り、人間を滅ぼすつもりはない」

 コアイは、一つの答えを明かした。



「そうか、良い答えを聞けた」

 大公は厳つい顔を少しだけ緩める。


「何故か分からんが、何となく……お主の言葉には嘘が無い気がする」

此度(こたび)は退くとしよう」

 豪華な衣装をきらめかせながら、大公は再び馬に乗った。


「大公殿下、僭越(せんえつ)ながら!」

「どうした」

「敵と出会(でくわ)しながら何もせず背を向けるは、恥辱(ちじょく)!」

(おそ)れ多くも我ら、一戦を所望するなり!」

 大公の周囲にいた兵達のうち数名が、コアイとの戦闘を求めた。


「……はあ、わかったわかった。希望する者は前に進み出ろ。それで、(よろ)しいかな?」

「そうだな、私が勝ったら……馬を一頭()れないか」

 大公は黙ったまま(うなず)いた。



「反逆者め、我が正義の刃を受けよ!」

「参る!」

「神の名に()いて、血の裁きを!」

 数十名の兵がめいめいに叫びながら、コアイへ襲いかかる。




 結果大公達は、馬を一頭置いて城市から北西へ去って行った。


 コアイもまた、東に向かい城市を発った。

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