表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第三章 災禍に挑み花やぎ華散り
50/313

十 誰かの声、ハルカ越え

 コアイが大通りを引き返した先、酒場のあった辺りより少し手前だろうか。商店が並ぶ道の中央に人だかりができていた。

 遠目に見ると、そこで足を止めて集まる者も、無視して通り過ぎていく者も認められた。コアイは、足を止めてみることにして人だかりへ近付いていった。



「闘う前から負けると決めつける奴があるかこの野郎!!」

「わ、私はそんな声を聞いた、と言っただけです!」


 コアイは人だかりの隙間から輪の中心を覗いてみる。するとそこでは、軽装の鎧を着けた男と黒いローブを纏った男が言い争っているようだった。



「私は確かに聞いたのです。朝方、一人で礼拝していたときに……」


「朝からあちこち回って、その話について聞いてるんだが……そんなことを言ってるのは教会の坊主(おまえら)だけみたいだぞ?」

「そんなに俺たちが気に食わねぇかよ!?」

 中心の男の横で、彼等を(なだ)めるようにしていた男達も声を荒げる。

 それに呼応して、ローブの男の側に控えていた小柄な人間も反論しだした。


「そんなことは思っていません……貴殿方(あなたがた)兵卒は命に従うのみ、そのような者に罪はありませんから」


「お、おい」

「あ……と、ともかく、私達は体験したことを偽りなくお伝えしたのみです。私も、ダニーさんとは別の部屋でしたが女性の声を聞きました」

 失言を誤魔化すかのように、女らしき声の人間が情報を付け足した。

 コアイには発言の何が問題なのか……どころか口論の理由すら良く解らなかったが、もう少し様子を見ることにする。



 双方しばらく沈黙したのち、比較的冷静だった者達が率先して情報交換を始めた。


「なるほど、その女の声……聞こえなかった奴もいるんだよな? 修道士(あんたら)のなかにも」

「はい、私は何かの音とは聞こえたのですが、言葉として聞き取ることができませんでした」

「あたしには何も聞こえなかった」

「それよりオラァ腹が減ったよ」


「ジョセフ司教様も夢で同じ話を聞いたとのことで、大公殿下へ報告に伺うそうです」

「そんな話もういいよお、はやく帰って飯にしようよぉ~」

「……あのなあ、いや、うん……」

「隊長、大公殿下と司教殿が話し合われるなら、そこでの結果を待ちましょうや」

 他の者も、対話が続くうちに幾分落ち着きを取り戻したらしい。



「ま、結局は上の方々が決めることか。ここで俺達が言い争っても……」

「そうですね……」

「すまなかったな、俺達は天幕に戻ることにするよ」

「こちらこそ、失礼しました」


「皆、戻るぞ!」

 去り際、兵士達は誰ともなく歌い出した。


Gracious Lord, take us home   (優渥(ゆうあく)なる主よ、私たちをここからお連れ出しください)

to the Place peaceful.      (安らぎ(あふ)れる御所へ)

The Place sacred, affectionate,  (貴女の神聖な、愛深き御地へ)

take us home, graceful Lord.  (お連れください、優美なる主よ)


 胴鎧の背に同じ文様をあしらった兵士達が、同じ一節を繰り返し歌いながら城市の外郭へ歩いていく。

 ローブを纏った者達は何も言わず、歌声を上げながら去っていく兵士達を見送っていた。



 野次馬達は概ね去って行ったが、コアイを含め居座る者達もいた。


「……やはり、あの声を聞いたのは私たちだけなのでしょうか」

 兵士達の姿が見えなくなった頃、黒いローブの集団の一人が(つぶや)いた。


「で、あれば……声を発せられたのは」

「主、あるいはその御使(みつかい)か?」

「もしそうだとすれば、御声を聞いた者こそ……いや、止めとこう」

「……とりあえず、礼拝堂へ戻りましょうか」

 一人の呟きを皮切りに、ローブの集団は各々に見解を語った。語り終えたのち、彼等は城市の中心部へ向かって歩き出した。


 コアイも立ち去ろうとしたが、ふと聞こえた別の話し声に興味が向いてそこに留まった。

「……私だけじゃ、なかったんだ」


「えっ?」

「気のせいだと思って、話してなかったんだけど」

 残っていた野次馬の中に、声を漏らす集団がいた。コアイは彼等の言葉に耳をそばだててみる。


「今朝、私も女の声を聞いたの」

「どんな内容だったんだ?」

「『人よ、聞こえますか……あれはコアイ、「魔王」と呼ばれた者。たとえ貴方達が十万の兵と成っても……あれには到底敵わないでしょう。いえ、百万でも……』」

「マオウ……?」

「……コアイ……誰かの名前か?」

 コアイは己の名を語る集団に注目する。


「続きね。『コアイは今や貴方達のすぐ側まで迫っている……近々私が手を打ちます、だから今は逃げて、とにかく生き延びて……』……って、声が聞こえたの」


「なあ、マオウってなんだ」

「あ? お伽話に出てくるアレだろ……教会の連中はお伽話じゃない、神話だ! って言うがな」

「瞑想中に寝ぼけて夢でも見たのかと思ってたけど、もし修道士たちも同じ体験をしたのなら……」


 彼等の会話を聞き取り、コアイは失念していた事柄をふと思い出す時のような心地を感じた。しかし、実際に思い出されるような事柄は何も無かった。



 コアイは一旦城市の外へ出ようと、その場を立ち去ろうとした。とその時、誰かの命に応じたかのように、集団の一人が突然コアイの側へ振り向いていた。

余談ですが、今回の歌は……


半年位前に話題になった(と思う)ものがモチーフ、そして私にLRの聞き取りは難しい。

などとこぼしつつ、詳細は伏せてみよう^^;

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ