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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第三章 災禍に挑み花やぎ華散り
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二 想のカタチさまざま

「私と闘いたい、と言うのか」


 そんな申し出をされるのは、いつ以来のことだろうか。


「願わくば、我らの誇りのために」

「楽しませてくれるなら、構わぬが」


 楽しませてくれるなら、むしろ喜んで……

 彼女のいない日々を補えるほどの、()ちた闘いで……楽しませてくれるなら。


 コアイは少し、嬉しく思った。




「いや、ちょっと待ってくれよ」

 大男アクドが口を挟む。


「どうした」

「疑るようで悪いが……アンタらが俺らと()ってる隙に、西から別動隊が攻めるという戦術がありうる。危険だぜ」


「その意見はごもっとも、だが我らはそのような()は打たぬ」

 騎士はアクドの側へ向き直し、真っ直ぐな視線を向けながら語りかける。


「我らはこの地を奪いたいとは考えていない、ただ雪辱を遂げたいのだ……とは言え、その証拠はない。我らが小狡(こずる)い嘘吐きではないと、どうにか信じていただければ」

 騎士は僅かにも、清々しい態度を崩さなかった。


 コアイはその姿勢から、戦士としての強い精神力を期待したのかもしれない。


「分かった、私の条件を呑めるなら……貴公らの挑戦を受けよう」

「おお! ありがたい。して、その条件とは」

「命を惜しまず、私と闘え」

 コアイの返答を聞いた騎士は、当然だとでも言いたげな顔つきで頷いた。


「恐悦、至極……五日後の昼刻、場所はスゥル・カラ平原にて、ということでよろしいか」

 

「日時は構わぬが、その場所は何処だ?」

「……俺が道案内するよ」


 交渉……というほど緻密な会合ではなかったが、とにかく話は纏まった。




「突然訪ねた無礼者を受け入れていただき、感謝に堪えません」

「……楽しみにしている」

「では、失礼いたす」

 騎士は一礼し、退出しようとした。


 コアイ達に背を向け数歩歩いたところで、騎士は振り向いた。

「あっ」


「申し訳ないのですが、話に夢中で書状をお渡しするのを忘れておりました」

 騎士は分厚く、ざらついた紙を丸めた筒を差し出してきた。コアイは紙筒を開きもせず、早々にアクドへ渡してしまった。


「えっ、読まないのかよ」

「団長の挨拶と、先程お話した希望の戦場(いくさば)について書いてあるだけです。まあ読まれずとも問題はありません」


「では、次は戦場で……さらば!」

 騎士は再度一礼し、屋敷を去っていった。




 三日後、コアイはアクドを(とも)として、北────戦地となるスゥル・カラ平原へ出立した。



 二人は馬を軽く駆けさせたり、時折休みがてら歩かせたりを繰り返して北上する。

 馬に乗って行けば、然程急がなくとも平原には二日で着くという。翠魔族(エルフ)には馬に乗りたがらない者が多いのだが、人間とも交友のあるアクドは例外的に馬を乗りこなした。



「ところで、その背負っている箱は何だ」

 馬を歩かせている時は、ぽつぽつと会話していた。


「ああ、これか……携帯型の通伝盤(ジャムチル)、らしい」

「通伝盤……離れた相手と会話できる魔術機巧(からくり)だったか」

「持ち運びながらでも使えるように改良したから試してみてくれ、とリュカに頼まれたんだが……ちと重い、並の旅人じゃ持ち運ぶのが難儀だな」


「優しいのだな」

「アイツは……アイツの両親と兄弟は、デカい商売の帰り道で人間の山賊に襲われて殺されたんだ」

 急に、大男の顔が影を帯びる。


「俺はアイツらを守ってやれなかった。アイツを孤独にしちまった」


「アイツは伯父貴の跡を継いでやっていけるようにって、年頃なのに小難しいことばかりやってる」


「せめて俺くらいは、アイツが楽しく生きていけるように助けてやりたい」

「そうか」


「……そろそろ馬も休めた頃だろう」

 コアイは馬の横腹を軽く蹴った。




 暫くして、次はアクドが話を切り出した。


「なあ、王様」

「なんだ」


「人間との戦が落ち着いたらよ、俺を弟子にしてくれねえか」

「師事したい、と?」

「ああ、もう一度じっくり魔術を習いたいんだ」


「いいのか? 確か聞いたことがある、翠魔族(エルフ)の男は女に教導されることを嫌うと」

「ああ……そういえばそうだったな、すっかり忘れてたぜ」


「確かにそういう奴もいるが、俺はそんなこと気にしねえよ」


「大事なのは俺より強い、ってことだろ」

「……師事の件は考えておこう」

「まあ実際のところ、俺よりも他の奴を鍛えて、一端(いっぱし)の戦力にするのが先だろうけどな」



 また暫くして、コアイも話を振ってみた。


「そうだ、貴様は料理に詳しいな?」

「まあ、多少は」


「カゼス、とかアーロル、とかいう物を知っているか」

「ああ、アーロルってのは……昔エミールの辺りに住んでたエルフが動物の乳を固めて作ってた食材だよ。身体を鍛える時に食べると良いらしいが、味の癖が強くて嫌がるエルフも多い」


乾酪(カゼス)ってのは、人間がアーロルを好みの味に改良したものだ。とても酒に合うらしいんで、一度店に仕入れてみたことがあるよ。だが臭いが強いせいかエルフには不評だな」

「なるほど、城に帰ったら手に入れておいてくれ」

「分かった、揃えておくよ」




 …………などと、他愛のないような会話をあれこれと交わしながら移動し、夜を明かし、やがて二人は指定された戦地へと辿り着いた。


 昼刻まではまだ少し時間があるのだろうか、人間達はまだ来ていなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 裏切られた後復活した魔王、異世界の酒好きさん、 ちょっとしたダーク、魔族解放、いい… 後の話が気になっちゃうんですね にしてもコアイさんの名前かわいいです ちょっとダウナ系で乙女なとこ…
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