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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第二章 焦がれる災禍、灼かれる敗者
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十五 いきがいのジカク

「……私は、王の振る舞いなど知らぬ」



 確かに過去、私はこの世界に君臨していた。それは覚えている。

 だが、私は誰かのために「王であった」者ではない。ただ己の気分に因って、力を振るっていただけのこと。


 王、そんなものはただの面倒だ。いや、そもそも私に、それに相応しい振る舞いができるとは思わない。それができていたならば…………



 けして乗り気でないコアイとは違った意思を抱いていそうな、澄んだ声が聞こえた。

「んー別に、戦うだけの王様がいてもいいんじゃない?」


「戦うだけ?」

 コアイは、それは王と呼べるものかと疑問に思いながら彼女の言葉に耳を傾けた。


「軍人と政治を分けるのがシリビアン・コントロールだ、ってなんか授業で聞いたよ」


 コントロール……管理? 統御? 支配? それは、どのような者による?


 彼女の言葉は、コアイには語義を理解しきれない単語を含んでいた。恐らく老人も、先程からチラチラとコアイを見やっている若者も同様であろう。


「あれ、シビリアン……だっけ? まあ、そんな感じのアレ」

 彼女の言葉は、急に歯切れが悪くなっていた。コアイは、それには触れないでおいた。



「おっと、まだ話し中だったか」

 少し目を()らした大男が湿気た部屋から戻ってきた。


「とりあえず(かせ)は全部外した、後で飯と着る物と……」

「悪いがその話は後にせい。今、いい所なのだ」

 老人は大男の話を(さえぎ)った。


「お嬢さん、先程の話をもう一度聞かせてくれぬか」

「先程そなたが言ったのは……国家の管理と、軍務とは別だということか?」


「さっきの……シリビアン・コントロールのこと?」

 コアイも老人も、無言で(うなず)いた。



「軍人は政治をしない、ってことだったと思う。けど、そうする理由は……なんて言ってたかな……忘れた!」

 一行の注目を浴びていた彼女は、その中心でばつが悪そうに苦笑していた。


「ああ……まあ確かに考えてみたら、領主が政務もせず遊んでるとこは多いと聞くな」

「充分な能力と信頼を有す者に(まか)せているのなら、大きな問題はなかろう……であれば、この場合も同じ考えで良いか」



「ウチらもそんな感じでいいんじゃない? 難しいことはおじいちゃんに任せちゃってさ」


「……そなたは、それを私に望むのか?」

「ん~、なるべく……助けてあげてほしいかなって」



 彼女にそう言われると、それを叶えてやりたいと思ってしまう。

 それが彼女の希望(のぞみ)ならば、それは私の目的(いきがい)になる。


「ならば、私は……」

 断ることなど、私にはできない。




「だ~いじょうぶだいじょーぶ、変なことしなきゃ大丈夫だぅぷッ」

 スノウはいつもの明るい口調で話し続……と思いきや、口に手を当ててなにやら顔をしかめている。


「大丈夫じゃないのはお嬢ちゃんだよ」

「酔っぱらいなのに動き回ったからね……」

「……お、おう……」



「とりま、飲み直したいなあ」

「いややめとけって」


「いや……飲ませてやろう。準備できるか?」

「うーん、さすがに飲み過ぎじゃないのか」

「……王命だ、と言ったら?」


「ア、アンタなあ」

「王サマのごめーれーだぞ! アハハ!」

「ふふ、王様のお願いなら、聞かないわけにもいきませんね」


「は~……わかったわかった、とりあえず屋敷へ行って、食材を見繕(みつくろ)ってみよう」

「ちょっとアク(にぃ)糞領主(にもつ)忘れてるよ!」



 一行は部屋を離れ、屋敷で休むことにした。若者達と大男が先を行き、コアイと老人は彼等に遅れて歩いている。



「まこと、有り難きことですが……宜しかったのですか」

「彼女のためだ、しかし条件がある」

「何なりと」

「政務は貴殿が()れ」

 それも、彼女が言っていたことだから。


「では、私はまず領内各村の顔役を城に集めましょう。コアイ様……いや、陛下」

「陛下? ……あ、ああそうか」

 コアイは慣れない呼びかけに面食らってしまった。


「顔役らの前で陛下を紹介し、その後領主を火刑に処すことになると思います」

「それで顔役とやらが従うのか」

「無論。陛下は(さら)われていた若者達、いや領内のエルフ全てを人間から解放した英雄なのですよ」

 コアイにとっては、老人の説明はどうも合点のいかないものであった。


「私にすることはあるか」

 合点はいかないが、その辺りのことは老人の方が上手だろうと考えた。


「ひとまず数日間、人間の軍がこの城へ攻めて来ぬか警戒していただき、侵攻があれば追い払っていただきたく」

「来るとしたら、北東の騎兵団か?」

「北東のエミール領からか、西のタブリス領からか……東は山岳、南は大森林が拡がっておりますからな」


「エミール領、またタブリスの東側は……元はエルフの土地だったと聞きます。いつか取り戻したい、というのは過ぎた望みでしょうか」

「来るなら、早めに来てほしいものだな」



「遅ーい、置いてっちゃうよ~」

 あれこれと話ながら歩いていたら、随分先に行かれていたらしい。


「一仕事終えたところですし、ひとまず休みましょうか、陛下」

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