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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
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彼女のために、ひとり

 そろそろ彼女を帰す頃だろう、なればその後は()ぐにあの村へ戻ろう。

 そして森から持ち出した例の木を使って、なるべく多く『接ぎ木』を……


 コアイはスノウの温もりを隣に感じつつも、思考は今後すべき作業へと向いている。


「王サマはどう思う? わたしは……って、聞いてる?」

 と、横から軽く頬を(つね)られた。


「ん……」

「あ、なんか考え事? お悩み?」

 コアイがそこへ目を向けたためか、彼女は手を離した……かと思いきや、間を置かず指一本を押し付けられる。


「どしたん? 王サマにかぎって、眠いってことはないだろうしさ〜」

 彼女の指がグリグリと押し込まれ、頬の肉が指と自身の歯で挟まれる。


「私の婚礼衣装……私の分も作るためには、早く用意を整えねば……」

 コアイは自身の考えを伝える。そうしながら、彼女に顔を向けたかったが……押し込まれた指と微かに刺さる爪のせいで()()できなかった。

 そのせいかどうかは分からないが、コアイは一つ彼女へ問うべきことを思い出した。


「大木を運んで植え替える際に、何か気を付けることはあるか?」

 大公達が『接ぎ木』済みの切り株を自領へ持ち帰るという話を聞き、彼女に何かしら知見があればそれを伝えてやろう……と考えていたことを。


「大木……どのくらいの?」

「以前に森で、二人で()り倒した木だ」

「えっと……ふたり、じゃないけどこの前の?」

 彼女の言うとおり……

 少し前に『接ぎ木』のために森の入り口で大木を伐ったとき、彼女はコアイの背に控えており……木を伐ったのはコアイ一人の魔術によるものだが、それはこの際問題でない。


「あれだと……ごめん、わかんない」

 この時には、既に頬を刺す爪が離れていて……彼女が首を横に振るのを両目で捉えていた。


「そうか、分かった」

 コアイは返答しつつ……彼女の様子にしっかり目を向けられた安心と、爪の硬い感触が薄れた名残惜しさを感じている。


「あのサイズだと、普通はプロに頼むだろうからね……やってるとこも見たことないし」

 コアイの場違いな物思いをよそに、彼女はもう少し補足を加えてくれた。


 どうやら彼女の感覚では、大木の植え替えは専門の職人に頼むものらしい。

 であれば、大公の配下にいた……樹木に詳しい兵士にでも任せておけば良いのだろう。


「あ、他には聞いとかなくて大丈夫そ? わたし関係ない悩みだったらごめんだけど」

「ああ、大丈……」

 コアイはそう言いかけて、ふと思い付き


「いや、一つ()いておくか」

 一点、彼女に問うてみることにした。


「先程見せてくれた衣装、一つだけ随分形が違っていたが……何か理由があるのか?」

 彼女が勧めてくれた衣装三点のうち、一点だけ他とは違う形をした……ドレスの一種に見えたこと、その理由を。


「あー、あれはね……なんとなく見てみたいなって」

 が、彼女の答えはどうにも漠然としていた。


「見てみたい?」

「王サマさ、スタイルいいからああいう体のライン出るの似合うかもなあ……なんて」

 コアイはもう少し深く知りたくて、彼女に聞き返したが……続いた彼女の答えはあまり納得の行かないものだった。


 私の身体つき、その形など……彼女には幾度となく見られているはず。今更それを、服を着たままで確かめたいのだろうか?


「それは、装いなど無くても見られるだろう?」

「……え? ま、まあそれはそうなんだけど」

 現にいま、彼女はコアイの顔から視線を落として……腹の辺りに目をやっていた。

 そのうえ、何時(いつ)の間にか彼女の手が腰の横、骨と少しの肉で膨れた部分に乗せられている。


「王サマいっつも大きめの服着てるから、たまには違う系の見てみたいな〜って」

「そういうものなのか?」

 確かに言われてみれば、彼女は()ぶたびに異なる服装でコアイの眼前に現れていた。過去のものと似た装いだったことはあったが、全く同じ服装をしていたことは無かったように思う。

 コアイにしてみれば、彼女に逢えるだけで嬉しくて……そこまで気が回らなかったが。


「そういうものなのだ! ていうか、その、もうちょっとだけ……」

 彼女は上目遣いでコアイへ目を合わせながら、脇腹の辺りに顔を寄せた。


「ど、どうかしたのか」

 上目遣いのその目線が、妙に脳裏を()き焦がす。

 触れた手、あるいは頬が妙に胸をざわつかせる。


「王サマが木の話するから、そろそろ帰る時間かな〜って思って」

 彼女の澄んだ声が、何時しか憂いを帯びた響きになって。


「でもまだ少しさみしいから、もうちょっとだけ」

 彼女の(うる)んだ瞳が、何時しか熱く胸を刺す輝きを帯びて。


「見せて、すぐそばで、もうちょっとだけ」

 彼女の温もり、存在が……何時もどおりにあたたかくて。




 夜も更けた頃、コアイはスノウを本来の世界へと帰した。

 何時もどおりに無言で抱き締めて、別れを惜しんでから。


 そして夜が明けるまで、身体を横たえて少し待ってから……魔術機巧(ガジェット)で老人ソディを呼び出す。

 (しばら)くして寝室を訪れた老人に馬と路銀の用意を頼んで、急ぎ手配してくれたことに礼を言い。


 昼も夜もなく、馬の体力が続く限り西へ西へと駆けさせ……タブリス領南端の村へと急ぎ向かう。

 村にて、先に村長へ委ねた樹木が植え付けてあるのを確かめ、『接ぎ木』のための台木(だいぎ)を探し。

 しかし、手頃な木が見つからず……村長に(たず)ねてみようかと村内を探し回っていると……


「あれ、失礼ながら……もしかしてコアイ王さま、ですか?」

 人間の兵士が声を掛けてきた。

 どうやら、『接ぎ木』した切り株の処置をしに来た大公達と鉢合わせたらしい。

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