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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
306/313

彼女のためなら、四刻八刻

 ()ずは、手を引いて彼女を起こしてやる。


 コアイは無意識に微笑みを浮かべながら、意識してゆっくりとスノウへ手を伸ばす。視線は自然と、彼女の顔へ向いて。

 そうすると、彼女は強く手を握ってくる。

 手を握られたのを感じると同時に、彼女の破顔が目に入る。


 身体を起こす、その途中で彼女は手を引くような力を加えて……身体の重みと腕の力を合わせて、身体を寄せるようにしてコアイへ抱きついてくる。

 それは、普段どおりのこと。

 ただ、その力が少し弱々しかった。


「ん〜……まだねむい、かも……」

 そう口にしながら、彼女はコアイに抱きつこうと……と、いうよりは寄り掛かろうとするように身体を預けてきた。


「そうか、ならばもう少し眠るか?」

 コアイは問いかけながら、近付く彼女をズレなく、余すことなく正面から受け止める。


 彼女の身体を受け止めると……間近に彼女の身体を、存在を感じられる。

 当然といえば当然なのだが、それが妙に嬉しい。

 嬉しいのに、先程感じたもどかしさは消えない。

 消えるどころか、より一層大きくなってしまう。

 彼女がすぐ側で寄り添っているのにもどかしい。

 その最中にあっても、心のどこかが(たかぶ)っている。

 昂りともどかしさが共にあって、胸を熱くする。


「んー寝てもいいの? 予定とかないなら、いっしょに寝よっか……」

 一緒に眠る……なれば今日は、共にいられる。

 彼女の言葉からそれを確信すると、胸の内で昂りが優位になって()ぜそうになる。

 胸が熱く揺れて、思わず彼女を抱き締めそうになる。

 そんな身体の焦りを何とか抑えて、抱き締めるのではなく……抱き上げる。


「それなら、此処(ここ)では寝苦しいだろう」

 彼女を抱き上げて、冷たい床から柔らかなベッドの上へ移してやる。

 もうすぐ夏になる、もしかしたらひんやりした床や壁も心地好い季節かもしれないが。

 彼女が身体を痛めないように、良い床で寝かせてやろう。


 スノウをベッドに寝かせて、コアイは隣に寝転がる。

 そうして何時(いつ)も通りに、横から彼女を見つめている。


 仰向けで薄目を開け、微かに笑んだような顔の彼女。

 見つめていると心地好い。ただ今日は何故か、胸の内があたたかなだけでなく……弾んでいる。


「……ぉやふ…………」

 彼女がなにかを(つぶや)き、それに連れて薄目が閉じていく。


 仰向けで目を閉じ、だらりと四肢を投げ出して……彼女は眠っている。

 そんな彼女の姿に、安らぎを感じながら……今日は何故か、もどかしかった。

 手前に横たわった彼女の右腕、右手。


 なんの意識もしないまま、手が伸びてしまった。

 彼女から触れてきた、あるいは差し出されたわけでもない。

 彼女が求め、あるいは望んでいると理解したわけでもない。

 危険、不安から彼女を護るために身を(てい)したわけでもない。


 ただ、そうしたかったような気はする。

 ただ、なんの了承も得ぬまま彼女に触れてしまった。


 思考の、微かに冷静な部分で、彼女を起こしてしまったのではないかと心配はしたが……手を離すことができないでいた。

 動けずにいるうちに、それが取り越し苦労だと気付き……意識が触覚へ集中していく。


 彼女の腕を包むように身をすぼませ、背を丸めた。

 胸元に抱えた細い腕、腹のあたりに当たるやや骨ばった手。

 ()()等が触れた辺りから、何かが身体へ染み出してもどかしさを溶かしていくような。

 あたたかさと少しの昂りだけ残して、消えていくような。

 彼女の姿をぼかしていた湯気や霧が、晴れていくような。


 彼女に、自分から触れている。

 頬を寄せた肩、胸を寄せた腕。

 彼女の存在を、確かに感じる。

 あたたかい。少し暑いほどにあたたかい。

 少し暑いが、とても安らぐ。彼女の存在。



 コアイも何時しか眠っていた。

 どれほど眠り続けていたかは分からない。頭だけを持ち上げて小窓を見ると、どうやら薄暗い。日が落ちたのか、あるいは夜明け前か。

 どちらにせよ、スノウは目を覚ます様子でない。

 コアイは再び彼女の肩へ顔を寄せる。

 彼女の顔へ目をやりながら、身体は変わらず彼女の腕を抱え込む……動かせないでいる。

 脳裏に、胸の奥に熱を感じる。胸の内は激しく揺れてもいる。

 身体を動かさずにいても、もしかしたら……胸の鼓動で彼女を起こしてしまうかもしれない。

 そう思えるほどには、胸の内が激しく跳ねている。


 そのままの体勢で(しばら)く過ごしていると、小窓から明かりが射し込んだ。夜が明けたらしい。

 スノウの様子には変わりがない。

 コアイの側も、見た目には変わりがない。

 ただ、内心に一点……

 昨夜は、彼女の腕を包む身体を動かせなかった。

 今は、身体を動かしたくない、離したくないと……はっきり意識していた。



 コアイがそんな意識を自覚して、なお彼女に触れたまま……

 また暫く後になって、


「っ……ん゛~〜……」

 スノウが声をあげながら身体を震わせた。

 身体の震えが皮膚に伝わり、とてもくすぐったい。


「おはよう、スノウ」

 それを誤魔化すように、コアイは声をかける。


「おはよ、王サマ……ああこっちか」

 目覚めたスノウは一瞬コアイの居場所を掴みかねたのか、一拍遅れてコアイを見つめる。


「ってあれ、王サマ……」

「どうかしたか」

 と、彼女はなにやら目を丸く見開いた。


「なんか、それ……かわいくない?」

「そ……そうなのか?」

「うん」

 そう言って彼女はコアイへ満面の笑顔を伸ばし、額に口づけてきた。

 昨夜更新したかったのに途中で寝落ち…すみません

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