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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
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彼女のために、待ち構えて

 午前のうちに居城タラス城に帰り着いて、何となく一日眠り続けて……

 朝方に目を覚ましたコアイは、(しばら)くベッドに寝転がったままぼんやりしていた。

 暇な身でぼんやりと、特に何も考えないでいると……いつも、必ず浮かんでくる存在。

 その存在……言うまでもなく、かの愛しき人。その姿を、どうしても思い浮かべてしまう。

 何も考えないでいたはずなのに、気付いたときには……彼女のことを考えてしまっている。


 とは言っても、それはけして不快でも不本意でもない。そこには歓びと、望みばかりが満ちている。



 コアイは身体を起こした。

 憂うべきものの無いこの城で、思い立ったならば……早く、彼女に。

 スノウに逢いたい。


 ごく自然に、そう考えた。そう考えると、脳裏に彼女の姿が描かれる。


「そう思うなら、次はちゃんと……ね!」

 先日の別れ際、彼女の言葉。


 彼女も「次は」と……そう言っていた。

 はっきりと約したわけではないが、彼女がそう望んだのだ。

 なればその望みは、満たしてやりたい。十全に。不足なく。


 左の頬が少しあたたかいのを感じて、思わず微笑みを浮かべながら……ベッドから立ち上がった。



 コアイは早速、彼女を()ぶ準備をしようと考えて魔導具……呼び出し用の魔術機巧(ガジェット)を手に取った。

 しかし、それを用いるより先に……戸を叩く音がした。


「陛下、陛下……よろしいですかな?」

 どこか優しい響きの音に連れて、(しゃが)れた声が聞こえる。

 どうやら老人ソディが訪ねてきたようだ。


「入るが良い」

 コアイはソディの用向きを聞いてやりつつ、その後に食事や酒の準備を頼もうと考えた。


「では、失礼して……おはようございます、陛下」

「ああ、ところで貴殿の用件は?」

 二人は軽く挨拶を交わしつつ、室内の卓に着く。


「大公どのから文が届きました。来月、例の樹木を受け取りに南の村へ伺いたい……と」

 大公フェデリコに頼まれていた、白糸を採るために必要な樹木……それを数本手に入れたという話は、アクドから伝えさせていた。

 その話が大公まで伝わり、何時しか引き渡しの段取りまで整っていたらしい。


「ご足労をおかけしてしまいますが、陛下にも立ち会っていただきたいと」

「来月と言ったな、何時ごろ発つのが良いだろうか」

 それについて、コアイは拒むつもりはない。

 彼女へ贈る婚礼衣装を作るためには、かの白糸を得ることが不可欠だろうから。

 彼女への贈り物……そのためになら、何でも成してみせる覚悟があるから。


「そうですな……()()霊薬を使われるなら、十日後くらいで良いかと。使われぬなら、七日……いや、余裕を見て五日」

 ソディは、(くだん)の樹木とその接ぎ木が植わっているタブリス領南端の村へは行ったことがないはずだが……此処(ここ)から村まで、大まかな距離感を掴んでいるらしい。


「わかった、五日後に出立しよう。できれば道中、ついでに城市へ立ち寄って買い物をしたい」

 コアイはソディの申し出に快諾しつつ、ふと浮かんだ自身の希望も伝えておいた。


 途中でどこか城市に立ち寄って、目ぼしいものがあれば彼女への土産にしたい。

 それでも、あと数日は城に居られる……


「ありがとうございます、では(わし)は馬と路銀の手配をしておきますぞ」

 ソディは笑顔をたたえ、勢い良く席を立つ。


「いや、少し待て……その前に」

 と、コアイは手を向けてそれを制した。


「おや、他に何か……ございましたかな?」

「食事と、酒の用意をしてほしい」

「なるほど、かしこまりました……二人分、でよろしいですかな?」

 ソディは笑顔のまま応えて、改めて席を立つ。


「ああ、頼む」



 ソディが寝室から去った後、コアイは()ぐにスノウを喚んだ。

 そして何時も通り、彼女が自然と目を覚ますまで静かに見守り……


 二人は一先(ひとま)ず、スノウの目覚めとほぼ同時に届けられた酒と(さかな)を楽しむことにした。



「お城帰ってきてたんだね」

「昨日まで……城へ戻ってから二日眠っていたから、あの時から七日ほど経ったはずだ」

 コアイは彼女との会話に強く意識を向けつつ……スイスイと酒を飲み干していく彼女が手にする器に、遅れることなく酒を注いでやる。


「って、帰りはずっと馬に乗って走ってたってこと? 徹夜で?」

 と、彼女が酒を口にする手を止めた。


勿論(もちろん)、馬は時々休ませている」

 コアイは彼女が馬のことを心配したのだろうと思い、詳しく説明することにした。


「……と言っても、馬は水と草さえ十分なら休みは少なくても良いらしい」

 コアイも聞き(かじ)った程度にしか知らないが、馬はあまり眠らないものだと理解している。


 とりあえず、馬を酷に扱ったわけではないことを伝えて……みたところで、コアイはふと思い出した。

 彼女が馬を見たとき、初めて彼女を馬に乗せたとき……特に驚いた様子は見せなかった。


 そこでコアイは、彼女の住む世界にも同じような馬が生きているのだろうと考えて……


「えっと、馬もだけど」

「そなたの知る馬も、あまり眠らないだろう?」

 と、彼女に問い掛けてみたが……


「あ、そう言われてみるとよくわかんない……ってか、馬って……テレビでしか見たことなかったかも」

 彼女には上手く伝わらなかったらしい。


 また彼女の返答には、聞き覚えのない単語が含まれていた。

 それは何となく、『過去に実物を見たわけではない』という意味を含むのだとコアイは解釈したが……()()より深く、彼女がどうやって馬の存在を知ったのかは理解できなかった。

 人からの伝聞か、書物だろうか……という程度にしか。


「アハハ、まあなんつーか……今さらなんだけどさ」

 ともあれ彼女は一つ笑い飛ばして、豪快に酒を(あお)っていた。

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