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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第二章 焦がれる災禍、灼かれる敗者
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八 アイナキ触に、逃げられず

 隠し戸の先には梯子(はしご)が備えられており、下へ降りられる造りになっていた。コアイは老人に先行させ、同じように梯子を降る。そしてその先に拡がった、地下に掘られ整えられた道を歩きだした。


 すると時折女の悲鳴のような声が、稀に男のそれが混じったように聞こえてくる。その声は老人の案内に従って進むにつれ、確かに悲鳴だろうと感じられる程に鮮明さを帯びた。


 更に先へと進むと、扉の側に見張りらしき人間が立っているのが見えた。老人は慣れた風で人間に声を掛ける。


「ジェイムズ様は……お楽しみ中か?」

「あ、いえ、先程女を一人連れて天守塔へ向かわれました。大月を眺めながら楽しみたい、とかで」

「ふむ…………ぐッ」


「私を(たばか)ったな? 貴公」

 コアイの眼差しは冷たく鋭く老人を射抜き、コアイの精神(こころ)は老人に絡む血の(かせ)(やく)を命ずる。


「ぐ、わぐ……私も知らなかったのだ、済まない」

 老人はコアイの視線を受け止め、どこか(おそ)れとは異なるような目をしながら答えた。しかしコアイは直ぐには枷を緩めない。人間は狡賢(ずるがしこ)いものだと、認識しているから。


「が……ぁッ、ぐ……」

「ダ、ダイアル様!?」

「でん守塔……あ゛、案内しよう、私が居らねば入れ……ぬ」


「……虚言ではなさそうか」

 コアイは老人の絞首を緩めてやる。


 が、コアイの胸中には別の欲求が芽生えていた。



「その前に、この部屋の中を見ても良いか?」

 そうこうしている間にも、様々な悲鳴が耳に届いていた。それらがどうにも、コアイの心を惹きつける。


「ふむぅ、本来は客人にお見せするような……」

 その言葉を聞き返答した老人の目が僅かに笑ったように感じたが、コアイはそれを別段気には留めなかった。


「よろしい、説明いたそう」

 老人は見張りの男を下がらせ、分厚い扉を開いた────




「……これは何だ」

 扉の先にあったものは、コアイにとって異様としか言い表せない行為の姿であった。



「正直あまり褒められたものではなかろうが……主の願いたればそれを叶えるのは臣下の、また執事の務めと心得ておるゆえ」


 そこには翠魔族(すいまぞく)の男女と思しき者達が十人ほど、そして人間の男らしき者達が数人いた。人間達は概ね服を着、鞭のようなものを携えていたが、翠魔族の男女が身に着けているのは手や首の枷のみであった。


「御覧じられれば充分、みなまで言うまい。どうもエルフというのは人間と比べて『これ』に(うと)いらしく」

「エルフ達は気位が高い、人間に組み敷かれると……それを(うれ)えてか命を絶とうとする者が多い」


 説明の合間に、皮膚を(はた)く音と男の悲鳴が響いた。


「なれば、エルフ同士で『これ』に慣れさせ、好色の気がありそうな者を選び出して慰みに用いてみるかと」

「なるべく美しい男を選び出し、其奴(そやつ)に強壮剤を与えて強いることで……まずは慣れさせていく」


 再び、皮膚を叩く音と男の悲鳴が響く。音の出所に目を向けると、打たれた男は嗚咽を漏らしながら(ひざまず)いてしまっていた。


「早々に死を選ぶ者は減った、とはいえ……男も女も、色を好むようになる者は少ないようだ」


「……もう良い。天守塔とやらへ案内しろ」

 コアイには、それだけしか口に出来なかった。そのまま身を翻し、足早に立ち去ろうとした。




 目にした光景は、何故かおぞましかった。どの点についてそう感じたのか、はっきりとは分からないが。


 おぼろげな記憶のような認識だが、遠い昔にどこかで、あのように身体を重ねる者達を見ていたことがあった、そんな気がする。彼等が何者だったのか、何故それをただ見ていたのか……何故それを見ていたと思うのか、それは知る由もないが。



 そして、かの光景をおぞましく思うと同時に、ふと彼女の姿を思い浮かべて微かな熱量とむず痒さを感じた己を、自覚していた。




 地下へ来た時と同様老人に先導させ、地上へ戻る梯子を目指す。すると出入り口の梯子が見えた頃、梯子の辺りが明滅した。

 それを感じてか、明滅の後の僅かな間、彼の気配が弛んでいた。コアイは声をかけてみる。


「どうした? 何かあったのか」

「……いや、ただの定時連絡なのだが、何だか安心してなあ」


 そんな訳がないだろうと鼻で笑いつつも、コアイはそれ以上の詮索をしない。策の用意があるのなら、精々楽しませてもらおうとすら考えている。


 コアイはそんな風に考えながら地上へ戻り、老人の案内を受けて天守塔へと進んだが……建物のどこにも、入口が見当たらない。


「少し待ちたまえ」

 老人はそう言うと建物の壁に平手を付き、何かを(ささや)く。


 詠唱だろうか、それにしても何故こんな小声で呪を唱えるのか。人間はそれを好むものなのだろうか。

 漫然と様子を見ていると、壁と老人の手が淡く輝き出す。それから壁の輝きが拡がり、地面から背丈ほどの高さになったところで老人の声がはっきりと聞こえた。


「『蜃気楼(ザッパー)』……」


「ほう……」

 壁の輝いていた部分が、すっかり消え去っていた。


「進みたまえ」

「これまで通り、先を行け」


 老人はコアイの警戒したような答えを聞いて苦笑しながら、先に塔へ入る。そしてコアイへ向けて手招きし、二人ともが壁の内側へ進んだ時、老人は失笑した。



 二人の四方を、壁が包んでいた。

 具体的にどの部分が、とはあえて言いませんが……どの程度まで表記して良いものかと、少しの間悩んでいました。


 ま、必要に応じて改稿すれば良いか……

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