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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
289/313

彼女のために、伝えた言葉は

所用のため土日に更新できませんでした。

大変申し訳ありません

「ふむ……要は、皮の内側同士を合わせるのが肝要か」

 コアイは努めて平静に、切り株の面を指差しながらスノウに問いかける。


「かんよう……? えと、だいたいそんな感じってか、大事なことだね」

 彼女の答えには少し引っかかりがあったが、どうやら理解に問題はないらしい。


「分かった……では次は、()()部分が合わせられるように……」

 (ほう)けていてはいけない、彼女の知恵と時間を借りる以上は。

 少しでも、彼女の手を煩わせないように。


「まずは株の側から、合わせる部分を切り出そうか」

 コアイは短刀を手に、切り株のやや外側の面に狙いを定める。


 切り出すとは言ったが……幹を縦に切り落とすようにしてしまっては、持ってきた枝を合わせるには切り口が大きすぎるだろう。実際にはやや深く、株の面を彫るような感覚だろうか。


 彼女は、この短刀は然程切れが良くないと感じていたようだが……

 恐らく彼女は、短刀の扱いにあまり慣れていない。城で切れ味を確かめた際の手応えからすれば、刃渡りよりも細い幹を断つ、または面を彫ることくらいは可能なはず。

 なにより、今度は魔術を使うわけにもいかない。風刃の端だけを株の面に当てようとしても、それでも大きく切り過ぎてしまうことが容易く想像できる。


 さて、先ずは……彼女の言う、この円形に線を引かれたような色の部分の真上から刃を下ろして、後にその外側から斜めに刃を入れることで小枝を合わせられるように……



 コアイは一先(ひとま)ず、切り株の外周寄りに短刀を突き立ててみた。

 刃は思ったほど深く刺さらなかった。コアイは短刀を片手で持ったまま、柄の尻を掌で叩いて刃を押し込んでみる。


「おお、なんかテクっぽい!」

 彼女はコアイの様子を、技巧を感じると褒めているらしい。

 であれば、恐らく手際としては悪くないのだろう。

 コアイはそう捉えて、考えていた通りに切り口を彫ってみよう……と、短刀を切り株から抜く。

 そして次には、先に刃を突き立てた跡……穴の空いた所から少し外側、木の皮に近い部分から内向きに……斜に短刀を突き下ろす!


「次は、小枝の根元を削いで……差し込むんだったな」

「うん、今度もなるべく、色の違うとこが切り口になるように……ってのと、角度を同じくらいにね」


 小枝については、切り株よりも簡単に枝を削ぎ、形を整えられた。

 コアイは早速、小枝の先端を切り株に彫れた穴へ差し込んでみる。すると小枝は思った以上にぴったり切り株に納まり、遠目にはまるで株の切り口から新芽が生え出ているようにすら見えた。


「枝がグラグラしてるときは、ひもとかで固定したほうがいいらしいけど……これなら大丈夫かな、完成でーす!」

「なるほど、木と木を合わせた状態を維持する必要があるのか」

 コアイは彼女の知見を心に留めつつ、短刀を鞘に収めた。


「立ってばかりで疲れただろう、一度座ると良い」

 二人は切り株の一つを椅子代わりにして、少し休むことにした。


「これで一本、『接ぎ木』できたな……出来栄えはどうだ?」

「んー、たぶんいい感じ。王サマかっこいー」

 スノウは接ぎ木の出来に満足しているらしい、が……それにしては少し締まりがない、にたりとした笑顔に見えた。


「ならばこれを繰り返せば良い、ということか」

 彼女の表情は兎も角、大まかには要領を得たか……とコアイは実感する。


 それであれば、このような場所に彼女を長居させることはない。此処(ここ)では、一人で作業を済ませよう。

 彼女と過ごすのは、此処で一仕事終えてから……城に帰るなり他の城市へ入るなり、場を改めてからで良い。

 そのほうが、彼女を愉しませてやれる。


 そのほうが、二人あたたかく過ごせる。

 面倒事などは、私一人で済ませば良い。


「では……そなたを一旦送り返して、あとは私がやっておこう」

 コアイは考えた通り、彼女を一度本来の世界へ帰らせようと提案した。

 しかし……


「え?」

 それを聞いた途端、彼女は眉を寄せコアイをじとりと睨みつける。


「なに、用が終わったからもう帰れ、って? ヒドくない?」

 一度帰れ、というのが不満らしい。

 コアイは全身を彼女に向けて、弁明しようとする。


「せっかく一緒に工作して、いいふんいきなのに……」

 が……先手を打たれたか、彼女は()ぐさま立ち上がってコアイへ近付き、両手の指を絡めていた。

 コアイはそれには抗わず、首を少し下げて彼女へ目と意識を向ける。


「し、しかし……こんな、何もないところでは」

 彼女を(もてな)せない。

 そうとまでは、言わせてくれなかった。彼女がコアイの唇を塞ぐのが、()()よりも早かった。


 眼前で何かが弾けたような心地がして、目が(くら)む。

 全身を何かが走ったような心地がして、身が浮つく。


「なんもない? そんなことないよ」

 彼女は唇を離して、コアイに寄り添おうと力を込めた……らしい。

 しかし心身を浮つかせていたコアイは、彼女を支えられるだけの力を込められず、彼女に押し倒されてしまった。


 絡め取られた指先に、かかる力が強まる。


「王サマがいるよ、ほら、わたしもいるよ」


 目の前に、手指の先に、身体の真上に……確かに、彼女はいる。

 彼女からしても、同じように……彼女の()ぐ側にコアイがいる。


 確かに、コアイにとっては……彼女が存在するだけで、それで。

 けれど、それで満足だろうとは……彼女に言えることではない。


 コアイは何も応えられず、伸しかかった彼女の重みを感じている。

 加えて、指先に絡む指。それとあと、彼女の存在のあたたかさを。


「まあ、たしかにここじゃご飯もお酒もなさそうだけど……」

 唇が触れる。


「せっかく二人きりなのに」

 唇が離れて、また触れる。押し付けられる。


「ご飯前くらい……少しなら、いいでしょ?」

 唇が離れて、また触れる。それとは別の、熱く柔らかな部分が押し入ってくる。


「……さっきのお返しもしなきゃだし」

 唇が離れて、また触れたあとは……(しばら)く離れなかった、と思う。

 もはや、はっきりとは判らなかったが。



 ひんやりと冷たく湿気た地面と、じんわりと熱く湿気た彼女に挟まれて。

 何度も唇を重ねてくる彼女に、胸の内をすっかり焦がされながら……それがとても心地好いのを、コアイははっきり自覚していた。

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