表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
283/313

彼女のために、彼女に乞いて

 私は、教えられてばかりだ。

 私は、与えられてばかりだ。


 過去、というより彼女を除いて……

 誰かへ一方的に面倒を押し付けたり、大した理由もなく物品を奪ったり、約束を違えたり……それ等を気に病んだ記憶はない。

 けれども何故か、彼女にだけは何時(いつ)でも……申し訳ないというか、それでは駄目なのだと感じている。

 初めて出逢った、あの時からそうだった。

 口約束とも言えぬほど軽い、頼まれ事すら……為さねばならないと素直に感じていた。


 私の心は、彼女を大切に……それ以上に、彼女のために、彼女を喜ばせるために存在していたい。

 そう私の心が望んでいるからなのだろう。

 今なら、それが解る。


 だから今は、教えられて、与えられてばかりでも……それでも。頼らせてもらおう。

 その先に、彼女が喜んでくれる日が来ることを信じて。



 コアイには、一つ悩みがあった。

 先日、領地の南側……未開の森林を探索して、持ち帰った二本の樹木。

 アンゲル大公フェデリコから頼まれた、白く輝く糸を手に入れるために必要らしい樹木。

 南の大森林で何とか見つけ出し、持ち帰ったのは良いものの……二本では足りぬかもしれない、と。


 しかし、かの樹木を大公たち人間の手で()やすことは困難だという。

 となれば、もう一度取りに行くしかない、が……

 今回、一度(ひとたび)樹木を持ち帰るのにも、一月以上の時を要していたらしい。

 こんなことを何度も繰り返していたら、一年、いや何年かかることやら。

 白糸を集めて布地を得て、それを元に衣装を仕立ててスノウへ贈る、それまでに何年かかることやら。


 もちろん、他に手立てが無いのなら……コアイはそれを(いと)わない。

 ただ、コアイが構わぬと言っても……彼女を長く待たせてしまう。

 それでは、彼女に申し訳ない。


 なれば何とか、打つ手が無いものか……と考えたとき、最も頼れそうなのはスノウだろうと考えられた。

 彼女の持つ異界の知識、あるいは発想……



「そなたなら……教えてくれるかもしれない」

「うん? 何のこと?」

「私はいま、大公に頼まれて木を集めている」

 コアイは、その理由までは彼女に言わないつもりでいる。

 もし()かれたら、答えてしまいそうな気がしつつ。


「うん、それで王サマ、ワイルド系ってコト?」

 しかし彼女の応えは、コアイから感じたらしい雰囲気についての言葉だった。


「いや、それは分からないが……どうも集めてきた木では足りないのだ」

「じゃあ、ふやせないかな? 苗とかでさ」

 殖やす、という発想は彼女にとって自然なものらしい。

 やはり彼女に(たず)ねたのは良かった……のだろうか?


「種とか苗もない系?」

「種からは上手く育たない、と聞いている」

「そっか、うーん……」

 彼女は首を(かし)げていた。

 その様子はどこか、大きく曲がった花の茎のように思えて……と、そんな印象をかき消す音が寝室に響いた。


「陛下、お呼びでしょうか?」

 外からコツコツと戸を叩きながら、女の声が届く。


「料理を用意して、持って来てほしい」

 コアイは戸の向こうへも聞こえるよう、意識して少し声を張って呼びかけた。


「かしこまりました」

 答えのあと、戸の向こうから気配が消える。

 それを感じて、コアイはスノウへ向き直した。


一先(ひとま)ず食事でも取ろう」

「そだね、ありがとう」

 彼女はそう言って、にっこりと笑う。

 その様子はどこか、咲き誇る一輪の花のように思えて……


 (しばら)くのち、そんな印象を忘れさせる音が寝室に響いた。


「陛下、まずは急ぎサラダをお持ちしました」

 コアイは戸を開けて一皿を受け取り、卓の一席に移り腰を下ろした。


「これでは足りぬかもしれんが、食べるといい」

 コアイの声と手招きに応じて、彼女が卓へ寄ってくる……


「あ、そうだ王サマ」

 彼女は卓上の一皿、菜ものに添えられた一輪……薄紅の花に注目しているらしい。


「桜って知ってる?」

 花一輪に視線を向けたままそう言って、彼女は席に着いた。


 コアイには、それが花の名であることだけが伝わっていた。


「そなたは、その花が好きなのか」

「あーまあ好きだけど、それよりちょっと思い出してさ」

 コアイは何となく(たず)ねていたが、どうやら彼女には何かしらの知見が浮かんでいる。


「桜って木があってさ、たしか桜って接ぎ木でふやすんだよ。聞いたことある」

「つぎ……き?」

 彼女はコアイの知らぬ言葉を口にしていた。コアイが持ち帰った木をアクドに見せたときと同じように。


 コアイもまた、そのときと同じように鸚鵡(おうむ)返ししていた。

 つぎき……木を殖やすための、コアイの知らぬ技法であろうか。


 そんな(すべ)を、彼女は知っているのか。


「子供のころ、桜の木がほしくてさくらんぼの種を植えてたんだけど……ぜんぜん育たなくって」

 と、何時の間にか彼女は苦笑いしていた。その理由は、コアイにはまるで分からないが。


「王サマが集めてる木も、接ぎ木したらふやせないかな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ