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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
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彼女のために、夜を奔る

 コアイの持ち帰った木は……その方法こそ万全ではなかったようだが、木の状態には問題ないらしい。


「よし、とりあえず早めに植え直してやろうぜ」

「植えなおす……此処(ここ)にか?」

 コアイが持ち帰った木を、植え直してやろうとアクドが言う。

 アクドはどうやら、樹木についてコアイの知らぬ知識をいくつも持っているらしい。

 それであれば、任せておけば良いだろう。

 コアイは疑問に思いつつも、大筋ではアクドの言に従うことにした。


「すまんが王様は少し待っててくれ、おいチャル」

 アクドは一度コアイに頭を下げてから、村でコアイを待っていた若者へ顔を向ける。


(すき)の置き場所は覚えてるよな? 取ってこい。俺は村長(むらおさ)に話をしてくる」

「わかりました」

 コアイは特に口を挟まず、村の中央へ走る大男と村の端のあたりへ歩く若者……僅かに異なる方向へ進む二人を黙って見送った。



 (しばら)くして、先に大男アクドが戻ってきた。


「すまん王様、ここには植えないほうがいいらしい。場所を教えてもらったから、そっちへ行こう」

「場所の良し悪しがあるのか」

「ああ……ここらは春先になると風が強くなるから、村の中にしとけってよ」


 それについては理解した、だがあの若者を待たなくても良いのか?

 とは考えたが、それをコアイが問う前に


「アクドさーん、持ってきましたよ」

 アクドより更に後方……遠目には得物にも見える、棒状のものを手にした人影がゆっくり近付いてきた。


「いや、そっち行くから待ってろ」

 アクドが人影に向けて声を掛けてから、二本の木を拾い上げた。

 そして木々を手に村のほうへ向かうのを見て、コアイも続いた。


「ってチャル、なんでお前一丁しか持ってこないんだよ」

 歩を進めて若者と合流して、早々にアクドが注文を付けていた。


「いやだって、アクドさん一人で掘っても、俺が手伝っても……そんな時間変わらないはずですよ」

「それはそうかもしれねえがよ……そんなだからお前は……」

 アクドは口答えした若者に視線を向け、何やら嘆息していた。

 若者に反論されたことが理由なのか、そうではないのか……コアイにはその理由が良く分からないが。


「よし決めた、チャルお前一人で掘れ」

「えっ!? なんで……」

「少しは体も鍛えられんだろ」

「ええ……」


 コアイは前を行く二人の話を聞き流しながら後を追った。

 追っていくと、やがて二人は村の奥へ入っていき……小屋の手前で足を止めた。小屋の横には小さな畑のように区切られた、雑草の生えた一角がある。


「ここを使っていいそうだ」

「ここ? 大丈夫なんですか?」

「金貨を一枚渡して、見張りや水やりを頼んである。とりあえずお前は草をすきこめ……あ、そうだ王様」

 存在を思い出したかのように、アクドが急にコアイへ向き直した。


「この木の生えてた近くに、水場はあったかい? それか、湿り気が強かったり……」

「水場は近くなかった、湿気た感じも特になかった」

 道中こそ湿気ていたが、この木が生えていた辺りは普通の……コアイの想像する森に似た場所だった。近くに湧き水もなかった(はず)

 それが、どうかしたのだろうか。


「わかった、それなら五日くらい雨が降らなければ……ってとこかな」

「降らなければ?」

「木の周りに水をまいてもらうのさ」


 そのほか、木を植える際のコツをいくつかアクドから聞いた。

 それを話題にしながら、若者が十分に地面を耕し、のち穴を掘って土を横に除けるのを待つ……



「アクドさん……俺、もう疲れました……」

「んだよだらしねえな……まあ、がんばったか。お疲れさん」

 夕暮れ、既に辺りは暗くなっていたが……鋤で解された土が除けられて空いた穴に、アクドが木の根を据えている。


「本当は、耕した土を少し寝かせたほうがいいんだけどな」

 そう、コアイに向けているのか独り言なのか分かり辛い物言いをしながら……アクドは鋤を地面と平行に動かして、除けてあった盛り土を鋤の面で払うように器用に木の根へ被せていく。

 その()ぐ横で倒れ込んでいた若者には、鋤の面も土も当たらないように上手く避けながら。


「まあ今回は、早く植えてやったほうがいいだろう」

 先ほど若者が長々と地を耕していたのとは対照的に、アクドはあっという間に二本の木を植え付けてみせた。


「日が暮れたからか? 灯りが必要だったか」

「あーいや、そっちは大丈夫だ。遅くなるようなら手を出してたさ」

「そうか、ならば良い」



 夜になって、三人は空き小屋で質素な食事を囲んでいた。

 といっても、コアイは食事に手を付けない。

 もちろん、食事の内容が気に入らぬというわけではない……単に、その必要がないから。


「あれ、コアイ様は……?」

「ああ気にしなくていいよ、疲れたろうからお前食っとけ」

 いちいち説明するのも面倒だったが、アクドのおかげでその手間は省けた。


「そうだ、王様」

 と、菜物の塩漬けを(かじ)っていたアクドが、ふとコアイへ顔を向ける。


「どうした、何か用か」

「もし急ぎなら、すぐ馬を用意するが……どうする? 王様なら、夜駆けも苦じゃないだろう?」

 アクドは乗馬を用意できる、と言うが……


「車を()かせなくて良いのか」

 確か、アクドがこの村へ来た時……馬車は一頭立てだった。

 その馬をコアイが連れて行ったら、車を曳く馬がいなくなるのではないか。


「近くの街にもう一頭預けてあるから、そいつを取りに行くだけさ。それに」

「それに?」

「少しでも早く城に戻って、伯父貴(おじき)に大公さんへの手紙を書いてもらったほうがいいと思う」


 大公フェデリコとのやり取りには、どんなに急いでも一月以上かかる。なればこそ、なるべく急いだほうが得策ではないか……というのがアクドの考えらしい。


「そのくらい経てば、木のほうも今よりだいぶ元気になるだろうよ。世話はここの村長に頼んであるしな」




 コアイは帰路を東に、急ぎ馬を駆けさせていた。

 されど、何時(いつ)ともなしに……コアイの脳裏で、その理由は()り替わっていた。


 早く帰れば、その分だけ早く彼女に逢える……と。

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