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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
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彼女のために、少しずつ

 知らぬ間に、夢でも見ていたのだろうか。

 胸元に彼女の温もりが残っているようで、それが目覚めと共にかき消えたようで。


「少し待て」

 その温もりを忘れさせた雑な声に少し苛立ちながら、コアイは身体を起こす。

 起き上がって、着衣に乱れなどがないことだけ確かめて……寝室の戸を開こうと近付いた。


「おはようございます、陛下……ってな」

「ああ……? 何か用か」

 戸を開けた先から、よく聞く野太い声には不似合いな台詞が届いた。

 コアイはやや引っかかりを感じたが、気を取り直し用件を尋ねる。


「今日は王様に、かの地のことを調べてもらおうと思ったんだが……」

「そうだったな」

 この街……シャッタールに来た理由は、南の大森林を探索するための足がかりとなるであろう領内最南端の村落について聞き込むため。

 昨日はアクドが、今日はコアイが街へ聞き込みに行こう……という予定でいた。


「けど、俺もさっきまでそう思ってたんだが……今日も俺が行ったほうが早いんじゃねぇかって」

 しかし予定は変えて、昨日同様自分が聞き込みに行こう……とアクドは言う。


「貴様のほうが向いている、か」

 コアイは素直に考えたまま口にしていた。

 確かに、コアイ自身知らぬ者と対話するのはあまり好きでないし、まして他人に何かを問う……のは不得手だと思っている。


「ま、まあそれもあるけども……よく考えたら、昨日聞いた話の続きでって流れに持ってくほうがやりやすいかなって」

 アクドは、コアイには聞き取り調査はあまり向いていない……という意味を否定しなかった。やや無礼な物言いかもしれないが、コアイは特に気にしない。


「そうか……それなら私は寝ていても良いか」

「それでもいいけどよ、せっかくなら街で買い物でもしてきたらどうだ?」

「買い物……この街に敢えて求める程の品があるのか?」

 ならば、と……今度も宿に引き篭もりそうになったコアイを、アクドの勧めが引き留める。


「ああ、この街……人は少ないように見えるかもしれないが、モノの行き来が多くて商人が多いんだ」

「商人……」

「ここじゃ暇だろ? お嬢ちゃんが喜びそうなモノでも探してみたらどうだい」


 お嬢ちゃん……スノウが、喜びそうな物……か。

 贈り物……宝石が良いだろうか、それとも佳酒でも探そうか。

 それは良い。彼女のため、今日は外に出ようか。


「今日は天気もいいし、部屋ん中にいたらもったいないぜ」

「それはどうでも良い、だが街には出てみようか」

「そうしな、南の村の話は俺が聞いておくから、王様は気にせずに遊んできなよ」


 遊び……ではない、そう考えているのだが。



「ならば、村落の件は貴様に任せよう。何日必要か」

「一日、二日もあれば十分だろ。商人が多いだけあって、地理に詳しいヤツが何人もいるみたいだからな」




 コアイはアクドを見送ったのち、金貨数枚を持って街中へ繰り出してみることにした。

 アクドが言っていたとおり、大通りを行き交う人の数は他所よりも少ないように思える。

 そのせいもあってか、屋台や露店の姿はなく……何かを売り買いしている様子は見えない。


 昔、城下町の露店で宝飾品を買ったことがあるが……そのような場は見当たらない。

 これでは、物を買うという以前の問題ではないか……?


 コアイは街中を歩いているうちに疑問を抱き……ふと見つけた酒場に一先(ひとま)ず入ってみた。



「……いらっしゃい」

 酒場の中にいた男は、コアイを見て何か思う所があったかのような……一拍の間の後に奥の席へ招き入れた。


「酒と飯……この辺りの名物はあるか」

 コアイは給仕らしき男に献立を任せてみる。


 もしかしたら、彼女が喜びそうな味、香りの酒や料理が出てくるかもしれない。

 それであれば、此処(ここ)で彼女を()んで、酒食を饗するのも良さそうだが……


 結果、そんなコアイに都合の良い品々は出てこなかった。

 料理はやけに提供の早いスープと薄切りの干し肉が添えられた(かゆ)、それと果物が数個……いずれもスノウが満足そうにしていた料理とは異なる風味の、微温(ぬる)く穏やかな味のものであった。酒もやはり彼女の好みではなさそうな、水のように淡い味わいで……


 これ等は、時間を惜しんで忙しく働く商人の朝、昼の食事として……手早く準備でき、消化がよく、食欲のないときでもスッと飲み込め、また猫舌の者でも急いで食べられるようにわざと冷ましてある……シャッタールの商人たちの伝統食が転じた、この街の名物であった。

 ……のだが、そんなことを知らないコアイにとっては……単に彼女の好みに合わなさそうな料理でしかない。


 それでも、給仕から宝飾品店の話を聞けたことで宝石をあしらった銀の襟留めと、花を象ったらしき髪留めを手に入れることができた。

 その点で、この酒場を訪れた甲斐はあった。料理には不満だったが。


 その他にも、コアイはあちこちと街中を散策し……さほど満足ではなかったが、アクドの聞き取り調査が済むのを退屈せず待てる程度には意義のある時間を過ごすことができた。


 それに、スノウへの贈り物も得られた。


 ……彼女は喜んでくれるだろうか。喜んでくれると、いいな。



 コアイは寝室にあって、つい顔がにやけてしまうのを自覚しながら、それを止められずに……贈り物を懐にしまい込む。

 すると懐の周りがとてもあたたかいように感じて……一層にやけてしまう。



「おーい、王様〜」

 妨げる雑音。


「おーい、今ちょっと話せるか〜?」

 可愛げなど見出しようもない野太い声と、戸を叩く音。


 コアイは仕方なく、アクドの呼びかけに応えようとする。

 それでも、彼女の温もりが懐に少し残っていて……

 前回投稿分に酷いミスを見つけてこっそり修正……

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