表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
265/313

逢えなくても、私はいつでも

「遠路はるばるお越しいただき、まこと恐悦至極」

 堅苦しい言葉を吐き切ってから、大公フェデリコは立ち上がる。

 コアイはそんな大公の様子を、少し面倒に思いながら眺めていた。


「と、挨拶はこのくらいにして……早速本題に入りたいが、宜しいか」

「勿論だ」

 大公の頼みを聞いてやる、そのために此処(ここ)まで来たのだから当然のこと。

 コアイは応えつつ、大公へ歩み寄る。


「有難い、ではこちらへ来てくれ」

 と、大公のほうはコアイへ近付くのではなく、右手に置かれたテーブルへ逸れていった。

 コアイも大公に合わせて、テーブル側へ足を向ける。テーブルに近付くと、紙が何枚か置かれているのが見えた。


「ある程度は、手紙にも記しておいたが……まずはこれを見てくれ」

 大公がテーブルの上の紙のうち一枚を取り出して、コアイに手渡した。

 そこには、規則的にうねりながら三叉に分かれたような葉が描かれている。


「この葉と、この葉を付ける若木が欲しい」

「若木?」

「この葉とその若木が、コアイ王の求める白糸……モリモスの生産に必要なのだ」


 葉?

 確か、あの白糸は虫を使って生み出すものだと……


 コアイが居城を発つ前にソディから聞いた話では、虫から採れるものと聞いていた。


「白糸……虫を使って生み出すと聞いているが」

「ああ……ツムギモリに葉と若木を与えると、白い膜……白糸の元を作るようになるのだが、あの虫はなぜかこの絵の葉しか食おうとしないのだ」


 と、大公の話を聞いて思い出した。

 白糸を増産するためには、何かの苗木が必要だという話も居城で聞いていたことを。


「しかしこの葉をつける木は……我らの住む地には生えておらんのだ。花を付けさせて種を得て、苗を育てようともしているのだが上手くいかなくてな」

「南の森には、これが生えているというのか?」

 コアイは手渡された絵を見て、大公に問いかけるが……

 それよりも、絵の拙さが気になった。


 ……スノウから貰える絵とは比べようもなく、鮮やかでも細やかでもない。

 この程度の絵を頼りに葉、木を探すなど……可能だろうか?


「うむ……古い文献に、タブリス南の森林の先で自生している樹を運んできたという話が見つかっている。それで、私も何度か調査隊を組んで向かわせたことがある……だが」

 大公はコアイへ語りかけながら、何時(いつ)しか別の紙切れを手にしている。


「森の中に水はけの悪い地が点在しているのか、あちこちに深い沼があるらしく……我らでは越えられんのだ」

 大公は手にした別の紙切れをコアイに示した。

 そこにはタブリス領らしき地図が描かれているが、南の森の半ば一帯が黒く塗りつぶされている。


「私の欲と好奇心で、将来有望な騎士を何人も……いや、私に従う者を何十、百いくつと死なせてしまった」

 大公は(うつむ)いて、首を横に振っている。


「……私ならそこを越えられる、とでも言いたいのか」

 コアイは別段不快には思わなかったが、疑問ではあった。


 確かに、おそらくコアイ一人であれば問題はない。

 沼に足を取られて沈みそうになったことを感知できれば、遅れずに周囲の空間……気相を維持して、あとはゆっくり()い出せばよい。


 大公は、それを知っているのか? 何故?


「『狭門(アースゲイター)』と呼ばれる魔術をご存知か?」

 と、大公の発した単語は……聞き覚えのあるようなものだった。


「地面に深い割れ目を作り出し、対象をそこに飲み込ませる危険な魔術なのだが……王は以前、その魔術を受けて生還したことがあるはずだ」

 魔術で地割れに落とされた……二度あった気がする。

 一度は人間の騎士に、もう一度は『神の(しもべ)』と呼ばれていた女に。


「昔、王にあの魔術を使ったとアライアから聞いていてな。それで生きているのだから、森の沼地も問題なく抜けられるはずだ」


 アライア……『神の僕』のほうか。


「なるほど……そういえば、南の森は翠魔族(エルフ)も立ち寄らないと聞いている」

 話の流れとはあまり関係がないのだが、ふとコアイは思い出した。タブリス南の森は、ソディ達も立ち入らないという話を。


 森を熟知する彼等が近寄らぬのなら、それなりに危険な地なのだろう。

 であれば尚更、人間になど任せてはおけぬ……か。


 早くかの白糸を手に入れて、スノウにあの美しい衣装を……万難を排してでも。



「ともかく、かの地を抜けて、その先で樹木を見つけて……運び出してほしいのだ。もちろん謝礼は弾むつもりだ、来年の収獲分はすべて無償でお譲りする。またその後も……足の出ない額でなら、王が望まれるだけお売りいたす」

「詳しい話はソディ殿と(まと)めておいてほしい、私はその木を探しに行く」

 コアイには、大公の申し出を断る理由はない。

 むしろ、それが白糸を得るための障害だというならば……何としてでも排しておきたい。


 すべて、彼女のために。

 それがコアイの目的(いきがい)だから。


「まこと、有難い。コアイ王は欲しい分の白糸を早くに得て、私も白糸増産の目処を付けられる……双方に利のある話のはずだ、上手くいくよう心から願っている」

 大公は(ひざまず)き、深々と頭を下げていた。




 大公との会談を終えたコアイは早速、タブリス領まで戻ることにした。

 大公から貰った……目的の木を示す葉の絵と、木の根の掘り返し方、運び方について描かれた絵を携えて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ