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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
263/313

待ちくたびれそうな、私

 遅れてすみません。言い訳はしない。


 ん……そういえば、この街は……


 馬上、目的地サラクリートの城壁を眼前に捉えたところでコアイはあることを思い出していた。

 コアイは前回の旅でも、一人この街に立ち寄っているが……そのとき、魔術による攻撃らしきものを受けた。



 術者の魔力を感知できぬほど遠く離れた場所から、数日続けて、コアイに魔術……雰囲気中の魔力への意図的な作用を察知させることすらなく、軽く出血させて……

 それを受けたコアイは微かに身体が(だる)い、腰のあたりが重いと感じた程度でその効用こそ小さく、集団戦の援護にもならない程度の攻撃ではあったが……


 初めてだった。自ら肉を裂いた、あるいは身体を切られた自覚もなしに血が流れたのは。


 久しぶりに、闘志が(たぎ)った。長い生涯でも覚えのないほどの技巧の持ち主がいることに。

 だから待ってみた。その魔術が止むか、何処(どこ)かに潜む術者を見つけ討ち取るかの根比べ。

 何日か、宿の一室に(こも)って待ち構え続けた。魔術が止むか、魔力の(ほころ)びを捉えられるか……


 結局このときは、五日ほど篭っているうちに魔術が止んでいて……出血も軽い怠さも、すっかり無くなっていた。あれ以降、似たような攻撃を受けたこと、同じような傷害を負ったことはない。

 その魔術を仕掛けたらしき輩についても、未だ分からずじまい。


 この街を離れ、次の商業都市パルミュールへ向かう頃には何の手がかりもなく、実害もなく……辿り着いたパルミュールでスノウを()び、共に過ごした後には意識することもなかった。



 コアイはすっかり忘れかけていた、懸念すべき事柄を久々に思い出し……馬を城門へ歩ませつつ思案を巡らせる。


 この街の中で、また同じような攻撃を受けることが……あるかもしれない。

 もしかしたら此処は、大公と会うのに良い地ではないのかもしれない?

 いや、大公とは一人で会うから……問題はないか。前回よりも強力な魔術で攻撃されなければ。

 それに、前回よりも強力な魔術で私を狙うなら……その操作や魔力の源泉……術者の居所を捉えられる可能性が高いはず。


 私一人でいるなら、問題はないと思う……

 どのみち今回は、先に大公と会って話をするまでは……スノウを喚ぶつもりもないが。

 ……いや、また何者かの魔術を受ける可能性があるなら……大公と会った後であっても、この街では避けておこう。

 

 しかし、大公はこの街に着いているのだろうか?

 まだ来ていないなら、(しばら)く待つことになるが……

 彼女を喚べない街で、あまり長く待ちたくもない。


 ああ、こんなことなら……此処(ここ)へ来る前にもう一度彼女を喚んでおくんだったか。

 あの橋を渡る前後に、小屋に立ち寄ってでも……彼女に逢っておくべきだったか。



 ……などと一人後悔しだしたコアイの思考を、その外から響く他人の声が止めた。


「おい、この街に何か用か?」

 気付くと、コアイを乗せた馬は城門の直前まで進んでいた。

 城門の側で腰を下ろしていた男がそう声をかけてから、立ち上がりコアイへ数歩近寄ってきた。


「この街に数日留まるつもりだ」

 つい先程まで他事を考えていて、あまり思考に余力がないコアイは簡潔に応えた。

 コアイの答えを聞いてか聞かずか、男はコアイへ更に近付いてくる。


「あ〜いや、留まるってのは理由じゃないだろ……街に留まって、何をしたいかが問題だ」

 どうやらちゃんと答えを聞いていたらしい。男は言葉を返しながら、コアイと数歩の距離で立ち止まった。

 鞘に納めた剣を腰に()いているようだが、そこへ手をかける様子はない。


「この街で人に会う約束をしている……この街で落ち合おうと、手紙で連絡をしてある」

 男の返しに納得したコアイは、少し補足を加えた。

 ただ、その相手が大公フェデリコであることは伏せて。


「……そうか」

 男はそれ以上問うことなく、コアイの全身と馬の荷へ一通り視線を向けた。


「大仰な得物は持ってない、か……まあいいだろう、宿の場所は分かるか?」

 男はふと、コアイが実戦的な武器を携えていないことを確かめた……らしきことを口走った。

 城門前で、不審な者の入りを監視しているのだろうか。


 しかし、コアイからすればその監視は不十分だと思えてならない。

 通常、武具を携えていないなら兵としては不足だろう。しかし魔力を(そな)えた、魔術士なら……荒事をこなすのに武装は必須でない。

 コアイほどの力があれば言うまでもないが、そうでない者でも……一端の魔術士が数人いれば、丸腰でも十分に兵力として働ける。


「泊まりたいが、宿の場所をよく覚えていない。城門の先の二本目の辻を左、だったか?」

 と言っても、そんなことはコアイには関係ない。

 さっさと宿を取り、少し休んだのち大公の居所を探す……それ以外に、此処で為すべきことはないのだから。


「いや、右だな。サラクリートへようこそ、旅人さん」



 コアイは訪問を妨げられることもなく、首尾よく宿を押さえられた。

 が、街を歩き回っても大公の姿は見つからなかった。此処へは、コアイが先に着いたらしい。

 となれば、暫くは街で大公の到着を待つよりほかない……コアイは日に何度か街中の市場、酒場の多い区画を歩き回って、時折道に迷いながら散策してみた。


 結果、あまりスノウが好みそうな街でもなさそうだと落胆しながら……大公の到着まで十日ほど、意義の薄い日々を過ごすこととなった。

 枯れてきたのだろうか?

 いやまだ花開いてもないって

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