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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
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待つだけ、じゃないの

 面倒なことだ。

 何の用かは知らぬが……大公からの用なら、私の出る幕などなさそうだが。

 何時(いつ)ものように、ソディ達で処理してくれれば良いものを。



 コアイは大公フェデリコからの親書を内心、気怠く感じていたが……ソディから差し出されていた小綺麗な箱を受け取らないでいると、


「陛下、どうぞご一読くだされ」

 ソディは更に半歩ほど、コアイの側へ箱を押し出してきた。

 手を出しつつも、目元口元に深く(しわ)の寄った笑顔に変わりはない。

 手紙を読む程の手間、大した理由もなく拒み続けるものでもない。


 コアイは仕方なく、箱を受け取って手紙を取り出し……広げて読んでみる。



『神の御心に於いて、神の御手に依りて大公の位に在りしフェデリコより、心書の状をお送りいたす。


 ……と、一国の王に対して、王の後見人に過ぎぬ私からこう述べるのは失礼かもしれぬが……堅苦しい文言は理解を妨げかねぬ故、ここまでとさせていただければと思う。


 さて、本題だが……今年になってコアイ王や大臣ソディ殿がお求めになっている白糸「モリモス」、あれをもっと多く融通するために、コアイ王のお力をお借りしたいと考えている。


 本来であれば、ソディ殿を通じて依頼すべきことかもしれない。だが、どうか無礼を許してほしい。

 というのも、どうもソディ殿は……先日お会いしてモリモスを渡したとき、普段の柔和さとは似つかぬ、強張ったような雰囲気をまとっていた。

 ソディ殿の感性なのか、はたまたエルフに共通した性質故なのかは分からぬが……ともかくソディ殿は、モリモスについてあまり快く思っていないように見受けられる。

 そのため、モリモスの増産について彼に頼みごとをするのはどうも気が引ける。そこで、コアイ王に直接お願いしたく、筆を取った次第。


 それは、まさにコアイ王こそ適任というか、私には他に頼れそうな者が思いつかない……』


 ……こんな話がまだ続くのか……


 

 手紙を読んでやろうとはしたものの、結局……コアイは大公の手紙を途中まで、おそらく半分も読んでいないうちに煩わしく感じてしまった。

 それが視線に伝わり、理解をぼやかす。手先に伝わり、指を止める。


「陛下……いかがなさいましたかな?」

 そんなコアイに、老人ソディが声をかけてきた。側でコアイの変調を感じたのだろう。


「話が長くて面倒になってきた」

 コアイは手紙をソディへ差し出しながら、読むのを止めてしまった辺りの文字を指差す。


此処(ここ)まで読んでも、何を言いたいのか伝わってこない」

 そう言い切って、ソディへ目を向けると……コアイへ手紙を渡したときよりも少し崩れた笑顔を作っていた。


「それは……どうか、ご容赦くださいませ。話が長いのは、(わし)も似たようなものですからな」

「……ならば似た者同士の(ふみ)を読んで、話をまとめてほしい」

 コアイは苦笑めいた笑顔を見せるソディにますます意気を(くじ)かれ、はらりと手紙を落としてしまった。


「おっと……よいのですか? 公式の親書としては扱われてなさそうですが、まずは陛下が……とのことですぞ」

 ソディは手紙を拾い上げる。そこに顔は向いているが、文面に目をやったかまでは分からない。


「私はもう読んだ、貴殿は読むなと言われているわけでもなかろう?」

「承知いたしました、陛下がそう(おっしゃ)るなら代わりましょう」




 ソディが大公の手紙を詰まることもなく、淀みなく読み上げている。

 コアイは手紙の上下左右に視線を動かすソディの様子を見ながら、読み上げられる文言を黙って聞いている。


「『アンゲル大公 フェデリコ・パライオ・コムーネ・アンゲル』と……ふう」



「これで終わりですな……本当に長い手紙でした、喉が枯れてしまいそうです」

 手紙の要約を託したときと同じような、苦笑い。


「しかし、大公殿下……よく人を見ておいでですな」

 しかし、苦笑いの中に微かな差異……目の奥が笑っていない。


「そういえば、貴殿が白糸の話を不快と感じているかも……と書いてあったか」

 確かに、そんなことが書いてあった……その辺りまでの文面は、コアイも集中力を切らさず読めていた。


「儂らが行うには辛い製法、という話は以前いたしましたな」

「聞いた覚えがある」

「あの糸は、製法の都合で……元となる白い膜を張る虫を、機を見て焼き殺す必要があり……そうせねば、糸がほとんど取れなくなるそうなのです」

「虫? を、殺す?」

「集めた膜入りの虫を、外側が焦げぬ程度の熱がかかるように(かま)(あぶ)り、膜の中で眠る虫だけを熱で殺す……そうせねば、後に目覚めた虫が膜を食ってしまうのだとか」


 どうやら、かの白糸は虫を使って生み出すもので……それを多く殺すことで得られるものらしい。

 この話、スノウには伏せておいたほうが良いだろうか……


 コアイは白糸についての説明を聞いて、彼女が嫌な気分にならないかと……ついスノウの心配をしてしまっていた。


「ああ、失礼いたしました……話が逸れてしまいましたな」

 と、そんなコアイをよそにソディは冷静に立ち返る。


「手紙の内容は……大公殿下が言うには、タブリス領南の森……我らも足を踏み入れぬ森があるのですが、そこを陛下に探索してほしいようです」

「探索?」

「かの森に、例の白糸を増産するために必要な苗木が生えているらしい……とのことです」

「わかった、行こう」

 コアイは思わず立ち上がっていた。何の思考もなしに、何の意識もなしに。

 5年間も連載しているという事実を目にしてしまい震えています……

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