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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
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ひとりでも、待つの

 大変遅くなりました。申し訳ありません。

 長く旅をしてきた反動なのか……コアイは数日間寝室から出るのも億劫(おっくう)に感じて、(ほとん)どの時間をベッドの上で過ごしていた。


 ベッドの上で、コアイは熟睡するわけでもなく……

 寝返りを打ってみたり、上掛けのシーツを掴んで抱き寄せてみたり、枕にしがみ付いてみたり、シーツを頭から被ってみたり……

 そんな怠けた時間を過ごして、あるときコアイは身体を起こす。起きながら目を開いて、迷いなく一方へ顔を向ける。その先には、肖像画が掛けられた壁があり……

 コアイは視界の中央、スノウの笑顔が収められた肖像画だけをじっと見つめる。


 見つめて、改めて目に焼き付けて……再びベッドに寝転がってシーツを被る。


 いま、此処(ここ)では彼女を感じられない。

 何度も同衾(どうきん)した、ベッドの上なのに。

 彼女の手触りも、香りも、ぬくもりも、残っていない。


 二人の『聖域』の、その最奥なのに。

 彼女の視線も、声も、指先も、熱さも、感じられない。


 彼女がいないから、さみしい。

 彼女を感じないから、さみしい。

 彼女が残ってないから、さみしい。


 だから……彼女を想い出す。

 身の周り……外側に彼女を感じられないから、己の内側に彼女を想い出す。 

 彼女のことを想う。

 彼女の顔を、声を、微笑を、手足を、香りを、あたたかさを……

 己が内に刻まれた、彼女のことを余さず……想い出す。


 (おぼ)えている彼女を、想って過ごそう。

 想っている彼女を、感じて過ごそう。

 感じている彼女を、(いだ)いて過ごそう。



 さみしいけど、さみしくない。



 枕を胸元に抱き寄せて、スノウが触れるのを夢想して、あたたかく……何時(いつ)しかコアイは眠っている。




 数日後に目覚めたコアイは、城内の別の部屋……広間や炊事場などへ足を向けられるようにはなったが、まだ城から出るのは億劫に感じた。

 と言っても、城内でとくに何かを得られるわけでもなく……結局コアイは寝室へ戻り、前夜と同様に彼女を夢想し始めた。


 眠って、彼女を想って、眠って、彼女を想って。

 時々酒を飲んで、彼女を想って、ひとり眠って。


 そこに残っていないはずの、彼女の余韻を想い……引き出して。



 ベッド上の布地すべてを全身で抱きかかえて、スノウと抱き合ったように、あたたかく……何時しかコアイは眠っていた。




 何度となく、そんな昼と夜を過ごしていた。

 その頃には、城へ戻った日から一月ほど経っていたから、改めて彼女を()んでも特に問題はなかっただろうが……コアイは何故か、そうは考えなかった。

 特にもてなしの準備もされていない居城に彼女を喚ぶことに気が引けたのか、単に怠けていたのかは分からないが……彼女を喚ぶこともなく、城外へ出ることもなく過ごしていた。


 そんな日々の、ある朝……

 ふと身体を起こしたコアイは、窓際に黄色く染まった落ち葉を見つけた。

 風に吹かれて窓から入ったものだろうか。となれば、今は秋……

 寝ているうちに、夏が過ぎ去っていたらしい。

 ならば……と考えていると、扉を叩く音が聞こえた。


「陛下、陛下……お目覚めですかな?」

 扉を叩く音に連れて、(しゃが)れた声がする。老人ソディが訪ねてきたのだろう。

 ならば、あの話を……とコアイは考えて、ソディに会うことにした。


「用があるなら、入るがいい」


 夏が終わるほど時間が経っているなら、あの艷やかな白糸が増えているかもしれない。

 (たず)ねてみたい。



「ご無沙汰しております、陛下」

 そう言いながら寝室に入ってきたソディは、机の側の椅子に腰掛ける。


 コアイはずっと城内にいたにも関わらず、ソディの言う通り……ここ何日か、いや十日ほどは顔も見ていなかった。

 というのも、コアイは何か用があれば自分から人に会おうと出向くか、魔術機巧(ガジェット)を使って呼び出そうとする。それ等の動きが無いうちは、コアイのことは放っておいて構わない……

 というコアイの扱い方が、城内の者に浸透したということもあるのだろうが。


 ただ用があるときには、コアイの寝室を訪ねる。

 それがソディ達の考える、コアイの扱い方らしい。


「そのような挨拶は不要だ」

 とは言え、コアイへの少し堅苦しい挨拶は……変わらないらしい。


「それよりも、例の白糸は増えたか?」

 そんな言葉を交わすよりも、コアイは自身の用を……「ドレス」の原料となる白糸の話を()きたかった。


「ええ……少し買い増せましたが、まだまだ……まるで足りませんな」

 結果、ソディの返答は望ましいものでなかった。


「秋になったから、貴殿なら増やせているだろうと思っていたが」

「やはり現状では、多くは作れぬようです。物さえあれば、買い集めることもできましょうが」

「そうか」

 まだまだ待つことになりそうで、コアイは無意識に視線を落としていた。


「今年はもう一度、糸の収獲があるらしいのですが……それでも布地にするには足りぬでしょう。申し訳ありません」

 コアイの様子を見てか、ソディも居たたまれない様子で俯いている。


「増やせない、か」

「難題ですな……」

 重苦しい空気を払っていく……わけではないが、窓から吹き込んだ風が二人を落ち着かせた。


「と、重ね重ね、申し訳ありませんが……(わし)の用件もお話して良いでしょうか」


 ソディはベッドに腰掛けていたコアイへ数歩近付き、小綺麗な箱を一つ差し出す。


「大公殿下より、この書状は最初に陛下自らお読みいただきたいとのこと……いわゆる親書ですかな」

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