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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
245/313

あなたがそこにいるの

 皆さまからのブクマ・評価、執筆の原動力……励みになっています。

 本当にありがとうございます。

 コアイは普段通り、ベッドで眠るスノウを起こさず……ただ見つめている。

 ベッドの端に寝転がって、なるべく彼女の全身を視界に入れられるように。

 十分な広さの部屋も、空いたベッドも活かさない。一つのベッドに、二人はこじんまりと……身を寄せるように。



 今回の彼女は、どこか地味な……落ち着いた雰囲気の装いをしている。

 前回のひらひらした、可憐な色と柔らかさを感じさせる布地ではない。


 彼女を召喚した際には、今回のような装いをしていることが多い。

 彼女の服装の違いがどのような意味を持つのか、どのような理由によるものなのか……コアイにそれは分からない。

 彼女に(たず)ねてみたら、彼女はきっと屈託のない笑顔で答えてくれるだろうが……コアイにはそれを訊ねる気がない。



 そんな話をするよりも、彼女に酒食を振る舞っているほうが……彼女は喜ぶだろうから。

 彼女が喜ぶなら、私も嬉しいから。


 そうだ、彼女が目覚めたら……最初は何処(どこ)へ行こうか?

 以前に訪ねた、あの美味い酒を出す酒場が良いだろう。

 目覚める頃の彼女はきっと、腹を空かせているだろう。

 人混みの中を二人で歩いて、手を取ってあの酒場まで。



 コアイは、スノウが目覚めた後のことを考えながら……彼女の寝顔を見つめている。


 さて今回も、彼女はなかなか起きそうにない。

 夜が更けてゆくなか、コアイは今一度彼女の表情を注視してみた。 

 彼女は別段、体調が悪そうな様子には見えない。苦悶せず目覚めてくれる時の、安らかな寝顔。

 この寝顔、寝息ならば……心配は要らないだろう。


 コアイは小さく息を吐いて、スノウを見つめ続けていた。

 彼女が目を開くまで、静かに……それで、満足なはずだった。


 眠る彼女の姿をずっと見つめていると、少しずつ……淋しくなってきた。

 寝息しか聞かせてくれない彼女。

 今日はそれが、やけに淋しくて……辛い。


 手を伸ばして、起こさないようにそっと触れて……軽く手を握ってみる。

 寝息しか聞かせてくれない彼女、それでも触れればあたたかい彼女。

 今日はそれが、やけにもどかしくて……嬉しい。


 嬉しかった。あたたかかった。

 けれど、それが長く続かなかった。


 手を握りながら彼女を見つめていると、少しずつ……どこか切なくなる。

 触れるとあたたかくなれる彼女、それでも抱きしめてくれない彼女。

 今日はそれが、やけに切なくて……寒い。


 手を握るだけでは、足りない。

 本当は、できたら……彼女から手を取ってほしい。

 眠っている彼女に、そう願ってしまう。

 起こしてはいけないと思いながら、そう願ってしまう。



 更けた夜が、白んでいく。夜明けが近い。

 それでも、彼女の寝顔も寝息も穏やかなまま……一向に揺るがない。


 淋しい。

 起こしては悪い。けど、淋しい。

 本当は、できたら……彼女から触れてほしい。

 けれど、気持ち良さそうに眠る彼女を……起こしては、悪い。


 だから、せめて。


 コアイはゆっくりと、ゆっくりと……彼女の手を離し、肩へ手を伸ばす。

 優しく、優しく、けして起こさないように……そっと彼女に抱きついて。


 彼女が、とてもあたたかい。

 時々、腕を(くすぐ)る寝息がこそばゆくて……あたたかい。

 彼女に寄り添っていられる自分が、少しあたたかい。

 彼女の存在を確かなものと感じて、胸があたたかい。


 心身ともに、あたたかな心地。ぬくもり。

 コアイはそこへ存分に浸り、(ほとん)どの淋しさを忘れて……何時(いつ)しか眠りに落ちていた。




 朝日が窓から寝室を照らしても、二人は起き上がらない。

 更に後、陽の光が南を向いて熱を強めた頃……コアイは目を覚ました。


 身体に、ごく一部の固さとあたたかさを感じる。あたたかさを感じて、改めてスノウの存在を実感し……彼女を起こしかねない、急な動きをしないように心掛ける。


 さて、改めて彼女の顔へ目を向けると…… 

 やはりと言うべきか、彼女は未だに起きる様子を見せない。

 なにしろ、二人で眠った際……彼女がコアイよりも早く起きた(ためし)がない。少なくともコアイには、そんな姿を目にした記憶がない。

 とは言っても、それはコアイにとって何の問題でもない。


 むしろ……

 目覚めたときに、眠ったときと同じように……側に彼女がいることを実感できる……その嬉しさが勝るから。

 もし目覚めたときに、側に彼女が居なかったら……淋しいだろうから。


 (しばら)くして、コアイは改めて……彼女との間を少し空けた。彼女の全身を眺めたくなって。

 彼女は一向に目覚めない。

 顔では緩んだ口元から(よだれ)が垂れている。

 身体へ目をやると、上下の細身な服がシワになっている。

 顔へ目を戻すと、髪があちこちに逆立っている。


 彼女はよく眠っているようだ。

 そうそう目を覚ますことは無さそうに見えるが、寝息は安定しており顔色や発汗の異常もみられない。

 此処(ここ)へ来るまでに、寝不足の日々を過ごしていたのだろうか。


 コアイはスノウを起こさないように、ただ眺めていた。

 ……結局、彼女が起きたのは夕暮れどきだった。


 ほぼ一日中、眠っていた彼女。

 眠り続ける彼女に寄り添って過ごす一日。

 それはそれで、コアイは楽しかった。

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