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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
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あなたの喜びがうれしいの

 このところ投稿ペースが落ちていて申し訳ないです。

 俺にもっと(執筆の)ちからがあれば……

 コアイは今日も、優しくベッドに寝かせたスノウの隣。

 彼女をただ見つめていた。


 彼女は時々、小さくくぐもった声を漏らす。

 彼女は時々、寝息にしゃっくりを混ざらす。


 その頬……どころか、首元から上……彼女の顔全体が赤々と染まっている。だが表情は苦しげではなく、むしろ幸せそうに弛緩していて……口元では涎を垂らしている。


 確か、酔い潰れていても顔が赤いうちはそれほど問題ない……以前、彼女も()()だった。

 一先(ひとま)ずは、この安らかな眠りを妨げないように……



 コアイはふと、少しだけ……肌寒いような気がした。

 見ているだけでは、さびしいと……感じてしまった。


 もう少しだけ、近付きたい。

 触れてほしい、さわりたい。


 もちろん、起こさぬように。

 彼女の眠りを妨げぬように。


 コアイはベッドの中ほどに投げ出された彼女の腕に、そっと身体を寄せた。

 身体を寄せたところで……


 本当は、宿への帰路でしがみ付かれたように……

 彼女から手を出して、身体のどこでも良いから……捕らえてほしい。

 そう望んでいることに、コアイは気付いた。

 それを(さと)ってなお、コアイは彼女の腕を取りはせず……軽く触れるだけで、静かに寄り添っていた。


 彼女の愉しそうな一日の、その終わりを邪魔しては悪いから。

 彼女が思いの(まま)、幸せに過ごせたのなら……それで良いから。


 彼女の隣で、そんな心地を抱いたところ……コアイは思わず吹き出して、何となく目を閉じた。




 実際のところ、二人の過ごす日々を、その中での二人の心情を知る者から見れば……

 コアイはスノウのことを、少々甘やかし過ぎだと感じるかもしれない。


 この二人は、少なくともコアイのほうでは……まだまだ、与えよう、喜ばせようとしてばかり。時には支え助け合う、苦楽をともにする伴侶とは、未だ……なり切れていないのだろう。

 それでも少しずつではあるが、進歩してはいる。

 欲求を満たしあうだけの、ただの恋人同士から……ともに生きる二人へと。


 そのことすら、まだはっきりとは自覚できていないだろうが、それでも……少しずつ。




「えっと、御社では……じゃなくて、代官さんは普段どんなお仕事をされてるんですか?」

 翌朝……目を覚ました二人は寄り道せず、この街の政を取り仕切る代官を訪ねた。

 そして…………



「お疲れさま、王サマ」

 二人は面談を終えて、帰路についている。


 代官との対談は、前回とあまり代わり映えしないものだった……とコアイは感じている。

 と言っても実際には、何時(いつ)もとは違った彼女の言葉遣いや所作ばかりを耳に残し、目で追い、注意を向けていたようにも思えるが。


 今回会ったドイトの代官については、強いて言えば……若干だが先に会ったデルスーの代官よりも若々しく、また堂々としていたように見えた。だが殊更に気を引く訳でもない……

 コアイは代官に、そんな程度の印象を抱いていた。

 ただ、代官が「ヴェルトフ」と名乗っていたのをうっすら覚えている……会いはしたものの興味は湧かない、特筆すべきものもない代官の名を覚えていたことは……コアイの進歩かもしれず。


「なんか今回もふつーだったね、前のおじさんより落ち着いたふんいきだったけど」

「そなたはそう感じたか」

「なんつか、淡々といい仕事してそうな感じだったよね」


 二人は一旦宿へ戻ることにして、道すがら代官の印象について語り合う。


「経理部エースのヴェル……ヴェルなんとかさんて感じ」

「……良く分からぬ」

 コアイには……軍団内の金銭物品を的確に管理していそうな者だと評した、彼女の比喩表現については何となく理解できている。

 しかし、何故彼女が代官ヴェルトフをそう評したのかがいまいち分からない。

 だから、素直にそう返していた。


「あっ思い出したヴェルトフさんだ、経理部のみんながリスペクトしてる課長のヴェルトフさん的な」

 ただ、彼女はコアイの疑問には触れず……代官の名を思い出して笑っていた。


「そう言えば、そう名乗っていたな」

 そんな彼女を見て、コアイも疑問を蒸し返すことはせず……ただ彼女に相槌を打った。

 そのほうが、楽しい……気がするから。


「それと、すっごい悪いこと考えそうって感じはしなかったかな」

「そうか、悪人ではない……か」

「個人の感想だけどね」


 あれこれと話をしているうちに、二人は宿へ帰り着いていた。


「さて、これからどうする? この街での用は済んだから、酒でも散歩でも……」

 二人は一先ず、ベッドに腰掛ける。


「……あ、ごめん、なんか……ちょっと調子悪くなってきたかも」

 と、彼女は何かに気付いたような様子で眉を寄せる。


「帰れるなら、いっぺん帰りたいかな」

「……そうか、分かった」

 彼女が帰りたいと言うなら、コアイにそれを拒む理由などあり得ない。



「ごめんね、すぐ戻れる準備しとくから!」

 コアイの意に従い、スノウの周囲で淡い光を発した召喚陣(ペンタグラム)は彼女の姿に連れて消えていく……



 彼女を本来の世界へ帰して、身軽になったコアイは次に……エミール領内の中心都市アルグーンを目指すことにした。


 手元に残った金貨の数から考えると、今回の旅は次の街までで……そろそろ終わりだろうか。

 なれば、最後は賑やかなあの街で……彼女を存分にもてなして、ともに楽しみたい。


 御者の意思を汲み取ったかのように、軽やかな歩調で進み車を()く馬の上……陽光に照らされながら、コアイは北のアルグーンへと向かった。

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