表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
240/313

あなたの喜びまもりたいの

 遅くなりました、ごめんなさい

「せっかく水がいっぱいなのに、なんかざんねんだなあ……」

 コアイ達は一度寝室に戻り、少し休むことにした。

 二人はベッドの(へり)に横並びで腰掛けて、互いに半身を向けている。

 とりあえず室内で腰を下ろしたが、(しばら)くしたらまた出掛ける……そんな雰囲気で。


「にしても、使わなくても水を出すきまりがある……って、なんか意味があるのかな?」

「私には分からない」

「やっぱわかんないよね……使わないなら、もったいないのにねえ」

 使わないのに、水を()み出すのは勿体無い……スノウはそう表現した。


 コアイは彼女が言った「勿体無い」という意味こそ理解できるが、そんな彼女の真意は読み取れないでいる。

 意義もなく汲み出していられるほど豊富なら、とくに惜しむ必要も無いのではないか……と、考えるため。


「ま、この街の人がそれでいいなら、口出すことじゃないかもだけど」

「そういうも……」

 彼女はそう突き放すようなことを言って、ふんわりと結論付けようとした。その結論について、コアイが(たず)ねかけようとしたところ……彼女の側、口よりも下から、はっきりと腹の鳴る音。


 彼女は音に気付くや否や、コアイから顔を背けた。彼女の横顔では僅かに、丸く見開かれた目が泳いでいるのが見える。


「え、え〜と……口を出すよりさ、な、なんか口に入れたいかな」

 そうしながら彼女は、食事を取りたいと(つぶや)いた。


「そうか、ではこの街の名物でも食べに行こうか」

 スノウがそう望むなら、コアイにはそれを拒む理由など……叶えぬ理由などない。


 窓から射し込む陽光は高い。今から日没までには、まだ時間があるだろう。

 ならば……


「それで、だな……」

 コアイの考えはまとまっている、だがそれを彼女に伝えようとすると……歯切れが悪くなってしまう。


「うん」

「食事のついでに、この街の代官に会いに行きたいのだが……」

 彼女に食事を取らせたら、そのまま代官の居所を訪ねるのが良いだろう……それであれば、先日のように彼女に同行してもらい、共に代官と話をしてほしい……コアイはその考えを、はっきり頭に浮かべていた。


 だが、スノウに何かを頼むことには、まだまだ……慣れられないでいる。


「また、その……私と共に、来てくれるか?」

「もちろん!」

 彼女はコアイへ満面の笑みを向けて、(うなず)いてくれた。何のわだかまりもない様子で、快く引き受けてくれた……そんな彼女の様子に、コアイはすっかり安堵していた。


 ただ、スノウもコアイの助けになりたいと考えていることは、今でもまだまだ……理解しきれないでいる。


「……済まない」

「え〜なんで? いいってことよ〜ふふっ」



 二人は宿の主に尋ね、薦められた酒場を訪ねてみた。


「はいいらっしゃい、ここのテーブルでいいかい?」

 酒場の中程にいた、給仕らしき大柄な女が二人の側……入口へ振り向き、近くのテーブルを指し示した。二人はそれに従い、店内を進む。


「このあとがあるから、お酒は頼まないでおこっか」

「そうだな、酒は代官に会った後で改めて飲もうか」

 席に着くまではそんなことを話しながら歩き、やがて腰を落ち着けた。


「お店のおすすめ……で、いいかな?」

 と、席に着いて早々……スノウはコアイを見ながら問いかけてきた。相当腹が減っているのだろうか。

 なんにせよ、彼女の望みを否定する気はない。コアイは無言で頷く。


「お姉さんのおすすめで、二人前ください」

「じゃあ二人ぶん、肉料理を用意するけどいいかい?」

 給仕の女は、肉で良いかと二人に念を押した。

 どうやらこの街では周辺の城市とは異なり、肉料理が主に供されているらしい。


「あれ、魚じゃないの? 肉でもいいです」

「あらやっぱり、旅人さんだね? この辺りはちょっと泥臭い魚が多いせいかね、昔ながらの魚料理はあまり人気がないのよ」

「そうなの?」

 スノウは給仕の応えを聞き、あからさまな程に首を傾げた。

 どのような考えからそう感じたのかは分からないが、給仕の言が彼女には意外だったらしい。


「そ、最近は他の街からもたくさん肉が届くようになったからね、みんな肉ばかり頼んじゃうのさ」

 しかし、そのことを考える間もなく……隣のテーブルに着いていた()せぎすの男が何故か口を挟んできた。


「何日もかけて運ぶのには、肉のほうが向いてるらしいのよね」

「デルスーあたりから魚を持ってこれたら、いい商売になりそうなんだがなあ……あんたら、なんか名案ないかい?」

「あはは、ごめんなさいね。この人、旅人さんを見るといつもこんな調子でね」

 特に知見も無い二人は男に返答することなく、料理を待つことにした。



「あっこの肉うっま……」

 肉の塊をじっくり煮込んだものだという、香りの強い料理が供されると……彼女は()ぐに口へ運ぶ。


「これめっちゃお酒に合いそう……でも…………」

 そんな彼女は料理の旨みに感じて、酒を飲みたくなってしまったらしい。

 旨い料理には酒を合わせる、それは彼女にとって大きな喜び……と、コアイはこれまで彼女と過ごした日々から学んでいる。


 と、彼女は視線を泳がせて……何やら躊躇(ためら)っているように見えた。

 おそらくは、コアイが食後に代官と会おう……と言ってしまったためなのだろう。


 代官との面会は、急ぎの用ではない。

 彼女に我慢を強いる程の用ではない。



 コアイは思わず口にしていた。


「この料理に合う酒はあるか」

 不意に出た、独り言だったが……


「トゥショネか、それなら……いい酒があるよ」

 横のテーブルの男が、コアイの声を聞いたらしく……給仕を呼びつけていた。


「いつもの、旅人さんたちに出してやってよ」

「それをひと……二つ貰おうか」


 コアイは、逡巡する彼女をこれ以上見ていられなかった。


 彼女に、一杯の佳酒を。

 それは彼女を楽しませるためなのか、彼女の様子が気に掛かる自分を落ち着かせるためなのか……


 どちらにしても、彼女に酒を拒ませてはいられなかった。



「……いいの?」

「代官には、明日でも会えるだろう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ