表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
235/313

あなたの声が導べなの

「えと、御社の事業な……あっまちがえた、代官さんはどんなお仕事をされてるんですか?」


 隣に座っていたスノウから、何かを問う声が聞こえた。

 コアイは特に考えもないまま、自然と振り向いていた。


 何時(いつ)もとは違う、どこか余所余所(よそよそ)しい言葉。

 コアイとは違う、努めて丁寧に装った言葉。

 二人きりの時は、聞こえることのない言葉。

 コアイの(そば)では、他人だけが聞かせる言葉。


 スノウの澄んだ声には、似つかわしくない。

 そんな気がしてしまう、他人行儀な物言い。


「あ……ああ、租税の管理が主ですな」


 スノウの声に返される、他人行儀な物言い。

 しかしこちらには、不適切だとは感じない。

 別にどうでも良い、捨て置けるものとしか。


「管理ぃ……もう少しくわしく、教えてもらえますか?」


 彼女の可憐な声だけは、不似合いと感じる。

 が、それも彼女の一部だから受け入れたい。

 コアイのために居てくれる、スノウだから。


「詳しく……何と言えばよいだろうか……決まり通りに税を集め、王城へ送る分と城市で使う分に振り分けて……」

「ふり分けって、予算も代官さんが考えてるんですか?」

 調子が出てきたのか、彼女は質問を続ける。


「ああ、といってもこちらは提案するだけですがな」

「申請はするけど、決めるのは()……みたいな?」

 少しずつ、彼女の受け答えがくだけてきた。


「その、王城へ税を納める時……季節ごとに、今期の出納と来期の予算割を紙に書いてソディ様へ送り、承認を得る必要があるのです」

 一方、代官の口調は変わりないように思う。

 興味が無いから、そう思うのかもしれない。


「ソディ様の承認を得られたら、官吏や衛兵の給料、兵装や備品、城壁の強化などに金を払い出し……」


 代官の話が具体性を帯びたが、興味は薄い。

 コアイには、スノウの姿こそが興味深くて。

 普段の彼女からは想像できない、その姿が。




「なかなか会わせてくれなかったし、割と偉い人なのかと思ってたよ」

 一通り話し終えたということだろうか、コアイはスノウの提案に従い……代官との対談を切り上げて執政府から立ち去っていた。


「あまし偉いわけじゃなさそうだったね」

 二人は一先(ひとま)ず、宿へ戻ろうと歩を進める。


「代官と話して、そなたはどう感じた」

「話してみたらわりと、普通のおじさんみ……かなあ」

「普通、か」

 二人、手を繋いでのんびり歩きながら……代官の印象を語り合う。


「なんつーか、すっごい悪いことやらかしそうって感じはしなかったよね」

「際立った悪人ではない……ということか」

 語り合う、とはいっても……コアイは正直、代官にあまり興味を惹かれなかった。

 だから、スノウから話を聞いてみることにした。

 代官と主に対話していた彼女の評価のほうが、己の感覚よりも信頼できそうな気がして。


「んー、そこまでは決めらんないけど……ちょい悪いくらいならあるかもだし」

 ここまでは、彼女は神妙な面持ちで代官に抱いた心象を語ってくれた。


「つまり、小物……ということか」

「王サマ口悪っ!?」

 が、コアイの一言を受けてか……彼女は突然に破顔していた。


「悪……」

「ふふっ、ま、そんな感じだと思うけど……言いすぎだよ! あははッ……」

「……済まない」

 彼女の指摘を受けてコアイは謝罪の言葉を(こぼ)したが、内心ではむしろ楽しんでいた。


「え〜、わたしに謝ってどうすんのさ〜」

 笑顔のまま、コアイを見上げる彼女が……とても、あたたかくて。



 宿に着いた二人は、ベッドに並んで腰掛けて……一息ついた。


 さて、コアイとしては……

 スノウを酒場に連れていき、酒食を堪能させられた。また、代官にも会えた。

 この城市で為すべき用は、もう無い。


「まだ夕方までは時間があるが、どうする? 食事にでも行くか?」

 とはいえ、今は昼過ぎくらいの時間だろうから……次の城市へ向かうには間が悪い。

 コアイはそう考えて、スノウを食事に誘う……


 ぐぅ


「は……早く行こ、ハラヘリだよ」

 彼女は隣から響いてきた腹の鳴る音を誤魔化すように、コアイの手を取りながら立ち上がっていた。



「お、いらっしゃい……今日は早いんだな」

 コアイはスノウを連れ、昨日と同じ酒場を訪ねた。

 何故なら、これまでスノウを連れてきた二度とも……彼女がとても満足気に見えたから。


「空いてるとこに、好きに座ってくれ」

「じゃあ今日は、こっちのテーブルにしよっか」 

「今日も飲むのかい? ま、飲み過ぎねぇようにな」


 二人は今日も、何種類もの魚料理……この街の名物に舌鼓を打ち、その旨味を辛めの酒で喉へ流し込んで、また料理を口にして…………


 そして今日もまた、スノウは酔い潰れそうになっていて。


「きょおも……ありあと……ね…………」

 酒杯を手にしたまま顔を赤らめ、うとうとと居眠りをしている。

 薄目をあけたまま半開きの口へ、酒杯も料理も運べないでいる。


 そんな彼女の姿は、今日もコアイの心中をそわそわと(くすぐ)る。ざわざわと擽る。



 本当に、可愛らしい。微笑ましい。

 触れてはいなくとも、あたたかい。

 眺めているだけでも、あたたかい。


 側にいられることが、あたたかい。


 彼女の側にいると、本当に嬉しい。

 彼女が側にいると、本当に嬉しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ