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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
234/313

あなたの声がきこえたの

 二人が辿り着いた執政府の正門前では、軽装の……棒状の得物を手にした人間数人が(たむろ)していた。


此処(ここ)がこの城市の執政府か?」

 コアイはスノウの前に歩み出て、門前の人間達から彼女を(かば)うような体勢を取りつつ話しかけてみる。


「あん?」

「ああ、そうだけど……何か用か?」

 人間達は、いい加減な態度のようでいて……目線だけは鋭くコアイ達の四肢、身体のあちこちへ向けてくる。

 コアイ達が丸腰であることを確かめているのだろうか。


「この書簡を持って、代官に会ってこいと言われている」

 しかしコアイにしてみれば、間近にいても魔力を感じられないような平凡な人間がどんな得物を携えていても、着目すべき点はない。ただ一点、スノウへ危害を加えようとする(おそれ)だけを気にしておけば良い。

 コアイは単刀直入に、ソディから預かった書簡を差し出した。


「……は? え〜と……コレどうすんの?」

「代官さま、か……とりあえずその手紙読んでもいいか?」

「あれ、オマエ字読めたっけ」

「読めねえ。俺こっち見張ってるからさ、アレク呼んできてくれよ」


 話し終えた人間達のうち一人が、門の少し奥から右へと走り去っていった。


「すまん、手紙読めるやつを呼んだからちょっと待ってくれ」

 言われた通り門前で少し待ってみると、先程走っていった男がもう一人を連れて戻ってきた。


「私はアレクセイ、ここの警備兵をしています……あなたは?」

 連れてこられた男は、他の者より少し落ち着いた様子でコアイへ名乗り出る。


「私はコアイという」

 この男も、注目すべき魔力は宿していないようだが……名乗られた以上は、此方(こちら)も名乗るべきだろう。

 コアイは淡々と名乗ってみた。


「ん? その名前、どこかで……ああ失礼、とにかく書状をお預かりします」

 と、アレクセイと名乗った門番はコアイから書簡を受け取り……その文言へ目を通した。


「……ん〜、と……」



 エミール領統治代官 各位

 コアイ王が臣、ソディ・ヤーリットより一筆記す。


 この度、陛下はエミール領内各地の代官との御面談のため、御忍びにて各城市を巡幸なされる。

 陛下がこの書簡を携え、任地を訪ねられた際には遅滞なく会議の場を設け、各人の職務について御説明差し上げるべし。

 また陛下への申述、答弁に当たっては内容に虚偽、遺漏のなきよう、また陛下への御無礼なきよう留意されたし。


 ヤーリット商会 ソディ・ヤーリット



「うーん……」

「なあ、何が書いてあんだ?」

「要は、すぐに代官さまの働きぶりをコアイ王に教えてやれ……ってことだね」

 確かにこの門番は、書簡の内容を読み取れているらしい。


「じゃあ代官さまのとこに案内すっか?」

「いや、ちょっと待った」

 だが、門番には何か懸念があるらしい。


「すみません、手紙の内容は分かりましたが……」

 門番は他の者を手で制してから、二歩前に出た。


「大変失礼ながら、この……ヤーリットさん? の書状が本物かどうか、またはあなたが本物のコアイ王なのか、俺には分かりません」

 門番が言うには……書簡の内容は分かったが、偽筆である可能性がある。または、書簡を持つのがコアイを騙る偽者である可能性がある……ということらしい。


「それは、どう(あか)せばいい」

 門番の疑いに対し、コアイは今度も……静かな口調で応えた。

 コアイは、疑われたことを不快とは思っていない。ただ、どうすればこの場を収められるのか分からない。

 確か、以前にもコアイの姿を知らぬ者に身柄を疑われたことがある。その時は、()ぐにソディが現れたから問題はなかったが。

 此処にはスノウ以外に、コアイの姿を知る者がいないようだ。


「王の証となるような、紋章入りの腕輪とか……何かありませんか?」

「そんなものは無い」

 そして容姿の他に、コアイを示す証となりそうなのは……魔力くらいしか無い。

 ……力を示せば、この者は納得するだろうか?


「あ〜、ここだと免許証とかないもんね」

 ふと後方のスノウから聞こえたのは、コアイにも意味を理解しきれない語句……


「めんきょしょ?」

「あっごめんち、なんでもないよ」

 コアイは振り向いて聞き返すが、どうやらあまり意義はなかったらしい。

 ただ……


 スノウも心配して、何とか解決案を考えて声をかけてくれたのかもしれない。

 そう感じると、コアイは彼女に申し訳なく思ってしまう。

 

 要らぬ心配をさせたくない、だが良い手が浮かばない。

 さっさと魔術を見せてやるか……


「なあアレク、ここで足止めしっぱなしもやべーんじゃねえか?」

 コアイが魔力を高めんと意識を練ろうとしたところ、別の門番から声が上がっていた。


「どうした?」

「オレ思ったんだけどさ、これでもしホンモノの王様だったら……オレら死ぬな」

「書状にも遅れなく、って……あっ……どうしよう大丈夫かなあ」

 門番達が話すにつれ……それまでは落ち着いた様子だった門番の男が、書簡を手にしたまま声を震わせだした。


「あっ、ていうかさ……」

「どうした?」

 再びスノウの声が聞こえて、コアイは振り返る。


「だいかん? さんとか、王サマのこと知ってそうな人を探したほうが早くない? ここで悩んでるよりさ」

「なるほど……危ないやつでもなさそうだし、代官さまに確かめてもらうか」



 話の流れが掴みきれなかったが、ともあれコアイ達は門番に案内され執政府へ入ることができた。

 そして代官を名乗る男に会い、ソディの書簡を渡すや否や……豪華な客間へ通されていた。


「衛兵が大変失礼致しました、こちらで厳しく罰しておきますので死罪だけはご容赦のほど……」

「構わぬ。それで、私は汝に何を(たず)ねれば良いか」

「は、ええと……それを私におっしゃられても……困りますな……いやはや……」

 代官を名乗る男は困った、というが……コアイも困っていた。

 この、取り立てて感じるものも無い人間に……何を訊ねれば良いのだろうか。訊ねたいことも、特に思い付かない。


 会話も続かず、手持ち無沙汰になったコアイは何となく部屋の装飾へ目を移し、ぼんやりと……しそうになったところで、可憐な声に意識を引き戻された。


「えと、御社の事業な……あっまちがえた、代官さんはどんなお仕事をされてるんですか?」

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