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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 私達は、共に生きる二人に
231/313

あなたと再び来れたトコ

 ベッドに寝転がって惚けていると、何時(いつ)の間にか日が暮れていた。


 気づいた頃にはすっかり暗くなっていたため、日が暮れて間もない宵の口なのか既に夜も更けているのかは分からない。ただ夕暮れ時も過ぎているなら、ソディが城へ帰ってきている可能性が高いだろう。

 コアイは身体を起こし、寝室を出る。そして城内を歩き回っていると……案の定、老人ソディの歩く姿が見えた。

 コアイがその姿を認めたのとほぼ同時に、向こうもコアイの姿を見かけたらしく……ソディは振り向き、()ぐにコアイの許へ駆け付けた。


「おお陛下、お目覚めですかな。ちょうど、お話したき件が」

「それは、例の衣装のことか?」

 コアイは思わず、ソディが話し終わるのも待たずに「ドレス」の件を(たず)ねていた。


「……いや、そちらはまだまだ……ですな」

 しかし、ソディの返答は良いものではなかった。

 ソディ達に再調査を指示してから、まだ数日しか経っていないのだから……冷静に考えれば分かる話なのだが。


「婚礼衣装の件は、近場の商人に手紙を預けたばかりでございます。大公殿下や大商人たちに手紙が届き、返書を受け取れるのは……(しばら)く先の話でしょうな」

「そうか……」

「ほっほ……陛下にしては、少し気が逸っておいでですかな?」

 ソディは微笑みながら、焦っているのではないかと言う。


 そうかもしれない。


 早く、彼女にあの服を贈りたい。

 早く、あの装いを(まと)う彼女を見たい。

 早く、あの衣装を纏って喜ぶ彼女を見たい。


 ゆきの色の彼女、とびきり美しい彼女、最上の喜びを(あらわ)にする彼女。


 彼女の姿を、一目…………



()れるお気持ちも分かりますが……」

 コアイはつい、婚礼衣装に身を包むスノウの姿を夢想してしまっていたが……(しゃが)れた声に意識を引き戻される。


「陛下のため、我々も急ぎたいのは山々ですが……今は待つほかありませぬ。またこのような時は、ただ待つよりも他のことを進めたほうが気が紛れるものです」

「他のこと……」

 そうだ、忘れていた。

 北の地を再訪してみたいと、下準備を頼みたいと……


 コアイは口を開きかけるが、


「ちょうど、一つ陛下にお願いしたいことがございましてな」

 しかしソディの申し出が先に発されていた。


「何か問題があったのか」

「以前にお話しいたしましたが……現在、北のエミール領と西のタブリス領は大公殿下から派遣された人間の代官に任せてあります」

 コアイもそれは覚えている。

 確か……いくら翠魔族(エルフ)の領地になったとはいえ、それを治めるためとはいえ……人間の多く住む城市になど住みたくない、と大半の者が新領への転居を拒んだ。そのため()むなく人間の代官を置けるように大公フェデリコへ頼んだ……とも。


「一度、陛下自らご見分いただきたく思っていましてな」

「……何を、だ?」

「大公殿下の遣わした各地の代官が、それに……陛下の代官に相応しいか否か、を」

 領内の各城市の代官に会い、その為人(ひととなり)を確かめて欲しい……と、ソディは言っているようだ。


「それは……私が為すべき事か?」

 そう言われても、コアイは己にそんな分別が付けられるとは思えなかった。


 過去、多種の魔族を従えていた頃は……強き者を尊び、それに従おうとする多数の魔族の性質を活かす、つまり尊敬を集める実力者が自然と高い地位に就くことを妨げなければ……それで十分だった。

 だから、戦闘力の高い者以外に強い興味を抱かず、干渉することも少なかったコアイの下でも……問題が起こることは少なかった。


 だが、翠魔族(エルフ)や人間はそうではないらしい。そのくらいのことは、コアイにも解る。

 しかし翠魔族(エルフ)や人間が、どのような価値観を以て貴賤を定むのか……まだはっきりとは解っていない。


(わし)でも務まるやも知れませぬが、できれば国の主たる陛下御自(おんみずか)ら……と」

「だが、そのような政務……私よりもソディ殿のほうが向いているだろう?」

「ふふ、陛下御自ら見分なさるとなれば……各地の代官も身が引き締まる思いになるでしょうからな」

「そういうものなのか」

「それは当然でしょう、仮に国主というのを抜きにしても……陛下と儂では見てくれからして違いますからな」

 そこまで言って、ソディはからからと笑い出した。



「それに、ちょうど良い機会です。冬が過ぎ去ったばかりの、北のエミール領……王妃様をお連れして、改めてお訪ねになっては如何でしょうか」

 と、突然ソディから……まるでコアイの意思を察しているかのような物言い。


「春のエミール領は、少し肌寒いものの人間が彼の地に独特の美食を生み出していて……食が合うなら良き地ですぞ」

 確かに、彼女も嬉しそうに酒食を味わっていた。

 それ故に、コアイはもう一度北の地を訪ねてみたいと考えている。


 そのついでに、ソディの頼みを聞き入れて働くのも……悪い話ではない。

 彼等の平穏な暮らしを安定させることも、彼女の希望(のぞみ)の一部なのだから。


「各城市、代官のご見分……お引き受けいただけるなら、代官への書面を(したた)めておきますぞ」

「分かった、貴殿がそうまで言うなら……やってみよう。馬と地図、それと路銀の用意を頼む」




 二日後、コアイは一人馬を御し……大森林を北に抜けるべく林道を駆けていた。

 いつもの霊薬も少し使い、ほぼ空の荷車を()かせた馬で二日駆けて……大森林を抜けた国境(くにざかい)近くの城市、デルスーに辿り着いた。


 前回エミール領を訪れたときには、この城市の酒場でスノウと二人、酒を飲んだ……

 それを思い出しながらコアイは宿を取り、その一室で早速彼女を…………

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