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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 人の統べる地の内にて
209/313

街のふたりは道筋見出し

 いつもブクマ・高評価いただき、ありがとうございます。

 少し恐縮しつつ、いつも励みとさせてもらってます。


 筆の進みも上向いてきたかな……? 上向いてるといいな。

 二人は今日も、仲良く……満ち足りた夜を過ごす。


 体をよろめかせながら酌みあって、

 足をふらつかせながら支えあって、

 心をうわつかせながら寄り添って。


 そんな彼女を、余さず受けとめて。

 間近に存在しているのを確かめて。


 互いを求め、その手を離せなくて。


 二人だけで見つめあって、二人だけで触れあって、二人だけで抱きあって、二人だけであたためあって、二人だけで笑いあって、二人だけで目を閉じて、二人だけの場所で過ごして、眠って……



 二人は、静かで長い夜に深く沈みこんで(いこ)う。

 穏やかな熱のなかで、互いの存在に満たされながら。


 二人は、(もろ)い日の射す朝に浅く微睡(まどろ)んで憩う。

 朦朧(もうろう)とするなかで、互いの存在を確かに感じながら。




 やがて窓から射す光が南を向き、熱を強めていた。


「……そろそろ昼になる、起きられるか?」

「ん〜……あとごふん……あ」


「ふふっ……んむっ」

「ん…………なあっ!?」



 昼過ぎごろになって……コアイ達は約束通り、昨日訪ねた宝飾店へ出直した。

 特に迷いなく店に着いた二人だったが、直後にそこで得られた回答はけして望ましいものではなかった。



「す、済まない……俺ともあろう者が……」

 二人が宝飾店へ入ると……目の下に濃い隈を作った男が()ぐさま二人の前に歩み出て、床に膝を落としていた。男は(うつむ)き、冬だというのに額から横顔へ汗を流している。


「お嬢さんのかわいらしい指に着けられそうな指輪、見つけられなかったよ……大口叩いておいてこの体たらく、本当に済まないと思うッ……!」

 男は膝立ちのまま、二人に頭を下げた。


「まったく……マヌエル・シノープといえば、大陸でも五指に入る指輪の卸商じゃなかったのか? 俺もヤキが回ったのか? 我ながらとんだ失態だよ」

 頭を下げたまま話し続ける男は、ついに自嘲しだす。


 しかしそうは言われても、コアイもスノウも……男が名高い商人だとは知らないし、一度の失敗であまり強く(なじ)る気にもならない。

 二人とも何も言わず、ただ様子を見ていた。


「じゃ、これからは『自称』ってことにしといたら?」

 すると目に余ったのか、後ろで棚を拭いていた中年らしき女が茶々を入れる。

 すると男は目を丸くし、少し広い額に横皺(よこじわ)を寄せながら女を(たしな)める。


「ぐっ……あのなあ、まだ話は終わってないんだ。今は邪魔しないでくれ」

「はいよ」

 女の生温かい返事に応えるように、男は小さく溜息(ためいき)()いた。


「話のつづき……なんか方法がある、ってこと?」

 そんな男へスノウが問いかけると……男は黙ったまま(うなず)いて、立ち上がった。

 そして後方の棚から一枚の紙を持ち出して二人に見せる。


「紹介状だ。さっき書いた」

「紹介状?」

 男の言葉を、コアイは何となしに復誦(ふくしょう)していた。


「この俺が見つけられなかった以上、この街に目当ての指輪は無いはずだ」

「……そうなのか?」

「とりま、そういうことにしとこう」

 コアイには分からない。分からないから、スノウの言う通りに認めておく。


「伝手のある先に夜通し聞き回って……品物の情報どころか、手がかりのひとつも手に入らなかった」

「ああ、だからクマ……おっちゃんお疲れさま」

 彼女は何かから疲れを察し、男を(ねぎら)う。

 ただコアイには、何故彼女がそう察したのか良く分からなかった。良く分からないから、無言で彼女に視線を向けてみる。

 それに対し、彼女も視線を返してくれた。ただ、その眼からは艷やかで美しい……以外の印象を受けられなかったが。


「あぁ、それは別にいいんだが、お嬢さんに合う指輪は……この街どころか、ここら地方の一帯……の、どこにも無いかもしれん」


 男が言うには、王都まで行けば貴族の息女向けの品を見繕(みつくろ)って買い付けることも可能、とのことだった。だが……現在地パルミュールから西、やや北の王都までは……馬でも一月は要する。

 往復するだけでも二月と数日、さらに指輪を探して、見つかれば買い付けの商談……どんなに順調でも二、三日ほどは必要となる。冬が過ぎ、春を迎えられるほどの期間。

 この時期にそれほど長くこの街を離れて、王都へ赴くことはできない……と言う。



「そもそも、王都まで行ったからといって買えるとも限らないしな」

「なんか、ムリそう……?」

 スノウの声が、弱々しく聞こえた。

 コアイには、彼女のそれが心苦しくて……胸の奥を締め付けられる。


「だから……作ってもらおうと思う」

「えっ」

「ラスカリス……ここから北西にラスカリスという街があるんだが、そこに知り合いの……腕利きの職人が住んでる。これは、そいつに指輪を作ってもらうための……宝飾商マヌエル直筆の紹介状だ」

 そこまで話したところで、男はコアイへ紹介状を手渡してきた。

 

「有るかどうかわからんものを探すよりは、いっそ作ってもらったほうが話が早い。新しく作るなら、報酬次第でお二人さんの好みを取り入れてくれるだろうしな」

「なるほど、ありがとう!」

「なあに、少し紹介料を取って、預かっておいてくれ……とも書いてある。俺にも得のある話だ、お二人さん金持ってそうだしな」

 男はコアイが受け取っていた紹介状の一節を指し示し……そこで男は、初めて笑った。



「転んでもただじゃ起きない、アンタらしいよ」

「なあ、も〜う少しでいいから、邪魔しないで待っててくれよ」

「はいはい」

 何故この女がいちいち声をかけてくるのか、コアイには分からない。

 それは良く分からないが、それが重要事でないことは解っている。

 いま重要なのは、急ぎ目的地へ向かい指輪職人を訪ねること。


 いま重要なのは、スノウのために、指輪を手に入れること。

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