街のふたりは道筋見出し
いつもブクマ・高評価いただき、ありがとうございます。
少し恐縮しつつ、いつも励みとさせてもらってます。
筆の進みも上向いてきたかな……? 上向いてるといいな。
二人は今日も、仲良く……満ち足りた夜を過ごす。
体をよろめかせながら酌みあって、
足をふらつかせながら支えあって、
心をうわつかせながら寄り添って。
そんな彼女を、余さず受けとめて。
間近に存在しているのを確かめて。
互いを求め、その手を離せなくて。
二人だけで見つめあって、二人だけで触れあって、二人だけで抱きあって、二人だけであたためあって、二人だけで笑いあって、二人だけで目を閉じて、二人だけの場所で過ごして、眠って……
二人は、静かで長い夜に深く沈みこんで憩う。
穏やかな熱のなかで、互いの存在に満たされながら。
二人は、脆い日の射す朝に浅く微睡んで憩う。
朦朧とするなかで、互いの存在を確かに感じながら。
やがて窓から射す光が南を向き、熱を強めていた。
「……そろそろ昼になる、起きられるか?」
「ん〜……あとごふん……あ」
「ふふっ……んむっ」
「ん…………なあっ!?」
昼過ぎごろになって……コアイ達は約束通り、昨日訪ねた宝飾店へ出直した。
特に迷いなく店に着いた二人だったが、直後にそこで得られた回答はけして望ましいものではなかった。
「す、済まない……俺ともあろう者が……」
二人が宝飾店へ入ると……目の下に濃い隈を作った男が直ぐさま二人の前に歩み出て、床に膝を落としていた。男は俯き、冬だというのに額から横顔へ汗を流している。
「お嬢さんのかわいらしい指に着けられそうな指輪、見つけられなかったよ……大口叩いておいてこの体たらく、本当に済まないと思うッ……!」
男は膝立ちのまま、二人に頭を下げた。
「まったく……マヌエル・シノープといえば、大陸でも五指に入る指輪の卸商じゃなかったのか? 俺もヤキが回ったのか? 我ながらとんだ失態だよ」
頭を下げたまま話し続ける男は、ついに自嘲しだす。
しかしそうは言われても、コアイもスノウも……男が名高い商人だとは知らないし、一度の失敗であまり強く詰る気にもならない。
二人とも何も言わず、ただ様子を見ていた。
「じゃ、これからは『自称』ってことにしといたら?」
すると目に余ったのか、後ろで棚を拭いていた中年らしき女が茶々を入れる。
すると男は目を丸くし、少し広い額に横皺を寄せながら女を窘める。
「ぐっ……あのなあ、まだ話は終わってないんだ。今は邪魔しないでくれ」
「はいよ」
女の生温かい返事に応えるように、男は小さく溜息を吐いた。
「話のつづき……なんか方法がある、ってこと?」
そんな男へスノウが問いかけると……男は黙ったまま頷いて、立ち上がった。
そして後方の棚から一枚の紙を持ち出して二人に見せる。
「紹介状だ。さっき書いた」
「紹介状?」
男の言葉を、コアイは何となしに復誦していた。
「この俺が見つけられなかった以上、この街に目当ての指輪は無いはずだ」
「……そうなのか?」
「とりま、そういうことにしとこう」
コアイには分からない。分からないから、スノウの言う通りに認めておく。
「伝手のある先に夜通し聞き回って……品物の情報どころか、手がかりのひとつも手に入らなかった」
「ああ、だからクマ……おっちゃんお疲れさま」
彼女は何かから疲れを察し、男を労う。
ただコアイには、何故彼女がそう察したのか良く分からなかった。良く分からないから、無言で彼女に視線を向けてみる。
それに対し、彼女も視線を返してくれた。ただ、その眼からは艷やかで美しい……以外の印象を受けられなかったが。
「あぁ、それは別にいいんだが、お嬢さんに合う指輪は……この街どころか、ここら地方の一帯……の、どこにも無いかもしれん」
男が言うには、王都まで行けば貴族の息女向けの品を見繕って買い付けることも可能、とのことだった。だが……現在地パルミュールから西、やや北の王都までは……馬でも一月は要する。
往復するだけでも二月と数日、さらに指輪を探して、見つかれば買い付けの商談……どんなに順調でも二、三日ほどは必要となる。冬が過ぎ、春を迎えられるほどの期間。
この時期にそれほど長くこの街を離れて、王都へ赴くことはできない……と言う。
「そもそも、王都まで行ったからといって買えるとも限らないしな」
「なんか、ムリそう……?」
スノウの声が、弱々しく聞こえた。
コアイには、彼女のそれが心苦しくて……胸の奥を締め付けられる。
「だから……作ってもらおうと思う」
「えっ」
「ラスカリス……ここから北西にラスカリスという街があるんだが、そこに知り合いの……腕利きの職人が住んでる。これは、そいつに指輪を作ってもらうための……宝飾商マヌエル直筆の紹介状だ」
そこまで話したところで、男はコアイへ紹介状を手渡してきた。
「有るかどうかわからんものを探すよりは、いっそ作ってもらったほうが話が早い。新しく作るなら、報酬次第でお二人さんの好みを取り入れてくれるだろうしな」
「なるほど、ありがとう!」
「なあに、少し紹介料を取って、預かっておいてくれ……とも書いてある。俺にも得のある話だ、お二人さん金持ってそうだしな」
男はコアイが受け取っていた紹介状の一節を指し示し……そこで男は、初めて笑った。
「転んでもただじゃ起きない、アンタらしいよ」
「なあ、も〜う少しでいいから、邪魔しないで待っててくれよ」
「はいはい」
何故この女がいちいち声をかけてくるのか、コアイには分からない。
それは良く分からないが、それが重要事でないことは解っている。
いま重要なのは、急ぎ目的地へ向かい指輪職人を訪ねること。
いま重要なのは、スノウのために、指輪を手に入れること。




