表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 人の統べる地の内にて
201/313

望みを叶えんと奔る姿に

「この先、更に西……宝飾や装飾品の名産地があると聞いている。そこへ行きたい」

 コアイは今回の旅の、最も重大な目的を……忘れていない。

 スノウへ美しい指輪を贈りたい、という目的を。



「装飾品、か……」

 男はコアイの言葉に、(うつむ)いて考えこんでしまった。


「となると、西のパルミュールか、北のトレビソンか……たしかトレビソンの近くには銀鉱山が……ええと…………」

「おやめずらしいねえ、知恵者アディルが困っちまうなんて」

 アディルと呼ばれる男はピクリと頭を動かし、茶々を入れる給仕の女へ一瞬視線を向けたが……()ぐにまた俯いていた。


「ん〜……いや、銀鉱山はたまに聞くけど銀細工って話は聞いたことがないような……だとすると、山を越えてもっと北西の……ラスカリスかドゥカロスかな?」

「アディルにも分からないことがあるんだねえ」

「そりゃそうだよ(ねえ)さん、俺にだって苦手分野くらい……だいたい細工物なんて、俺には縁のない話だしね」

 何時(いつ)しか男は顔を上げて、頭を()いている。


「で、何処(どこ)へ向かうのが良い?」

 コアイは率直に()いてみる。もしかしたら、ソディから貰った地図に書いてあるのかもしれないが……一先(ひとま)ず話を聞いてみることにする。


「とりあえず、この街にいる理由は無さそうだしねえ……ウチの旦那がね、前にパルミュールで髪飾りを買ってきてくれたことはあるけども」

「うん、パルミュールなら大抵の物は買えそうだね……東から来たなら、南へ行く理由もなさそうだし……ちょっと連れにも聞いてみるよ」

 男は一旦元のテーブルに戻り、何か少し話をしてから戻ってきた。


「とりあえずパルミュールに行ってみたらどうだい? ここから馬で、車を引かないなら五日くらいだと思う」

 男の話によると……

 パルミュールはこの地方の物品が集まる商業の中心地の一つ、いわゆる商都であり……パルミュールの市場や専門店でなら何かしら買える、そうでなくとも産地についての話くらいは聞けるだろう……とのことであった。


「ただもし馬がないなら、ここからパルミュールに行くのは辛いよ。馬で行くにしても、パルミュールの近くまでは目立った水場がないから、三日分くらいは水の用意がいる。そんな道のりだから、一人でってのはあまりおすすめしない」

 どうやら、本来は周到に準備してから向かうべき地らしい。

 男も暗に、誰か案内人を付けるべきだと言っているのかもしれなかった。


 しかしコアイには、馬の駆ける速度を飛躍的に上げる霊薬がある。

 妨げるもののない広野なら、一気に駆け抜けてしまえばいい。

 それなら、案内人を付けてまで……他人と連れ立つ必要などない。


「その街への道中、景色はどうか」

「景色? どう、と言われてもね……」

 次のコアイの問いには、男は目を細め眉をひそめた。


「岩や砂ばかりで何もない、けど……そんなこと気にしてられるような道中でもないよ」

「そうか、分かった」

「ほんとにわかったのか? まあ、俺はまじめに助言したから……それ以上は知らないけど」


 見るべきものがないなら、何も気にすることはない。

 さっさと駆け抜けてしまって、そのパルミュールとやらへ着いてからスノウを()ぶことにしよう。


 コアイは早速宿へ戻って部屋を引き払い、宿へ預けていた馬とともに街の西門へ向かった。



 西門をくぐったところで、コアイは一旦馬から降りた。

 念のため、ソディの地図を確かめてみると……地図の左側に、都市パルミュールについて記載されていた。

 湧き水のほとりに建てられた、アンゲル地方の東西を結ぶ中継点……交通の要衝。そして主に西部からの物品が集まり、それ等を各地へと運ぶための物流拠点……商業都市。


 概ね、男の話通りの記述がなされていた。

 そして、おそらく此処へ行けばコアイの望みが叶うだろう……とも。



 それなら、此処へ行き……彼女(スノウ)と二人で街中を巡ってみよう。

 そうすれば、きっと楽しめる。


 そう確信したコアイは最後に、行程を確かめるため門前へ振り返り門番へ声をかけてみる。


「パルミュールへは此処から西、で合っているか?」

「パルミュール? 小川が見つかるまでひたすら西に行って、小川を見つけたら流れをさかのぼっていけば見つかるはずだけど……」

「そんな装備で大丈夫か? 水は持ったのか?」

 門番二人は当惑した様子で顔を前へ出しながら、質問を返してきた。


「合っているのならそれでいい」

 素直にそう考えていたコアイはそれ以上何も言わず馬に乗り、門番達が見えなくなるまで街から西へ離れた。


 十分に離れた辺りでコアイは下馬し、霊薬を壺から一(すく)いして馬に()めさせる。

 すると馬は霊薬を懸命に舐め取るやいなや、力強く(いなな)いた。

 嘶くとともに後ろ脚で立ち上がり、のち前脚を地面に突き立てるかのように強く踏みしめる。


 今にも駆け出しそうな様子の馬を見て、コアイも早く出発……直ぐにでも駆け出していきたい、という心地を強めた。

 そんなコアイの心境が、身体を馬の背へと飛び乗らせる。

 そんなコアイの心境が馬へと伝わり……人馬が飛び()ねた。




 馬は間髪入れず前進、加速し、歩法を変えてまた加速……


 コアイは日射しの向きから西に進んでいることだけを確かめて、ただ馬を駆けさせた。

 木々の生えていない荒野で、進行方向にだけ気を付けて……あとは馬の勢いと意欲、岩を避ける本能に任せる。


 走るのは馬に任せて、コアイは馬上でスノウとの再会を心待ちにしている。

 身体にも、まるで不調、不安は感じない。

 今なら、スノウのために何でもできる。一片の疑いもなく、そう思える。



 やがて視線の先で西日が落ちても、コアイは構わず馬を前進させ続けて……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ