表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
裏面 私は、黙し史録する務めに
177/313

5 EMOHON(あの時代を知れない)

 この感覚、この肌ざわり……

 街の匂いが優しく……いや、特徴の薄い感じに変わった。

 おそらく……『魔王』がここから遠く離れたのだろう。



 裏路地で意識を取り戻したときには、もう日が傾いていた。

 やはり今度も、身体のどこにも変化はない……なにかされた様子はない。

 裏路地へ入れば簡単にヒトたちの目を避けられるうえ、そこも治安が悪いわけでもない……というのはありがたい。


 

 私は一度腰を落ちつけて、先に可視化した『魔王』コアイの過去を思い返そうとした。

 そうして最初に思い浮かんだのは、美しい横顔を少し曇らせながら一人とぼとぼ歩くコアイの姿だった。


 一人、恋人を想いながら歩く彼女の姿……


 『魔王』コアイの顔立ちは、まるで原初のヒトのようだった。現代のヒトや土着種とは違っていて……

 それはつまり、私たちと同じ種である可能性を意味している。

 しかし、そうだとしたら……なぜ一人で現れたのだ? 私たちと同種なら、家族や……両親はどこへ消えたのだろうか?

 そういう存在が可視化されないでいるのは、なぜだ?


 わからない。

 本人が記憶していないから、というだけの話ではないはずだ。

 もしそうだとしたら、近い未来が可視化されることはあり得ないはずだから。

 けれど私は、おぼろげにだが記憶している。

 おそらく次の、春の訪れ……恋人と二人、深い森の中でそれに触れる彼女の姿を。


 いまの私には、『魔王』をそれ以上深く知ることはできないのだろうか。

 ……そんな気がする。



 『魔王』と呼ばれた者、コアイは……いつしかこの星に現れて、いつの間にか表舞台に立たされ、そしてしばらく封印されて……のち、自らの意志で再臨した。

 そこまでは分かった。けどどこから来たのかはよく分からないし、何者なのか確信は持てない。どこへ向かうのかも。


 『魔王』が突き返された孤独な世界であらゆる望みを失い、すべてを捨てる……という可能性もあったことを、すでに可視化している。

 もしそうなっていたら、この星……いや、この星のヒトたちは…………

 けど結局、この世界はそうならなかった。

 『魔王』はこれから、この星の歴史をどう進めていくのか……


 ただ、どう進められるとしても……それはきっと、あの恋人と幸せに過ごしながら進められるものなのだろう。 

 ……そんな気がしてならない。




 ともあれ私は、『魔王』コアイについてたくさんの記憶を得た。

 また記憶容量不足と言われるかもしれない。とりあえず、『通信』をしておくことにしよう。


 裏路地の陰の、なるべく隅っこに身体を詰める。そうしてから、『通信』をしようと意識した。

 すぐに目の前が真っ暗になり、身体に力が入らなくなる。



 I believe……they get more than yours, someday, someway……aye, believe…………

 Launch completed.



 ……私よりも、多くを……?


 と疑問に思った瞬間、視界が戻った。すぐにまぶしさを感じて……顔に手をかざした。東からの日差し……朝だ。

 やはり見た目にも感覚にも、とくに変わったところはない。


 さて、今日からはどうしようか……?

 『魔王』はもう近くにはいないようだけど、『魔王』が発した粒子はまだはっきり捉えられる……これを利用すれば、粒子走査(スキャニング)で『魔王』の行き先は調べられる。


 ……と意識したら、『魔王』の別の記憶を感じた。



 近くに大きな湖がある、城塞都市の外側。

 これは……ここに来る前にいた、城址(しろあと)……古戦場タフカウか。


 そこで対峙している、『魔王』と人間二人……男と女。


 あそこで『魔王』コアイと闘って、死んだのは……「ヒサシ」と名乗った一人だけではなかったのか。

 それなら……その者の記憶、あり得た可能性を探ってみるのもありかもしれない。

 いったん戻ってみようか。


 私は城址タフカウに戻ることにした。

 そう決めたのは、『魔王』コアイと闘った者たちに興味がわいたからというよりは……いまの私には、『魔王』をそれ以上深く知ることはできないような気がしていたから。




 私はタフカウに戻るため、数日調査したこの城市から立ち去る。べつに名残おしくはない。

 城門から出るとき、何人かから視線を向けられていたような気がするけど……声はかけられなかった、大した問題でもないだろう。


 城市の外には出られたけど、何もないところをとろとろ歩くのは退屈。だから早く移動したいんだけれど、ヒトの生活圏を離れるまでは徒歩で……ヒトのように動かなければいけない。

 しばらくのがまんだ。ヒトも土着種もいないところまで行ければ、そこからは亜音速移動で一気に飛ばせる。


 ヒトができるがまん、私にだってできるはずだ。



 私はがんばって、ヒトの行動範囲を離れた……離れたところからは、亜音速移動に切りかえる。

 空中に足を浮かせて、豪快に砂埃(すなぼこり)を上げながらかっ飛ばす。


 早く城址に戻って、次の人の記憶、過去、可能性を見てみよう。


 飛ばして飛ばして、日が落ちて……落ちたあとは可視光、月明かりを増幅して……それを頼りにしながら城址タフカウへ戻ってきた。



 私はさっそく、『魔王』の記憶から……城の外で『魔王』と闘い、死んだ女のありかを探す。

 しばらく辺りを探って、()()を見つけたときに可視化されたのは、ある女の過去と記憶だった。


 女と、先に可視化していた異界の男との記憶……

 もう一つ、女と土着種の少年らしき者との記憶。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ