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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
裏面 私は、黙し史録する務めに
173/313

1 命が泳ぐ星 


 ん、案内触(リマインド)……?


 ……あと千日、か。

 長らく使いこんで慣れ親しんだ、この身体(オリジナル)ともあと千日でおわかれ。

 次、うまくやれるのだろうか。




 砂混じりの風が吹く城市タフカウに、否タフカウだった城址(じょうし)に……人影が一つだけ立っている。



 城市タフカウは、大陸のほぼ中央、大きな湖のほとりに位置していた。

 ここは昨年、『魔王』コアイと『神の(しもべ)』達との激闘の舞台となった地である。


 しかし激闘の舞台だったとはいえ、『僕』達の集結とコアイの勝利に前後してタフカウ住民の多くが避難しており、また市街地を巻き込んだ戦闘は少なかったため人命、財産や建築物への損害は比較的軽微だった。

 にも関わらず、勝者コアイはタフカウに留まることなく早々に去っていった。また、コアイが去ったあとに後詰めの兵が現れて、街を占拠する……ということもなかった。


 人間達はコアイの意図を測りかねたが、ともあれ援軍として到着した兵には再侵攻への対策を講じる時間があった。そこで、後々コアイやエルフ達の拠点とされないように都市そのものが破却されることになった。


 しかしタフカウの破却は熟慮の末の決定ではなく、戦闘から数日遅れ……援軍としては最初にタフカウへ到着したある有力貴族の軍団が、虚実入り混じった風聞から必要以上にコアイを恐れ独断で行ったものであった。

 実際には、コアイ達はそれ以上の攻撃を考えておらず……タフカウを経由した再侵攻どころか、人間とエルフの小競り合いすら起こらなかった。そのため結果的には拙速な、急ぎすぎた判断だったが。


 ただ戦後、棄却後のタフカウに戻りたがった住民……少なくともそう主張する者はほぼいなかった。

 城市タフカウは、過去には対エルフ、対魔族の最前線「エルゲント」の中心的な城塞として、人間による大陸の統一に大きく寄与した要地であったが……

 『僕』すら一蹴したコアイの圧倒的な暴威を知った後では、その城塞の威容ももはや過去の栄光を虚しく飾るだけと感じられたのだろう。

 そんなもの悲しさばかりが残る地に、戻りたいと考える者がいなかったのも……当然のことかもしれない。


 ともあれ、タフカウ棄却の件は大した問題にならなかった。



 ……という経緯で、もはや城址(しろあと)となったタフカウはときおり野生動物が(ねぐら)とする程度の荒れ地である。


 そこに、人型の……直立しフードを目深に被った、小柄な人影が一つ佇んでいた。




 あと千日なら、半分くらい後継ぎ(憑依先)探しに当てるとして……一年半弱か、それで足りるかな?

 いや、そんなことは移動中にでも考えられる。今はとりあえずここの調査に集中しよう。



 ここが古戦場タフカウ……

 たしかに、強い力が暴れまわった……嵐の後のような場所だ。


 城址をあちこち歩いてみると……その一角に、強い力がまっすぐに流れて、その線上で別の強い力が四散した……そういう痕跡を感じられる地点があった。


 去年のことなのに、まだ粒子の残渣が感知できる……どちらも、相当強い力の持ち主。

 けして敵に回したくはない。そうするのが使命だし、そうならないはずではあるが。


 四散の中心へゆっくり近づいて、立ち止まってみる。するとある人間の記憶が流れ込んできた。

 他に生物のいない地点でそれを感知したということは、そこで死んだ……この星の、ヒトの歴史に影響を及ぼす可能性を持っていた存在の、その過去が可視化されたということ。



 むせ返りそうなほど密集した人間の群れ、へんてこな色で角ばった奇妙な形の建造物、様々な力で動く乗り物たち……この星の過去とも未来とも、まるで違う……文明?

 そこで育ったのち、若くしてこの星に来て……文明レベルの差に不都合を感じながらも、己を鍛え、信念を貫き、恋を実らせ、失い、全てを懸けて『魔王』と闘い……散った男。



 当人の記憶から……おそらく我々とも、我々のヒトとも異なる人類。

 我々とは少し違う匂いがする、そこからも判る。


 ……異界の人類。

 『干渉派』のしわざか。


 異界の人類を召喚する技法。

 『静観派』の記録に、そんな技術体系はない。干渉派独自の技術だと考えられるが……静観派との分裂以前から持っていた技術を秘匿していたのか、それとも静観派の出星の後に編み出されたものなのだろうか。


 いや、自ら編み出したというよりは……干渉派・静観派の分離前に謀殺していた『土着種保護』主義者たちの技術をサルベージしたのかもしれない。

 技術の飛躍度合いを考えると、そちらの可能性が高いのかもしれない……けど、判断するにはまだまだ情報不足だろう。

 それに、大して重要でもないように思える。


 なぜなら、この人間が『魔王』を倒すことでヒトの世界を守り抜く、という別軸……星の可能性は見えなかったから。


 確かなことは、干渉派の末裔らしき女の手で異界の人間がこの星に召喚され、『魔王』排除のために使役され、目的を果たせず死んでいったこと。


 それを知ったならば、次は……その原因となった干渉派を探すか、排除目標とされていた『魔王』を探すか、どちらかな。


 ……先の人間の男の記憶から、男を召喚した干渉派の女は僻地に身を潜めていると予想できる。ならば、まずは探しやすそうな『魔王』のことを先に確かめよう。

 この星に残った干渉派が、異界の人間を使ってでも殺害しようとした……『魔王』という存在を。



 さて、力の流れから予測すると……

 四散したほうが「ヒサシ」と名乗った異界の人間、か。ここで死んだのだから、それはそうなるはず。

 で、力を四散させた側、もう一つの……直流を発した側。それが『魔王』コアイ。


 去年のことなのに、『魔王』が発した粒子の残渣がまだはっきり残っている……これをありがたく利用して、『魔王』の現在地を探ってみよう。

 ここなら、粒子走査(スキャニング)に集中しても危険はなさそう。ちょうどいい。



 ……Now scanning…………



 ダメか、もう少し範囲を拡げて…………



 ……Enhanced your sense…………


 hmm……That……?

 Damn good! We detected it!!


 to SSE:16, okay?



 去年に『魔王』が放ったものと同じ組成をした粒子の存在……ここからはかなり距離があるようだか、南、やや東側を移動しているのを掴んだ!

 ここから遠く離れてはいるが、この辺りにはヒトも土着種もいないらしいから……誰かに見られる心配もない。そのうえ亜音速移動の障害になりそうな物も少ない。

 見に行こう、『魔王』コアイという存在を。



 私は……強い力、『魔王』の力を感じて、南へ。

 私は……この星、あり得た歴史を集めて、皆へ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 新章は別視点からということで、早速新登場の誰かが! 新しい用語も出てきてこれから楽しみですね。
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