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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 安穏のなかで、ひとり鍛錬を
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耐えられない魔王さま

 本投稿より、新章『安穏のなかで、ひとり鍛錬を』となります。


 楽しんでいただければ、幸いです。

 静かで穏やかな大森林の奥でも、季節は巡る。



 コアイはその循環の一部で、ゆっくり眠っていた。


 夏が始まって、宝石を抱きしめて眠る。

 夏の盛りにも、お揃いの宝飾具と眠る。


 そして目覚めて、次は二度寝せず起き上がって……

 一人で起きた朝に、強くさみしさを感じた。


 カンカン照りの陽光が窓から射し込んでいる、それなのにあたたかさを感じない。

 陽も風も盛夏らしい暑さなのに、まるであたたかさを感じない。



 私をあたためてくれる、彼女にあいたい。



 コアイはスノウからもらった小物の数々を机に広げ、どれを使おうかあれこれと悩んで……小物のうちから一つを選び出す。


 そして寝室の一角に、召喚陣(ペンタグラム)を描き…………



 召喚陣が消える代わりに現れた彼女を抱き寄せて、目覚めるまでそのまま静かに待つ。


「……あ、おはよ、王サマ」

 日がだいぶ高くなったころに目覚めた彼女の、脱力した声が……コアイの身も心もあたためてくれた。



 コアイはまず、彼女の求めに応じて食事と酒を振るまった。

 食事はアクドに適当に作ってもらい、酒は以前買い集めた北方の酒を二人で分けあう。


「森の中でもまあまあ暑いねえ、さわやか〜なお酒が合うかんじ」

 彼女が美味そうに酒を口にして、にこやかに語りかけるのを……無言で見つめて、コアイは微笑む。


 嬉しそうな顔……コアイには、それが嬉しい。



 食事を終えてから、腹ごなしに城の近くの林道を馬で駆けてみる。

 彼女が承知するなら、乗馬の練習を兼ねても良いか……と考えていたが、この日は準備できるのが一頭、一人分のみだということだったので、二人で乗ることにした。

 彼女を前に、鞍に座らせる。すると鞍も一人用のため、コアイが座るのに適した場所がなくなるのだが……コアイには斥力があるから、別に問題はない。


 馬を駆けさせると、前に乗せた彼女の髪から香りが届いて……コアイの胸を高鳴らせる。

 途中、景色の良い場所で下馬し……手頃な場所に腰かけて軽く酒を酌み交わしてみた。


「この辺、意外と花は少ないよね。季節が違うだけかな?」

「分からぬ、分からぬが……花が好きなら、探しておく」



 城に戻ってからは二人で風呂に入り、汗を流して暖まり……そこでも、飲みすぎない程度に酒を愉しむ。


 隣で頬を染めて笑う彼女の姿が、コアイの思考を、頭の奥をジリジリ焼き焦がす。




 そして日没後、二人は寝室のベッドに寝転がっていた。



 コアイは、特にスノウと言葉は交わさず、固く手を繋いで……しばらく無言で視線と指を絡めている。


 そうしていると、彼女の真っ直ぐな瞳が少しずつ潤んできて。

 コアイはコアイで、彼女の眼差しに意識を吸い寄せられるような心地になって。

 


「んぅ〜……」


 やがて彼女はコアイに覆いかぶさった。コアイも、彼女の背へ手を回し身体を密着させようとする。


 そして彼女から二度、軽くコアイへ口づけた。


「ぁ……」



 やはり()()は……とても抗いがたく、とてもあまいひととき。



 コアイがそれを感じて惚けているうちに、スノウは体勢を入れ替えコアイの後ろへ回ろうとしていた。

 コアイはそれを察したところで、ふと彼女の手首を取り……彼女が離れていかないことを確かめる。

 そして彼女がすぐ後ろにいるのを感じたところで、手の位置を変えて……あたたかな彼女の手を握る。


 と、いつの間にやら彼女が……コアイの耳に熱いものを這わせていた。



「っ……」

「王サ……すき……」



 耳元から背中にかけて何かが走って、私は空いた手で無意識に口を押さえていた。

 そうして身体中を震わせながら、彼女の手、指が……私の肩でも背でも(うなじ)でもない、他のどこかへ伸ばされてようとしている……なんとなく、それを感じた。


 そして、その予測どおり彼女は私の首元から、ローブの隙間に……

 彼女はそこに、手を入れて…………



「ひぅっ!?」


 触れられた()()から背中、いや全身へと何かを通されたような感覚がして、ビクッと身体が震えた。

 そしてそんな私の、喉の奥のあたりから……変な高い声が勝手に出ていた。

 不意に起こったそれが、どうにもどうしても……


「あ、あ、あの、今、いまのは、えっと…………」


 それがとても恥ずかしくて、胸の内がズキズキと痛くて。

 それを彼女に聞かれたことが、どうしても恥ずかしくて。



 片手は胸を、片手は口を押さえていて……気が付いたときには、私の身体から這い出た血縄が彼女を引き剥がしていて……彼女の周りで召喚陣が輝きだしていた。


「えっちょこれマ!? 待って、あっカバン……」


 その声を聞いた、気がしたところで……身体から別の血縄が飛び出して、彼女の荷物を素早く手繰り寄せて召喚陣に押し込んでいた。


 それを待っていたかのように、召喚陣が輝きを強め…………


「えと、急にごめん、あの、また今度ね!!」

「あっ…………」



 彼女は喚ばれたその日のうちに、元の世界へ還され……消えていた。

 それは、彼女から与えられた感覚と、私の反応と、気恥ずかしさに耐えられず……無意識のうちに彼女を追い返してしまったため。




 ああ、やってしまった……


 初めて口づけられた、あの時と同じように。

 またやってしまった。


 私は、彼女の希望に応えることができなかった。

 私が、彼女をしっかりと受け止められていれば。



 彼女のことを全て受け止め、受け入れることができなかった。それが歯がゆくて、申し訳なくて……コアイは身体の痺れと疼きを残したまま、枕に顔を埋めて泣いてしまった。



 私はいつでも、彼女を喜ばせる私でいたいのに。

 ちょっと懸念はある(ボソリ)

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