もっと惚れてみた
お腹がいっぱいになったら、眠たくなってきた。とはいえ、貴文様とのでぇと中。眠るわけにはいかない。隠し武器の針……には睡眠か麻痺毒が仕込まれているから使えないな。その辺に頭を打ち付ける……のは、貴文様が驚くからダメだ。
「フェル、眠たいのでござろう?拙者、本を読んでいるから少し眠るでござるよ」
「え?」
確かにここ数日姫様が心配で眠れていなかった。眠ると姫様が私と同じ目にあわされていて、声にならない悲鳴をあげて飛び起きる。うなされていた、とアイリス様に起こされることもあった。
「アイリス殿がフェルを心配して、少し眠らせてほしいと話があったのでござるよ」
貴文様はあっという間にマットレスを出し、シーツをかけ、枕と毛布まで取り出した。寝かせる気満々だな。ここまで用意していただいたのだ。断る方が失礼だろう。
「……では、ひとつお願いがあります」
「くうぅ……モフ可愛い!」
私は貴文様の膝を枕にしている。これもアイリス様から聞いたでぇとの作法である。本来は女性がする側なのだが……それはまた次の機会でいいだろう。貴文様からは、いつも薬草か食事の匂いがする。その匂いから食事を予測するのは密かな楽しみだ。それよりもいい匂いなのが貴文様本来の匂い。柔らかくて花みたいに甘い、とてもいい匂いがするのだ。
「…………たかふみさま……」
貴文様はあまり筋肉がないから、膝枕も固くない。適度に柔らかくていい感じだ。さらに貴文様が頭を撫でてくれる。こういうのが、きっと……。
「うん?」
「……しあわせ、です」
周囲には警戒するラッキーやラウビウ達の気配。ここは安全な場所。大好きな人に甘えて、眠ってもいいんだ。優しい手が、たまに耳をくすぐる。
あれ?動かなくなっちゃった。もっとほしいのに。
「たかふみさま、すきです」
「!??」
「なでなで、すきです。もっと………」
薄れていく意識の中で、そっちかああああと真っ赤になって震える貴文様を見た気がした。
急激に意識が浮上する。一瞬ここがどこだかわからず戸惑ったが、私に膝枕をしたまま眠る貴文様を見て思い出した。貴文様をお守りしなくては。
前方に、百数十もの魔物の群れ。まっすぐこちらに向かっている。大体一時間ほどでこちらへ到達するだろう。ラッキーやヘルハウンドが向きを変えようと奮闘しているが、流石に難しかろう。ラッキーにブレスで森ごと焼き払わせるわけにもいかない。ラウビウは無関係なものを避難させている。数体のラウビウに貴文様を避難させてもらった。ラビルビというユニーク個体もいるから、問題ないだろう。
もらったブレスレットは可愛いだけでなく、収納魔法が付与されていた。他にも機能があるのだが、割愛する。エドがキレること間違いなしな性能だ。
「エフェクト起動」
弓と矢を取り出し、靴を交換した。流石に着替える暇はない。ピリピリと感じる殺気。今だけ、私は貴文様の騎士。私は姫様の騎士だが、今だけは彼の騎士になりたい。
弓の勇者にして騎士。フェリチータ=ヴァルナは、守る者のために戦うのだ。
弓に矢をつがえた瞬間から感覚が鋭敏になり、獲物の気配を瞬時に捉えた。
まずは、一射。命中。一撃で眉間を貫いた。
二射、三射。次々に矢が命中する。
そうだ、忘れていた。弓の勇者としての感覚を一射ごとに思い出す。気がつけば、群れで突進していたクレイジーボアを全て倒していた。毛皮を剥ぐのが面倒だなぁ。どうしよう。
「わん!わんわん!」
「わうん!」
ラッキー達が駆け寄ってきた。うわ、血まみれだな。
「流石はドラゴンとヘルハウンドだな。お前達の足止めのおかげだ。礼になるかはわからんが、好きなだけ食べてくれ」
「わん!」
「わふん!」
食べにくかろうと皮を剥いだものを与えると、どちらも勢いよく食べだした。
「いい食べっぷりだな」
次々皮を剥ぎ、血抜きをする。ラッキー達が食べるぶんは血抜きをせずにそのままだ。そうだ!これを売れば貴文様にお返しができる!私は俄然やる気になり、ひたすら解体しまくった。
「フェル?」
「貴文様………あ………」
貴文様に笑顔で話しかけようとして気がついた。私は解体作業をしていたから血まみれで、いつの間にかどこかで引っかけたのだろうか……服も破けていた。
どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。買ってもらったばかりなのに。綺麗にしてもらったのに。貴文様に嫌われてしまう……。
「怪我は!?」
「きゅうん?」
「怪我!怪我は!?」
「あ、ありません」
初めて見る貴文様の鬼気迫る表情に、涙がひっこんだ。
「よかったあああああ」
貴文様がへたりこんだ。血まみれの私を掴んだから貴文様も血で汚れたが、気にするそぶりもない。
「貴文様……」
よかったって、ちっともよくないじゃないですか。私、貴方からの贈り物をダメにしたんですよ?それなのに……貴方は私の心配をするんですね。
「フェル!?やっぱりどこか痛いでござるか!?」
「………へ?」
気がつけば、私は泣いていたようだ。
「フェル!?どうした?どこが痛い……?」
私の顔を覗きこむ貴文様に口づけた。真っ赤になる貴文様。彼は血で汚れたって気にしない。私を心配してくれる。だから、ギュッと抱きしめた。
「ふふふふふふぇりゅ!??」
「………ちょっとだけ、このままで」
ぎこちなく貴文様の手が私を抱き返してくれて、言いようもないほど幸せな気持ちになった。どうしよう。知れば知るほど好きになる。どうしようもなく、幸せなんだ。




