神の使いと話してみた
シーザがいた教会の神父様目線です。
養い子の一人であるシーザ。私は彼をとても心配していた。美しい見目であるばかりか、彼は猫妖精の獣人。愛玩用として、あるいは愛人として、この国で愛されている。そう、奴隷として。
そもそも、幻獣人は非常に貴重で寿命も人より長い。長寿ゆえ、出産率が低い。かつて国の中枢にいた私ですら、数えるほどしか見ていない。私はかつて公爵家の嫡男だったが国の腐敗に嫌気がさして、弟に家督を譲って神父になった。弟まで腐らないことを祈るばかりである。今は神父として子供達と貧しいながらも幸せに暮らしている。
話が逸れたので戻そう。そんな事情を知っていた私だから、シーザを哀れに思いながらもその幻獣人としての姿を他者に見せないように言い聞かせた。シーザは賢く素直な子だったから、その言いつけをきちんと守り、誘拐されることはなかった。
だが、私は一つ、間違いを犯した。
シーザは醜いゆえに猫妖精としての姿を見せてはいけないと誤解したのだ。何度も弁解した。心を込めて、シーザは可愛い子だと話した。だが、彼は私が慰めているのだと思い込み、誤解は解けないまま。
シーザには天賦の才があり、勇者となり、立派な冒険者になった。教会を離れず仕送りをしてくれる彼を誇らしく思う反面、申し訳なく思っていた。彼ならもっと自由に、幸せになれるのではないか。我々が、彼の重荷になってしまっているのではないか、と。
そして、恐れていた最悪の事態が起きてしまった。
「今、なんと?」
「いや、だから………」
懇意にしていた冒険者の一人から話があった。シーザが罪を犯して奴隷になった。しかも、この教会を潰すと脅されて。
「神よ、あの子を救ってください!!」
内心では限りなく憤っていた。無力な自分が惨めで悔しい。あの時手放した身分が……権力があれば……いや、それではあんなに嫌悪した連中と同じではないか!!
表面上はどうにか取り繕っていたものの、人の機微に敏感な子達には隠し通せなかった。私はなんと未熟で、愚かなのだろうか。
「し、神父様……」
「シーザ?シーザ!?ああ、神よ!!」
怪我もしてないし、やつれた様子もない。彼は怯えながらも己の罪とある人物について話してくれた。
「そうでしたか………きっと神のお導きなのでしょう」
奴隷にそんな扱いをするなど、聖人でもないのではないだろうか。おや?なんだかキッチンの方が騒がしい。
「……………………は?」
私が貴族社会に耐えられなかったのには、理由がある。それは、私のスキルだ。どういう原理か知らないが、人のカルマが見えるのだ。だから私には、貴族が汚物にしか見えなかった。奴等は人ですらなかった。
だが、今私の目の前にいる青年は………一片の淀みもなく、穏やかに輝いている。傍らの獣人女性もまた、彼ほどではないが淡く光っていた。
「天使…………?」
もはや人ではありえない清らかさ。敬愛する大司教様でも到達していない境地だ。そう、天使。神の御使い様なのではないだろうか。
慈愛に満ちた瞳で子供達に食事を与えるそのお姿は、正しく御使い様。子供達が満腹になると、彼は礼儀正しく挨拶をしてくれた。
「神父様、シーザ殿の主となりました、タカ=レイターにございます。大事なお子さんを連れていくことになって申し訳ありません。必ず彼がここに戻れるようにします」
「………シーザの主が、あなたのような慈悲深い方で安心いたしました。また、この教会に護衛をつけてくださり、このような寄付まで……感謝してもしきれません」
なんと清らかな御方だろうか。見ているだけで心が洗われるようだ。いや、実際に彼の穏やかな波動は、そこに存在するだけで周囲を癒している。背後にいる天使よりも清らかだ。本当にこの人は人間なのだろうか。
天使よりも清らかだとか、明らかにおかしいじゃないか。
「あ、神父様。ちょっとこう………雨漏りする部分を直していいでござるか?」
「は?いや、まさかそこまでしていただくわけには……」
「雨漏りしたら、腐ってしまうかもしれぬでござる。今ならすぐでござるよ」
「で…………では、お願いします」
「じゃ、危ないから外に出ていてくだされ。覗いたらダメでござるよ」
従者らしき青年が何か言っていたが、最後には諦めたというか…………悟りを開いたみたいな顔になっていた。彼はなんというか………普通の人だ。なんとなくタカ様は清らか過ぎて落ち着かなかった。
「………あの………」
「なんすか」
「…………すごく内部が光りましたね」
「………そうですね」
「……………屋根が………」
「消えましたね」
「……………屋根が……」
「出てきましたね」
「……………教会が……」
「なんかで包まれて新築みたいになりましたね。ゴルアアアアアア!これ誰が誤魔化すんですか!?俺ですね!??もう、こうなったら派手に演出してくださあああああい!!」
「ハナタカ=ダッカー!!」
あ、この人こそが、今や世界で知らぬものはいないハナタカ=ダッカー氏だったのか。
「シーザ」
「あ、はい」
「タカ様はいずれ、世界を救うやもしれません。彼を守りなさい。それがお前の贖罪です。傷つけた人よりも多くの人々を救うことになりましょう」
「はい!!」
それは神託ではなかったけど、私の中では揺るぎない事実だ。
それから、私に一つだけ習慣が増えた。私は毎日、神とハナタカ=ダッカー氏に祈りを捧げている。
神よ、どうか彼の進む道を照らしてください。彼をお守りくださいと、毎日祈るのだ。それが可愛い元養い子の幸せにも繋がると信じて。
ちなみに周囲を癒しているのはスキルでもなんでもなく、貴文自身が穏やかな気質なので周囲を和ませているだけ。
癒し系オタクなんであります。




