紳士にキメてみた
エド君視点になります。
うちのご主人様は優しくて穏やかだが、アホだ。たまに突拍子もない事をやらかす。俺達が危険かもしれないからと犯罪組織を潰しに行ったり、ちょっと目をはなした隙に変な機械をお供にしていたりする。
今回は、あらかじめ申告しただけマシだと思うべきか、叱るべきか。判断に迷うわ。
時間は少し遡る。奴隷になった猫妖精の獣人を連れ、教会に行ったご主人様。何故か神託がくだり、まだ数日しか経っていないのにあのディスるソングを神父と子供が完璧に歌っているのを確認。無駄にクオリティが高かった。さらに教会に『ハナタカ=ダッカー』の代理人として多額の寄付をした。そして、今夜とても騒がしくなることを謝罪していた。
そして、夜。
詳細は聞かされていない冒険者達が教会に集結していた。
教会が一斉に灯りでまばゆく輝く。後で聞いたが、あの灯りはスポットライトと言うらしい。心底どうでもいい。そして、教会の屋根でスポットライトを浴びる男は言わずもがな……うちのご主人様なわけだが………。
「私は紳士☆ハナタカ=ダッカー!!」
ご主人様とは似ても似つかない男が、両手を握って鼻と繋げ、あたかも鼻が長いように見せていた。そもそも、ハナタカ=ダッカーは鼻が高い。ご主人様のお手製スライムマスクと特殊メイクによるものだ。ご主人様の世界にはスライムマスクはないが特殊メイクはあり、別人に変装できるのだという。スライムマスクだけでも完成度が高いのに、マスクの継ぎ目を特殊メイクで埋め、自然な肌色になるよう調整していた。ご主人様は訳のわからない分野で無駄に技術が高いと思う。
「さあ、皆さん!ご一緒に!ハナタカ=ダッカー!!」
やらねーよ、と思ったが教会の子供達は素直に真似ていた。やらなくていいからね。
素直な子供達に満足したっぽいうちのご主人様は(多分)調子こいて屋根から落ちかけた。アホだ。
「わ、私は紳士☆ハナタカ=ダッカー!真の魔王の剣と敵対する者である!彼らは罪もない人々を策略によって奴隷に落とし、魔物の餌にした鬼畜である!このマナシをも、彼らは滅ぼそうとした!このような暴挙は、紳士としても許せないのであ~る!!」
今までで知った『真の魔王の剣』の悪事が空中に映し出される。おい、こんなん出すとか聞いてねぇぞ!?明らかなロスト・テクノロジーじゃねぇか!!
しかし、映像仕立てだからとても理解しやすい。冒険者数人は、特級や霊薬市場の独占を見て、明らかに殺気だっていた。それが無ければ、救える命があったのだろう。回復薬は生命線だ。
「私は、絶対に奴らを許しません!さらには、教会を襲って神の力を削ごうとしたのです。紳士として許せません!さあ、子供達よ!その歌声で『真の魔王の剣』の力を削ぐのです!!」
ご主人様が紙をばらまいた。例のディスなんとかの絵と歌詞が書かれた紙だ。ハゲチビデブの三重苦を体現した、腹にも顔があって角もあるおっさんがフルカラーで描かれていた。そして臭そう……あ、四重苦か。
そして、素直に子供達は歌い出す。
クッソ弱いおっさんなんだぜ
(あいつの名前はなんだっけ?)
ハゲチビデブで、臭いんだぜ
(うんうん知ってる。ディスピなんとか)
真の魔王って最悪なんだぜ
(うんうん知ってる。モテないよね)
勇者にいつも負けちゃうんだぜ
(うんうん知ってる。勝てないんだよね。むしろ勇者が強すぎる)
さあ、皆で歌おうぜ!
ディスピーなんて怖くない。怖くないったら怖くない。
(真の)魔王のくせにクソ弱い。クソ弱いったらクソ弱い。
ディスピーなんて滅んじゃえ。滅んじゃえったら滅んじゃえ。
ディスピーなんかブッ飛ばせ!ブッ飛ばせ!ブッ飛ばせ!!
イエエエエエエエエ!!
最後のシャウトはやっぱりいらないんじゃないだろうか。そして、子供達はよくこの短期間でマスターしたな。思わず皆が拍手していた。
「ファンタスティック!素晴らしき歌声です!」
そして、ご主人様の背後に天使をたくさん引き連れた神の使いが現れた。勇者とは、神の力を与えられた武器を使う者。だから、あれが神に連なる存在だとわかる。
ご主人様、後ろ。後ろ、後ろ。神の使いも輝いているんだけど、スポットライトの方が眩しいから全く気がついてない。
「私も歌いましょうか」
ご主人様、スゲー歌うまいわ。あの馬鹿みたいな歌詞なのに、涙が溢れるぐらいに感動してしまう。そして、背後の神の使いも泣いている。歌に感動しているのか、気がついてもらえないからなのか………どっちだ?
あ、神の使いが多分祝福して消えていった。どうやら感動してしまったらしい。スゲー満足げだったわ。そして、最後のシャウトでその場にいた全員がひとつになり、皆が全力で叫んでいた。
ナニコレ。
ナニコレとか言いつつ、エド君もめっちゃ叫んだらしいです。




