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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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また今度

6月22日~29日は更新を停止して設定などを練り直します。

それ以後は普段通りの週5ペースに戻す予定ですので、よろしくお願いします。

 結局、「タロッテの楔」を通って南の港に着いた頃にはもう空が白み始めていた。

 アンタルトカリケとドラコさんは今後も情報を交換するということで合意した。

 その連絡係として、俺も関わることになる。

 タロッテとアンティロスを往復して、それぞれで通信魔法を使ってメッセンジャーの役割をすることになったのだ。

 この役目に対してドラコさんから対価をもらえることになり、交易がうまく利益を生むか心配だった俺には有りがたかった。


 南の出口は、北と逆に東側に面していた。

 海軍が北港の西側、南港の東側を使用しているのは、「楔」の利用を考えてのことなのだろう。

 まだ人々が動き出す前で、港には人気がなく、ただ停泊中の船が揺れていた。

 こうして船だけの港を見ていると、それぞれの個性が見えてくる。

 たっぷり荷物を積むための船、高速を活かす船。大型船、小型船、あるいは近海用の櫂漕ぎ船。商船の他にも網を積んで舷側が低くなっている漁船、小型高速で頑丈な造りの冒険船。

 そんな様々な船の中で、俺の……もう、俺のと言ってもいいだろう、ウラッカ号はどう見えるか?

 最初にニスポスの港で見た時は、整った船だな、という印象だった。

 確かに古いし、アリビオ号のように技術を尽くした船ではない。

 あの時は自分が船長をするという贔屓目もあって、よく見えたのかもしれない。

 だが、今後はその船主となるのだ。

 そのことが、船をより良く見せるのか、欠点が目につくようになるのか、どっちになるのかはわからなかったが……


「いや、やっぱり格好いいなあ」


 とにかく、今はそんな感想だった。


「どうした、ケイン。見とれているのか?」

「ええ、まあ……自分の船だから公平には見られませんけど」

「やっぱりお前は船乗り向きなんだろうな。地球じゃ普通の学生だったんだろう?」

「ええ、あの時代だから船乗りなんて一般的じゃなかったですから、本当に自分で海に出るなんて夢にも思いませんでしたけどね」

「そうだよなあ……だけど、もう立派な船乗りだな。どうだ? 海での生活は楽しいか?」

「ええ、当然ですよ」

「そうか……まあ、いいめぐり合わせだったってことだな」

「そうですね。色々心配なことはありますが、ずっと船には乗り続けていこうと思っています。目指せ『冒険船長』ってのもいいかなと思っていますよ」

「ああ、レイクのことか。そういやまだ生きているんだってな」

「知っているんですか?」

「うん、一時期一緒に行動していたよ。あれはクランクをからかいに行った時だったかな。まあ、用事があったのは俺だけど、他の船長だとわざわざ魔王の本拠地に近づいてくれ、なんて頼みは聞いてくれなかったからなあ」


 そんなことをしていたのか。

 俺はふと気づいた。ドラコさんが昔のことを話すときに度々見せた寂しそうな表情が、今はちょっと変化していることに。

 やはり、レインさんの件が……

 俺は、なんとなくだが、ドラコさんはもうあのような表情をしないような気がした。

 それはいいことなのだろうか? いいに決まっている。誰だって、未来を見て生きる方が絶対にいいはずだ。


「会うことがあったらよろしく言っておいてくれ。ああ、あの時はまだドラコと名乗って居なかったから、ユークじゃないと通じないぜ」

「……はい、必ず伝えます」


 俺達は朝日が見えるまで、そのまま何も言わずにその場に佇んでいた。



********



 パットは、今日は船にはいない。町の宿屋で宿泊しているのだ。

 繰り返す、パットはいない。

 だから、俺達は普通に船に戻ることが出来た。

 もちろん、やましいことなんて無い。

 だが、パットにとっては自分より胸の豊かな女性は全て警戒対象なのだ。

 必然的に、成人の95%がパットの警戒対象になる(俺調べ)。

 とにかく、俺達は無事に船に戻ることが出来た。


 一休みして、出港準備にとりかかる。

 今後の計画を考えて、今回は試しに魔法書を積んで帰ることになっている。

 本当なら資金は船を買うために残しておくべきなのだが、思い切って魔法書や航海書を多めに仕入れるのに使った。

 いずれは需要を調査して仕入れる本を考える必要があるだろうが、今のところは絶対的に不足しているから仕入れれば売れるだろう。

 それによって、交易の原資と船の改装資金にしようという目論見だった。


「うーん、船倉はジメジメしているな」


 正直、本にいい環境とは言えない。

 今回は皆に頭を下げて、なるべく船の高い位置に本を積むことにした。具体的には、俺やディオンさん達が共用している船尾の大広間の片隅に積み上げられている。

 改装時にはその辺りのことも考慮する必要があるだろう。

 しばらくすると、上陸していた面々が船に戻ってきた。

 相変わらずメイカさんの足元は危なっかしいが、彼女がいなければ事件の後始末の手続きはもう少しかかっただろう。出港も2~3日遅れていたと思う。

 マテリエさん、ジャックさんは、それぞれ新酒を樽で持ち込んでいた。


「アンティロスで売るんですか?」

「何言ってんのよケイン、帰りの分よ」

「……」


 パット、ディオンさん、カイラさんと次々に乗船し、それぞれが帰りの荷物を整理して、ようやく出港準備は整った。


「では、船長、お願いしますだ」

「よし、前後とも展帆、同時に錨を上げる。進路そのまま……見張りは周りの船の動きに注意しろ」

「「「アイアイサー」」」


 この船を買い取る計画について、ガフには話してある。

 彼の能力に疑問はないし、できれば今後も続けて俺を助けて欲しいと思っている。

 そして、もう一つ、彼を連れて行きたい理由がある。


「それでは、今後ともよろしくだす」

「……よかった。こちらこそよろしく」


 熟練の彼が俺みたいな未熟な船長に付いてきてくれるか本当は心配だった。


「……でもいいんだすか? おらを航海士だなんて……」

「それは問題ない。それに、今後のことを考えたら資格を取っておいた方がいいだろう?」


 身長や見た目の問題で、ガフは専門職として操舵士になるしかなかった。だが、経験は豊富だし、今でも航海士として十分な知識と技量がある。それを活かさない手は無いのだ。

 ウラッカ号は俺の持ち船になる予定で、しかも船員は少数だ。

 彼が航海日数を稼いで、航海士としての資格を取るのに、一番いい環境だと思ったのだ。

 まあ、船長の俺自身が当直に立たなければいけないのは結局一緒なのだが、それでも頼りになる仲間を得られて、一安心だった。

 船は順調に港を離れる。

 一瞬後ろを振り返ると、タロッテの大壁と、それによって東西に分けられた町が見える。せいぜい1週間やそこらしか居なかったのに、ずいぶん長居したような気がする。

 来るときには目に入ってはいても気にも止めなかった、汚水を吐き出す下水路の位置も今ならはっきりわかる。

 だが、今後は何度もここに来ることになるのだ。アンタルトカリケとの約束もあるし、魔法の勉強だってある。まだ船の往来が多い場所だし、振り返っている場合ではない。


「また、今度だな」


 俺は船の行く手を見つめながら、背中のタロッテに向けて、つぶやきともいえる言葉を吐いた。



********



 ガイアートへは予定通り2日かかり、そこでダイクさんとグルドを下船させた。

 2人とも、感謝の言葉を俺達に告げて船を降りていった。

 グルドは、教会でのドラコさんの活躍を見てすっかり牙を抜かれたようになっていた。

 奴にはドラコさんの正体を教えていないから、世の中にはあのようなとんでもない冒険者もいるのだと、自分を見つめなおすことになったようだった。

 ガイアートでは上陸の予定はなかったので、俺達はすぐに港を離れた。


 後の航海は順調だった。

 酒飲み達は早々に新酒の樽を空にして、船の酒に切り替えていた。

 ディオンさんたちは、今回の報告書やその他の書類と格闘していた。

 カイラさんは相変わらず物静かだったが、最近は船にいる間は木彫細工で時間を潰すことにしているようだった。ちょっと見せてもらったが、十分売り物になる出来だった。

 俺は、パットと売り物の魔法書を読んで勉強したり、ドラコさんから大魔力を一気に引き出す方法を教えてもらったりしていた。もちろん当直もあるので、ほとんど休む間もなかった。

 必然、パットとの勉強時に居眠りをすることがあるのだが……いやー、膝枕っていいもんですね。

 それはともかく、航海は続いてウラッカ号はアンティロスに到着していた。

 ディオンさん、メイカさん、ドラコさんの予定を考えて、そして俺とウラッカ号の都合もあって、旅の終着点を変更したのだった。


「今回は本当に世話になったな」

「いえ、こちらこそ色々と教わる事が多かったです」

「今後もあいつとの連絡役、頼むぞ」

「はい……ドラコさんはこのまま国へ?」

「ちょっとここの国王の顔を見に行くからな。飽きたら適当に帰るさ」

「そうですか……」


 通信魔法を使えば、ドラコさんが国に帰ってもアンティロスから話すことは出来る。

 だが、俺は船乗りで彼女は人間とあまり関わらない性質の魔王だ。

 もしかすると直接会うのは最後になるかもしれない。

 俺は、ドラコさんの目を真正面から見た。彼女も視線を合わせて俺の目を見る。

 突然、ドラコさんが笑い出した。


「はっはっは、大丈夫だ。俺もたまにはここに来るから、二度と会えないなんてねえよ」

「……ドラコさん、ひょっとして魔王って全員人の心が読めるんですか?」

「いや、なんとなくな……まあ、いいじゃねえか……それじゃ、ケイン。よい航海を!」


 そうやって右手を差し出してくる。

 俺は、その手を取って力強い握手をドラコさんと交わしながら、こう返した。


「ええ、ドラコさんも……また今度」

「ああ、また今度な」



第3章 了


本章のあとがき:


ここまで見ていただいてありがとうございます。

今のところ全8~9章ぐらいかなと思っていまして、計3部構成の第1部がここで完了したということになります。

3章はあんまり船で暴れさせられなかったですが、今後の展開も考えると外すわけにはいかないエピソード、序盤の整理の章となりました。


今後のことですが、とりあえず1週間更新は止めます。

設定とか整理したいことがありますので。

一週間後、月末ぐらいから、同じペースで続けていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

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