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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
二章 大会 ~高校一年生・一学期~夏休み~
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蓮の三十七 燃えたよ。燃え尽きた。……真っ赤にね


 蓮くん視点です。


「ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふ……」


「お~い、博士~? 急にぶっ壊れて、どうした~?」


「そっとしておいてやれ、階堂氏。相馬氏は今、テスト結果という変えられない現実に打ちのめされているのだ。拙者らが何か言っても、慰めにもならん」


 机に突っ伏し、自分でもよくわからない感情から笑いが湧き上がってくる。


 声からして、階堂が僕の頭をペシペシ叩きながら僕の安否を確認するが、無視。


 春からフォローの言葉を聞いた気もするが、どうせ平均点以上の優良テストばかりだった二人に、僕の気持ちなんてわからない。


 そう、全教科赤点だった、僕の気持ちなんてっ!!


 演劇部のみんなと期末テストの勉強会をしてから、早いもので三週間くらいたった。


 テスト期間中は何回か演劇部で集まり、静かな勉強会をしていて。


 テスト本番の週はひたすら自分の記憶の引き出しを漁りまくり。


 そして今日、すべてのテスト結果が返ってきたわけだ。


 国数社理英の基本五教科はもちろん(?)のこと、芸術や家庭科などといった副教科も含めて、僕のテストは見事に真っ赤に染まっていた。


 一番高い点数で、32点。一番低いと、15点。


 ここまでくると、0点じゃなかっただけマシだと思えてくるから不思議だ。


 前回の中間テストは、赤点だったのはまだ半分の教科しかなかったのに。


 僕の成績グラフは下降の一途(いっと)をたどっている。


 頭を下げてまで勉強会を開いてもらったのに、この体たらく。


 自分で自分が情けないよ。


 バカなんじゃない?


 ああ、バカだから赤点なのか。


 ……あはは、こりゃ一本取られたね。


「うふふふふ……」


「はかせ~、そろそろもどってこ~い」


「やめろ階堂氏。相馬氏の頭を何度も(はた)くな。余計バカになってはどうする?」


 余計なお世話だよっ!!




「はぁ……」


 最後のテスト結果をもらったのが朝で、テンションダダ下がりのまま昼休みになった。母さんの弁当をパクつきながら、僕はため息を抑えきれない。


 テストが終わるとまた演劇部の練習も再開され、忙しい日々がまた戻ってきた。


 何より、もう七月になったから、大会まで一カ月を切ってるんだ。


 最初の地区大会が七月の月末だから、本当に時間はない。


 練習にも熱が入るし、演技の完成度も上げていかなきゃならない。


 僕以外の演劇部メンバーは、とても順調なのだとターヤ先輩からは聞いている。


 なんでも、最初にやっちまったスバルの演技指導が、晴れて正式に部員全員の演技の指針になったそうだ。


 最初こそスバルに反発が多かったものの、演技に関してだけは(まと)()た意見ばかりであったため、時間が経つにつれて落ち着きつつあるんだって。


 まあ、週一くらいで練習に来るスバルを目の前にすると、やっぱり邪険にはしているようだけど。二年生の先輩は全員、スバルが来た日は帰宅時の機嫌が明らかに違うしね。


 練習に参加するスバルは誰よりも上手い演技を披露(ひろう)し、カットがかかれば先輩たちに細かい点を容赦なく指摘していく。


 その上、スバルの方から仲良くなろうとする意思が感じられず、積極的にぐいぐいくるハーリーさん以外の部員とは距離が縮まらないのだそうだ。


 それは、仕方ないのだろう。スバルの性格と心の問題だから、僕からどうこう言えることじゃない。


 そんな中、特にスバルへの当たりがキツイのが、オウジ先輩だとのこと。


 事あるごとにスバルに突っかかり、()げ足を取ろうとしては失敗しているみたい。


 そりゃあね。演技に関してはたとえ煌院(こういん)学園にいたオウジ先輩とはいえ、スバルに勝てるわけがない。普通に相手が悪いよ。


 衝突が起こればミィコ部長が主に仲裁(ちゅうさい)に入るらしいけど、当のスバルがオウジ先輩を相手にしていない節があり、ガチの喧嘩に発展したことはないそうだ。


 それがいいことなのか、悪いことなのか、僕としては微妙だと言わざるを得ない。


 大きな衝突がないってことは、反対にオウジ先輩の中で火種がどんどん(くすぶ)ってる、ってことだからね。


 いつか大爆発して大事にならないか、僕としても心配だ。


 そして、僕はと言えば、相変わらずのすってんころりんを続けている。


 何度か部員みんなと通し練習をしたものの、全戦全敗でこけまくっていて、進歩がない。


 しかも、「あぁ、これはこけるな」と僕も予想できるほどの回数こけているので、台本にはないはずの転倒シーンとタイミングまで覚えてしまった始末だ。


 個人練習に付き合ってもらっているターヤ先輩に相談してみたけど、どうしようもないと降参されてしまった。


 これだけ練習しても直らないし、僕の演じる『道家鈴男』のイメージを大きく損ねる問題でもないから、このまま本番でやっちゃおうか? という話になってさえいる。


 正直、僕もそれでいいと思っている。


 こけることに慣れてきたのか、僕が鼻血ブーになったのは最初の通し練習の一回きり。


 個人練習に入ってからは大した怪我もなく、それこそキョウジ先輩のスパーリング並みに怪我として残らないこけ方をマスターしている。


 元々、柏木さんとの『部活対抗リレー』でこけまくっていた僕だからね。ずっこけに関しては、部員の誰よりも精通しているといっても過言じゃない。


 膝にできたかさぶたプロテクターは伊達(だて)じゃないよ!


 そんなことが上達しても困るんだけど、とターヤ先輩には呆れられたけどね。


 とまあ、そういうわけで、問題を抱えつつも地区大会は近づきつつある。


 赤点ばっかのテストのせいで、大会の二日前まで補習を入れられ僕の練習時間が削られたけど、いつまでもくよくよしていても仕方がない。


 気持ちを切り替えていこう。


 僕の勉強ができなかったのは、今に始まったことじゃないんだ。


 そう、これはいわば、最初から定まっていた予定調和だったんだ。


 変えられない運命を嘆いたって、どうしようもないんだ。


 だったら、前を向いて、勉強以外の楽しいことを見つけるしかない!


 人生は勉強だけじゃないんだ!


 がんばるぞ~!


「…………はぁ」


 お弁当を食べ終わり、それでも漏れるはため息一つ。


 自分に言い聞かせたところで、そう簡単に気分が晴れたら苦労しないよね。


 まだ午後の授業まで時間があるし、少し外の空気でも吸いに行こうかな?


 僕は夏休みの計画について楽しく話していた階堂と春に一言断りを入れて、教室を出た。


 一階に降りて、あてもなくふらふらと歩く。


 散歩みたいなものだから、特に行先は決めていない。


 すれ違う人たちは、大学受験が控えている三年生以外、みんな夏休みを楽しみにしているようで、笑顔が多かった。


 いいなぁ、僕も素直に楽しみたかったよ。


「あ、あのっ!」


 うらやましさを隠さずにすれ違う人たちを眺めながら歩いていると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。


「あ、柏木さん。こんにちはー」


 振り返ると、そこには予想通り、柏木さんが立っていた。


 一瞬「おはよー」と口にしかけて、今は昼だと思い直して訂正したけど、なんか違和感あるな。


 一応初めて会うんだし、「おはよー」の方がよかったかな?


「え、と、どうかした?」


 なんて、どうでもいいことを考えていたんだけど、ちょっと柏木さんの様子がおかしい。


 いや、特にどこが、ってわけじゃないんだけど。


 高校生になってから見る普段の柏木さんは、穏やかに微笑んでることが多かった。


 今目の前にいる柏木さんも、普段通りの表情だから取り立てて変、ってわけじゃないんだ。


 でも、よく見ると、ほんの少し顔が赤いような?


 それに、視線も僕と何もないところを行ったり来たりしている。


 何より、腕を後ろに組んだままモジモジしている。


 風邪かな?


「あ、はい、その、相馬さんに折り入ってお願いがありまして……」


 あ、もしかして。


 今日は風邪気味だから、部活を休みたいって伝言かな?


 なるほど、それは仕方ないよね。


「うん、いいよ。風邪、早く治るといいね」


「風邪? いえ、私の体調は良好ですけど?」


 ありゃ、違ったか。柏木さんもキョトンとして目をパチクリしてるし。


 早とちりだったみたいだ。失敗失敗。


 でも、だとしたら僕に何の用だろう?


「じゃあ、お願いって何?」


「は、はいっ! それは、そのぉ……」


 先を促してみても、今日の柏木さんは歯切れが悪い。


 演劇部に入ってからは、自分の意見をはっきり言うイメージがあるんだけどな?


 そんなに頼みにくいことなんだろうか?


 むぅ、僕じゃ助けにならないかもしれない。


「っ! 相馬さんっ!」


「はいっ!!」


 僕にはわからない葛藤(かっとう)と闘っていた柏木さんを辛抱強く待っていたところ、いきなりの大声に驚いてしまった。


 自然と背筋がピンと伸び、いい返事をしてしまう。


「れ……」


「れ?」


 漏れた言葉に疑問符を浮かべていると、柏木さんが突然腰を九十度曲げる最敬礼を披露し、後ろ手に組んでいた両手を思いっきり僕に差し出した。


「連絡先を教えてくださいっ!!」


「はいっ! ……はい?」


 勢いに任せて返事をしてしまったが、柏木さんの言葉をはっきりと認識して、僕は思いっきり首を傾げた。


 柏木さんが僕に突き出した両手にちょこんと乗っていたのは、かわいらしいピンク色のスマホ。


 えぇ~っと、どういうことだろう?




 残念なテスト結果で落ち込む蓮くんでした。そう考えたら、序章でやってた凛ちゃんブートキャンプがどれほど蓮くんの成績を底上げしていたかわかりますね。凛ちゃんと話す機会が減り、蓮くんも困っているというお話でした。


 と思ったら、いきなりの凛ちゃんの積極的なアプローチに遭遇。疑問符だらけの蓮くんですが、はてさて、返事はいかに?


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