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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
二章 大会 ~高校一年生・一学期~夏休み~
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凛の三十四 とっても優秀で、とっても気難しい方のようです


 凛ちゃん視点です。ストーリーの構成上、凛ちゃん視点が続いておりますので、ご了承を。


「はいはい、展開が急で混乱してるのはわかるけど、時間は有限なんだ。さっさと練習、始めちゃうよ!」


 スバルさんの登場で他の先輩たちにも少しザワつきがありましたが、ミィコ部長は私たちを練習に促して、話を打ち切りました。


 私はドキドキと脈打つ心臓に手を添えます。練習のために立ち位置を確認しながら、ちらっと、スバルさんのお姿を目で追いました。


 最初の練習ではヘルプであるスバルさんは参加されず、ミィコ部長の隣で台本を確認されています。同時に私たちの演技を見てもらい、まずは演劇の雰囲気を感じてもらう、とのことでした。


 ただ、私が視線を向けた時、スバルさんは台本に視線を落としたままでした。パラパラとページをめくるスピードは、本当に内容を確認できているのか不安になるほどの速度でしたが。


 だけでなく、一度台本に目を通しただけで本を閉じられ、顔を上げて私たちへと視線を向けられていました。まさか、もう台本の内容を覚えたのでしょうか?


「それじゃ、まずは『結城玲哉』が登場しない序盤から()ってみようか? スバル君はうちの部員の演技をよく参考にしてね」


「わかりました」


 昨日相馬さんが転倒されてしまったシーンの、少し前にあたる導入部分から練習を始めるようで、私たちの意識も演劇へと集中します。


「じゃあ、始め!」


 ミィコ部長の号令を合図に、私たちは初めて部員以外の方に『不思議探求は誰が為?』を披露することになりました。


 とりあえずスバルさんのことは頭の中から排除し、私はハーリーさんに相談したことを意識しながら、『椎名晴香』さんを演じました。


 どこまでも自信家で、どこまでも傍若無人で、どこまでも我が道を突き進む、安全装置のないエネルギッシュな女の子を表現します。


 演技の最中に、先輩方の演技を見てみますと、昨日よりもそれぞれのキャラクターになりきろうとされていました。指摘された部分を飲み込み、各々(おのおの)の個性も含ませながら、試行錯誤の演技をなさっておいででした。


「カット!」


 そうして、一通り相馬さんとスバルさんが出演しないシーンを演じきり、ミィコ部長からカットの声がかかりました。かなり動き回ったせいか、演者だった私たちの額からは漏れなく汗が流れ落ち、部室の床に(したた)り落ちます。


「みんな色々考えながら演技をしてくれてるからか、昨日よりもよくなってるよ。ただ、やっぱりまだ(つたな)いところが各自であるから、そこは後で説明するね」


 思ったよりも好感触なお言葉に、私たちは自然と頬を緩ませました。今日は珍しくお兄様も本気で演技をされていて、途中で止められることもありませんでした。


 何か心境の変化でもあったのでしょうか? どのような理由があるにせよ、お兄様が真剣に部活動に参加してくれる分には歓迎します。演技を途中で止められると、せっかくの集中力が切れてしまいますから。


「さて、スバル君からは、何か感想はある?」


 そして、ミィコ部長は見学をしていたスバルさんにも意見を求めていました。


「は? 俺ですか?」


 水を向けられて意外そうな顔をした後、スバルさんは私たちを見回します。ミィコ部長が指名したからか、私以外の部員もスバルさんに注目し、視線が集中しました。


 ふと、私はスバルさんの目を見ますと、あの時とは違う()()瞳と視線が交わりました。


 やはり、前に見た空色の瞳は、カラーコンタクトだったのでしょう。最初に出会ったときが空色でしたので、私としては黒い瞳のスバルさんは、少し違和感を感じてしまいます。


「いや、感想って言われましても。何を言えばいいんですか?」


「何でも。思った通りに言えばいいよ」


 全員からの視線に(ひる)んだのか、スバルさんは隣のミィコ部長に助けを求めましたが、ミィコ部長は続きを促すだけで動きを見せません。


 どうしてもスバルさんに意見を求めたいようです。ターヤ先輩相手でも、ミィコ部長が演劇について相談することは余りありませんのに。それだけ、スバルさんの演技に期待をされているのでしょうか?


「……はぁ。じゃあ、遠慮なく」


 一瞬だけ嫌そうに顔を歪められたスバルさんは、まずキョウジ先輩とトーラ先輩に視線を向けました。


「まず、教師役だった人たちは、演技としては全然ですね。台本通りの役になりきろうとし過ぎていて、逆に違和感が凄いです。

 全体的に、男性教師は更生しきれていない元不良が、暴れる口実を見つけたようにしか見えませんでしたし、女性教師に至ってはもはや女子児童です。教師という見方さえされるかどうか怪しいでしょう。

 比較的登場シーンが少ない教師役は、キャラクターの自由度が高く設定されています。悪く言えば言動が少ない脇役ですけど、それ故に演技の印象でキャラクターの性格が決まってしまうようなものです。

 だというのに、先輩方は教師のテンプレートイメージである『真面目』を作ろうとして、己の個性が隠せず大失敗しています。お二人の場合、演技で誤魔化(ごまか)すのではなく、素のままの振る舞いを演技の主軸にした方がまだマシだと、俺は思いますね」


「あ゛ぁ!?」


「カッチーン!!」


 まさしく、バッサリでした。


 私たちが何か言葉を挟む間もなく、スバルさんはキョウジ先輩とトーラ先輩の演技プランを切り捨てたのです。


 明らかにスバルさんの指摘に気分を害されたのか、キョウジ先輩は喉の奥から低い声を出され、トーラ先輩はわかりやすい怒り表現を口にされていました。


「部員の高校生役も、問題は山積みですね。『山田和平』役の人は、まずやる気がありませんよね? 口調は平坦、声の強弱はほとんどない、メリハリも皆無でした。コメディ作品とは思えない薄いリアクションもダメダメです。

 本の朗読会でももっと臨場感を出しますよ? きちんと感情を込めないと、ちょっと特殊な日本語教材って印象しか抱けませんでした。

 とはいえ、彼は良くも悪くも普通の感性を持つ、この作品で唯一『観客が共感できる人物』なのですから、自分の個性を出しすぎるのも問題です。我を捨て、『観客の代弁者』に(てっ)することが大事だと思いますよ?」


「……っ」


「『初好実』役の人は、とにかく『気弱』にしようと意識しすぎです。あまり度が過ぎると、気弱ではなく社会適応障害か不安障害だと勘違いされますよ?

 この役が常にビクビクしているのは、『他人が怖いから』ではなく『自分に自信がないから』です。『山田和平』の後ろに隠れるシーンが多かったり、部活に入った経緯が彼の後を追ったから、という背景から対人恐怖を疑ってもおかしくはありませんが、台詞量からしてコミュニケーションに問題はなさそうです。

 そこから俺は、『初好実』の本質は自分の意見を主張し通すことが苦手である、と思いました。そうした視点からの意見としては、何もかもに怖がりすぎに見えましたね。

 キャラクターの個性をどのように捉えるかはその人それぞれでいいとは思いますが、一つのイメージだけで役を演じるのではなく、もっと広い視野と柔軟な思考で取り組んだ方がいいのではないでしょうか?」


「うっ……」


「『音木心』役の人は、好奇心旺盛(おうせい)と精神年齢の低さをイコールで結んでいませんか? 確かに台本中の彼の行動には、計画性がなく思いつきで実行されることばかりですが、彼の本質は『停滞を嫌い変化を歓迎する』というものだと思います。

 学校に潜入した後の行動としても、教師役を呼び寄せるような行動をとったり、問題の中に無理やり部員を引っ張り込んだりと、場を引っ掻き回して楽しむ愉快犯的な性格です。

 それは確かに子どもっぽい行動で、先の読めないトラブルメイカーとしては間違いではありません。しかし、『音木心』はトラブルを引き起こしても、ずっと笑顔ではしゃぐばかりで、反省の色が一切見られません。

 そういう意図からすれば、無知ゆえに失敗する子どもとは違い、『音木心』は現状維持を打破する結果全てが正解なんです。そうした独特の価値観を理解して演じることが、俺にはいいように思えました」


「は、はい!」


 間髪入れず、スバルさんの指摘の矛先はお兄様、トウコ先輩、ハーリーさんに移っていきました。


 お兄様は険しかった表情がさらに不機嫌に歪み、歯を強く噛み締めておられるご様子でした。私でも見たことのない、鬼のような形相(ぎょうそう)でした。


 トウコ先輩は、痛いところを突かれたように顔をしかめ、一歩後退(あとずさ)りしました。心当たりがあったのでしょう、胸を押さえてスバルさんから視線をそらした姿は、グサッ、という擬音がとても似合います。


 ハーリーさんだけは皆さんと反応が違いました。戸惑いつつもハキハキとした返事をしたハーリーさんは、どこかミィコ部長やターヤ先輩などの、演技の上級者から助言をもらっているような態度でした。


「後、『叶喜子』役の人は演技そのものは完璧だったと思います。キャラクターの性格や言動を把握し、過不足なく役の要素を盛り込んだ演技は、どこにも隙はありません。

 感覚で演じているのではなく、役の人となりをデータとしてすべて頭に叩き込み、『叶喜子』という人物を知り尽くした上での、頭脳派な演技と言えますね」


「どうも〜」


「しかし、それ故に演者である『貴女自身の個性』が、先ほどの演技からは全く感じられませんでした。例えるならば、『叶喜子』というデータをインストールされたロボットの動きを見ているようでした。

 はっきり言って、演者としての個性がなさ過ぎです。それとも、己を表現するのが苦手か、できないのでしょうか? いずれにせよ、観客は『叶喜子のロボット』を見たいのではなく、『貴女が演じる叶喜子』が見たいのです。

 指摘するレベルとしては、教師役の二人と同じくらいですね。教師役が役に寄せ過ぎようとしているのに対し、貴女は己を出さなさ過ぎる。もっと自分の感性に従い、個性を表現することを意識した方がいいのでは?」


「……ふ〜ん?」


 次にダメ出しされたのはミト先輩でしたが、見事に上げて落とされました。褒め言葉にも聞こえた前半までは余裕がありましたが、後半の容赦ない指摘にミト先輩の目が細くなります。


 もしかして、怒っておられるのでしょうか? 私が見られているわけでもないのに、すごく怖いです。


「最後に、『椎名晴香』役の人は力が入りすぎです。活動的で周囲の迷惑も(かえり)みない、傍若無人を絵に描いたような彼女ですが、だからと言って演技中ずっと全力では体力が()ちませんよ?

 それに、『椎名晴香』は確かにこの作品最大の問題児ですが、決して馬鹿ではありません。警備の穴を突いて小学校への侵入を成功させるばかりか、前段階で七不思議の詳細を調べ上げる手腕から、むしろかなり聡明な人物であることが(うかが)えます。

 ですが、貴女の演技からはそうした思慮深(しりょぶか)さは感じられませんでした。正しく猪突猛進、唯我独尊を地でいっただけで、役の表面のみに(とら)われてしまっている典型例と言えますね。

 恐らく、この中では『山田和平』役の人と同じくらい、演技の経験は短いのではないでしょうか? 演技中も脳内で試行錯誤し、考えながら演じているように感じましたが、もっと感覚的に演技をしてみてはどうですか? 考えすぎて余計にこんがらがってる気がしますから。

 まあ、頭脳を使う方向性が奇抜なだけで、『椎名晴香』は行動力だけの考えなしではない、という俺の意見を反映させるかどうかは、貴女に任せますけど」


「は、はいぃ……」


 そして、スバルさんの評価の手は私にも及びました。素人である自覚はありましたが、こうも細かく間違いを言われたのは初めてです……。


 なんだか、途端に恥ずかしくなってきました。声が尻すぼみになり、肩身も心なしか小さくなっていきます。


「これが俺の大まかな意見ですが、口にしても良かったんですか? すっごい睨まれてますけど」


「……そ、そりゃね? あたしだって、スバル君がそんなズバズバ言うとは思ってなかったし、意外っていうか、なんていうか……」


「思った通りに言ったまでです。気分を害されたのなら謝りますよ」


 部員へのダメ出しを終えてから、スバルさんはミィコ部長に確認を取っています。皆さんの反応に口元を引きつらせ、ミィコ部長は変な笑顔になっていましたが、スバルさんは肩を(すく)めるだけでした。


「そこまで言うなら、てめぇがやったらどうなんだよ!?」


「そうだそうだ!! やってもないくせにエラそーに!!」


「演技経験という点では、確かに僕もカリンも短いが、君ほどではないはずだ。そこまで上から目線で語られるのは、(かん)(さわ)るよ」


「頭が固いのは認めるけど、どうすればいいのかわかんないんだよ! 簡単にいってくれるけどさぁ、じゃあ私はどんな風に演じればいいってのさ!?」


「そうだね〜。ただ一度だけうちらの演技を見ただけで〜、評論家気取りで講釈たれるような人の意見なんて〜、聞く価値ないと思ってるんだけど〜、どう思う〜?」


 ミィコ部長とのやり取りにも何か感じるものがあったのか。私とハーリーさん以外の先輩たちは、一斉にスバルさんへと嚙みつきました。


 ほぼ指摘された順に、キョウジ先輩、トーラ先輩、オウジ先輩、トウコ先輩、ミト先輩が、スバルさんへ苦言を呈します。


 私とハーリーさんは、素直にスバルさんの意見を飲み込んだので、特に反論はありませんでしたが、先輩方のあまりの剣幕に口を挟むこともできません。


「だ、そうですが?」


「他人事かい!? そこであたしに振らないでよ!? スバル君が言い過ぎたのは事実だし、スバル君で場を収めて欲しいんだけどなぁ!?」


「場を収める、ねぇ?」


 最初はミィコ部長に丸投げするつもりだったのか、スバルさんは横目でチラッと部長に視線をよこしました。あえなくパス返しをもらっておられましたが。


「いいですよ。俺が思った役の演技、見せれば納得するんですよね?」


 少し思案するような仕草を見せてから、スバルさんは一歩前に出て先輩方の視線に応じました。浮かべる笑顔は涼しいものでしたが、見守るこちらはヒヤヒヤしっぱなしです!


「ぶ、部長! 止めなくていいんですか!?」


「あー、あたしも予想外だけど、やらせとけばいいんじゃない? どこかで誰かが妥協するでしょ、多分」


「適当すぎますって!」


 不穏な空気に耐えかねたハーリーさんがミィコ部長に助けを求めますが、部長もお手上げといった風に両手を上げていました。


 そんな!? 部長が無理なら、私たちでも無理ですよ!?


「言ったな? んじゃ、やってもらおうじゃねぇか!?」


 おろおろしている間に話は進んでしまい、結局スバルさんは『結城玲哉』以外の役も演じることになりました。


「それじゃあ、『岩倉猛』役から」


 気負いもなく私たちの前に立ったスバルさんは、一つ咳払いをしてから目を閉じられました。私やハーリーさん、ミィコ部長以外の方々は表情が一様に厳しく、不穏な空気が流れています。


 そして、スバルさんの演技が始まりました。


「『こら! お前たち、ここで何をしてるんだ!?』」


 スバルさんは『不思議探求部』の面々が小学校に侵入したシーンから演じられました。


 不法侵入を果たした部員たちへの怒りはもちろん、新人教師という設定で年若い『岩倉猛』さんの真っ直ぐさ、そして生真面目さが表情や所作(しょさ)ではっきりと伝わってきます。


 しかし、どこかキョウジ先輩が披露した演技に通じる、荒っぽさや粗野さも感じられました。矛盾した印象を受けるのに、それを当然のように受け入れられる何かが、スバルさんの演技にはありました。


「『何をしてるんですか〜! 待ちなさ〜い! 廊下は走らないで〜!』」


 同じシーンでの『小柴小百合』役では、スバルさんの印象がガラッと変化しました。


 教師歴は『岩倉猛』さんよりも長く、されど身長や普段の言動から幼く見られがちな『小柴小百合』さんの特徴を、一挙一動から感じられました。


 また、声音まで女声のそれに変化し、どことなくトーラ先輩の声にも聞こえました。これには全員が驚き、目を丸くしていらっしゃいました。


「『ほら! だから言ったじゃないですか!! 捕まったら最悪犯罪者ですよ、俺ら!?』」


 先ほどの可愛らしい演技から一転、必死の形相でその場で逃げる演技の役は『山田和平』さんでした。


 他のメンバーに苦言を呈する姿は、とても必死で臨場感があります。背後には誰もいませんが、誰かから追われている情景がはっきりと浮かび、前方にいるだろう人物への非難も真に迫っています。


「『ま、まって、カズくん! 置いていかないで!』」


 逃げる演技の立ち位置を変え、『山田和平』さんの少し後ろで切り替えたのは、『初好実』さんでしょう。


 とても女の子らしい走り姿で前方の『山田和平』さんを追う演技は、普通ならば男性が演じれば笑いが起こるのでしょうが、私たちは沈黙するしかできませんでした。


『小柴小百合』さんの時と同様、トウコ先輩の声音に似せたスバルさんの演技は、彼が男性であることを忘れるほど、気弱で可愛らしい女の子にしか見えなかったのです。


「『あっははは! やっべ、スッゲェ楽しくなってきたぁ!』」


 必死で走る女の子から、スバルさんは二歩ほど進んだ位置で、自由奔放な暴走機関車『音木心』役に一瞬で転じました。


『初好実』さんの演技の名残を一切残さず、ハーリーさんの声を真似た中性的な『音木心』さんを演じるスバルさんは、心底から楽しそうな笑みを弾けさせていました。


 夜中の校舎に潜入したスリル、早々に見つかるというトラブル、そして部員のメンバーと楽しい時間を共有できていることの嬉しさが、たったこれだけの台詞と動きに内包されていました。


「『ち、ちょっと晴香さん!? こんなにあっさり見つかるだなんて聞いていませんわよ!? 貴女の作戦は完璧ではなかったのかしら!?』」


 さらに一歩踏み出して、またもや人が変わったように役が変化します。焦燥をにじませながらも、上品さを忘れない動きは『叶喜子』さんのものでした。


 こちらも、声音をミト先輩に寄せており、加えて演技の癖もミト先輩の動きをトレースされていました。


 しかし、ミト先輩の演技と決定的に違うのは、正に『生きている』という感じ、でしょうか? うまく言葉では説明できませんが、スバルさんの『叶喜子』さんは、動きが同じでもミト先輩よりも引き込まれるんだと思います。


「『も、もちろん、こんなのは私の計算通りよ! みんな! 後は計画通りに動きなさいよ! それじゃあ、解散!!』」


 そして、部員組の先頭を走っていたらしい『椎名晴香』さんへと、スバルさんの演技が移りました。


 私の声で行われる『椎名晴香』さんは少し不思議な感じがしましたが、私は食い入るようにスバルさんの動きを観察します。


 鏡に写った私の演技や、反省用に映像として記録された私の演技とは、丸っきり違う彼女の姿が、そこにあったからです。


 予想外の出来事を想定内と言い張る強情(ごうじょう)さも、決して非を認めない負けず嫌いさも、部員たちを巻き込みながらも信頼を失わない不思議な魅力も。


 他にもたくさんあった、私では表現しきれなかった『椎名晴香』さんが、スバルさんによって見ることができたのですから。


「……っと、皆さんに指摘した役は、以上ですかね?」


 私たちを評価した順に、台本の役を演じたスバルさんは、ご自身の判断で演技を中断なされました。


『……』


 演技が終わった後でも、私たちは一言も声を発することができませんでした。


 私だけでなく、『不思議探求は誰が為?』を演じた皆さん全員が、沈黙せざるを得ませんでしたから。


 スバルさんの演技には、私たちがそれぞれ求めていた演技の到達点が示されていました。


 それを、言葉だけではなく、肌で感じることになったのです。


 先ほどのスバルさんの指摘が、素人ゆえの知ったかぶりではないと同時に、自身の未熟さも突きつけられた気がして、複雑な思いが去来(きょらい)しているのでしょう。


 それとも、私やお兄様のように経験が浅くとも理解できた、スバルさんとの間にある圧倒的な技量の差を、痛感せずにはいられないのかもしれません。


 未熟を自覚する私でさえ、そのように感じるのですから、演者歴の長いハーリーさんや先輩方は、どのような気持ちなのでしょうか?


 ほとんどが苦い表情を浮かべる皆さんの顔を見て、私は胸の近くで右手を握りしめました。


「あれ? 皆さん、どうしました?」


「ス、スバルくん、女の子の演技も、できたんだ?」


「? はい。というか、部長さんは知ってて声をかけたものだと思っておりましたが?」


 どうやらミィコ部長も知らなかったのか、スバルさんの演技の実力に動揺を隠せていません。驚きの度合いは、私たちと同じくらいはありそうでした。


「あ、俺、そろそろ時間なんで、失礼しますね」


「あっ! ちょっと!」


「それじゃあ、お疲れ様でした」


 時間? と私たちが疑問に思う間に、スバルさんは練習の途中で部室を出て行ってしまわれました。ミィコ部長が慌てて引きとめようとしましたが、スバルさんは聞く耳持たず、さっさと出て行ってしまいます。


 残された私たちには、耳が痛いほどの静寂が残されただけでした。




 スバルくん、場をかき回すだけかき回して、さっさと帰っちゃいました。そこはかとなくチート臭もしますが、協調性はなさそうですね〜。果たして、彼は演劇部で上手くやっていけるのでしょうか?


 さて、このお話で2015年最後の投稿となります。最近は更新速度が遅くなってきてしまい、拙作を読んでくださっている方々にはご迷惑をおかけしました。


 来年はもう少し速度を上げられたら、いいなと、思ってます。約束は出来ませんので、努力目標ということでひとつ。


 それでは、2016年以降も拙作をどうぞよろしくお願い申し上げます。頑張って完結させますので。


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