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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
一章 部活動 ~高校一年生・一学期~
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蓮の二十 体育祭 ~玉入れ~


 蓮くん視点です。


 体育祭の一競技とは思えない激戦を繰り広げた『騎馬戦』が終わり、僕たち『海藻類』トリオは入場ゲートにて待機していた。


「いやー、さっきの『騎馬戦』は見ごたえあったなぁ」


「組ごとに戦略の特色が出てたのも、分かりやすくてよかったな」


「ま、俺らの競技は戦略なんてないだろうし、気楽にやろうぜ」


 同じように入場ゲートで『騎馬戦』を見ていた他の選手が、言葉通り気楽そうに話し合っていた。多分、先輩かな? 競技の特色かもしれないけど、今までの出場者と比べてやる気があまり感じられない。


「……いいなぁ。僕らも、あんな感じで参加したいよ」


「言うな、博士。隣の芝生は青いんだ。俺らは俺らの現実を見なきゃなんねぇんだ……」


「しっ! 相馬氏も階堂氏も、口が過ぎるぞ! クラスの連中に知られたら、粛清されるぞ!」


 一方で、そんな先輩たちの後ろに並ぶ僕らは、すっごい小声で緩い態度を(うらや)んでいた。春の物騒な一言で、そんな会話もすぐに閉じたけど。


 出場選手の人数の関係で、入場ゲートにはたくさんの『騎馬戦』参加者が押し寄せてきた。特に組ごとに別れているとかではなく、思い思いの方向へと退場しているみたい。


 一気にゲート付近は大勢の人間で埋め尽くされた。


「……うん? レンマ君? 次の『玉入れ』に参加すんの?」


「え? レンマ君!? うっほーい!! 元気かーい!!?」


 ぞろぞろと人が来る中、恐らく『騎馬戦』のMVPだろうトウコ先輩とトーラ先輩が僕に気づいて声をかけてくれた。


 トウコ先輩は男らしく片手を上げながら格好いい笑みを浮かべ、トーラ先輩は一直線に僕へとタックルをかましてきた。


「うっ!! ……は、はい。僕は、運動神経、ない、ですから……。

 あと、トーラ先輩……。みぞおち、はいりました……」


 ビックリするくらいの石頭だったトーラ先輩を、人体急所で受け止めてしまい、呼吸が苦しい。それでも何とか体勢を崩さず、二人に返答することができた。


「こら、トーラ! これから競技やる後輩にトドメを刺すんじゃないよ。わざとやってんじゃないだろうね?」


「あははーっ! もちろん、想定外さ!! ごめんね、レンマ君!!」


「つ、つぎからは、気をつけてください、……うっ」


 襟首をつかんでトーラ先輩を引き剥がしてくれたトウコ先輩に感謝の念を送りつつ、ずっと我慢していたお腹の痛みを耐えるためにうずくまる。


 トーラ先輩、想定外の癖に、的確にみぞおちを射抜きましたね……。


「で、そっちはレンマ君の友達かい?」


「おぉ~! 後輩君の友達か!!」


「あ、そうです。こっちが階堂で、こっちが春。中学からの友人です」


「階堂っす。よろしくっす」


「春と申す。簡易な自己紹介ではありまするが、以降お見知りおきを」


 トウコ先輩に水を向けられたので、失礼だと思いつつ、うずくまったまま階堂たちを二人に紹介した。二人も軽く頭を下げ、本当に簡単に挨拶を交わす。


「ああ、よろしくね。じゃ、私たちはもう行くね。『玉入れ』頑張りなよ? 同じ赤組だしね」


「ファイトだよ! レンマ君!! じゃあねぇ~!!」


 競技の時間が迫ってきたからだろう。トウコ先輩たちは手を振りながら去っていった。さすがトウコ先輩、後ろ姿が男前です。そしてトーラ先輩、引きずられたままでいいんですか?


「はぁ~、すげぇな、あの人。仕草の一つ一つが芝居みたいだ」


「かの有名な歌劇団の男役みたいな御仁だな」


「まあね。トウコ先輩は部活でも、男装の麗人とか、男性役が多いから、自然とあんな感じになるんじゃないかな?」


 二人がまず注目したのはトウコ先輩みたいで、颯爽と歩く姿に感心していた。


 初対面の時に、男らしい先輩だなぁ、って思ったのも当然で、トウコ先輩は女性らしい女性役は基本的にしないそうだ。というか、卒業した先輩がさせてくれなかった、と愚痴っていた。


 その流れを引き継いだのか、練習でもトウコ先輩は格好いい役が多い。女性はもちろん、男が見ても格好いいきびきびした動きをする。


 最近は役の動きが染み着きすぎて、普段の動きから男役の仕草が出てしまうんだそうだ。本人としては悩みどころみたいだけど、周囲からの受けはよさそうだね。


「で、あのちっこい先輩は、子役か?」


「失礼だが、見た目といい言動といい、とても年上には見えん」


「あー、まあ、そうだね。基本的に、役柄も子供っぽいキャラが多いかな?」


 一方、トウコ先輩に引きずられているトーラ先輩に注目し、微妙な顔つきをしている。


 身長だけなら小柄な先輩で通るんだけど、トーラ先輩は言葉も行動も幼いところが多い。だから余計に、年上であり高校生であると感じられない。


 だからだろう。去年に作られた先輩たちの台本には、やたらとトーラ先輩を意識したような、子役っぽいキャラが出てくる。トーラ先輩の練習は、もっぱらその役でしか行われない。


 トーラ先輩自身自覚があり、あまり気にしていないようだから、演技の練習はのびのびとしているように見える。時々大人っぽい役を練習するときもあるけど、天真爛漫さが抜けきらずになりきれていないのは課題なんだってさ。


『選手、入場』


「っと。無駄話もここまでだな。行くか」


「うん」


「やるとしよう」


 と、ここで入場のアナウンスが入り、僕らはグラウンドへと移動した。各色別れた『玉入れ』のかごの周りへと集まり、待機していく。


『玉入れ』もまた、『騎馬戦』のように選出された三学年二十七クラスで行われる。全部で三回戦行われ、それぞれの試合で順位を決めて、点数が加算される。


 一度の試合に男女の区別はなく、結構な人数で行われる。赤、青、黄色のかごの配置は遠い位置にあり、玉やかごを間違う心配はない。


 一試合に出場するメンバーは決まっていて、クラス単位で挑むことになっている。すなわち、赤組だったら一回戦が一・二・三年生の一組、二回戦が四組、三回戦が七組って具合だね。


 参加人数が多めだからか、かごの大きさや玉の数もそれ相応になっている。小学校で見たかごの数倍はありそうな大きさだし、地面に配置された玉の数も多い気がする。


 制限時間は一試合一分と、かなり時間は限られてくる。いかに素早く、大量に玉をかごに入れられるかが勝負だ。


 ちなみに、玉のカウントは体育委員の人が素早くカウントしてくれる。一つ一つ丁寧かつ大袈裟に数えるあのスタイルじゃないのは、ちょっと寂しいけど仕方ないよね。


『一回戦、用意』


 準備が整ったところで、最初の試合が始まる。赤組は一組の人たちが立ち上がり、いつでも動けるようにしている。


 同時に、青組では二組が、黄組では三組が立ち上がった。……あ、立川くんがいる。すっごいやる気なさそうだなぁ。


『スタート!』


 お馴染みの空砲が鳴り、各組一斉に走り出した。


 作戦らしい作戦もなく、みんなひたすら地面に落ちている玉を拾っては、かごへ向かってぶん投げている。ああ、これこそが『玉入れ』に相応しい光景だよね。


 僕らの練習風景に、こんな情緒溢れる光景はなかった。そこにはただ、ひたすら作業を繰り返すような、無味乾燥さしかなかったよ……。


 それに、ちょこちょこサボってる感じの人も見られる。まあ点数的にも美味しくない競技だし、『玉入れ』と『大玉転がし』は運動が苦手な人への救済措置みたいなものだからね。やる気が出ない人もいて当然だ。


 筆頭は、立川くんだね。玉を触ってすらいない。スタート地点から少し歩いたくらいの位置で、ボーッと突っ立っている。他の人は参加してる振りはしてるのに、さすがだ。


『終了です!』


 一分間はあっという間に終わり、一組の人たちが戻ってきた。かごは体育祭の実行委員でもある体育委員の人たちが倒し、すぐさまカウントされていく。


 一回戦の結果は、青組、赤組、黄組の順番だった。入った個数はあまり差がなかったし、フェアな勝負だったんだろうね。


『二回戦、用意』


 おっと、今度は僕たちの番だ。赤組は四組、青組は五組、黄組は六組の三学年が参加する。


「いいですか、皆さん。以前お話しした作戦通りにお願いします」


「おう。練習はバッチリだぜ」


「任せておけ」


 この競技の一年生代表が、二・三年生に声をかける。一度合同で練習した際、僕らのやり方を教えて練習するように頼んでいたのだ。


 新参ものの僕らの提案に快く協力してくれた先輩たちは、いい笑顔でサムズアップしてくれた。


『スタート!』


 そして、僕らの試合が始まった。


「やり方は覚えてるな!? みんな、一つ残らずかごにぶちこめ!!」


『おおっ!!!』


 三年生の人が音頭(おんど)を取り、僕らはその場から駆け出した。


 最初にやることは、玉集めだ。新たに地面へ散らばった玉を拾っていき、腕の中で積み重ねていく。事前に行った練習通りに、向きを確かめながら手の中で安定するように積んでいく。


「集まったか!? んじゃあ、行くぞ!」


 みんなが手分けしてやったおかげで、ものの十数秒で玉が回収された。そして、集まった玉は練習でも成功率が高かった人たちに渡り、かごを囲んでいく。


「せーの!!」


『はいっ!!』


 そして、三年生の掛け声にあわせ、一斉に玉が上空を舞った。


 感覚的には、バスケのシュートみたいな感じかな? 密集した状態で放たれた玉たちは、投手たちの力によって放物線を描き、かごへと吸い込まれていく。


「ちっ! いくつか漏れた! 集めてくれ!」


 そのたった一度で全体の六割は玉が中に入ったが、やはりうち漏らしは出てきてしまう。かごの周囲に散らばった玉は、投げるのが下手だった選手によってすぐさま集められ、再び投手へと渡される。


「次だ! せーの!!」


『はいっ!!』


 二回目の投擲(とうてき)はほとんどかごへと収まり、仕損じたのは数える程度だ。


「みんな、よくやった! 残りを入れてパーフェクトいくぞ!」


『はい!』


 そうして、残り時間を半分残して、四組の玉はすべてかごへと収まった。まだかごに玉を投げている組だけでなく、非参加の人たちも僕らを唖然(あぜん)とした表情で見ているのがわかる。


 そんな外野を尻目に、赤の四組は残り時間をかごの周囲でハイタッチを交わしながら過ごした。僕の方にも上級生がやってきて、ハイタッチをしたり肩を叩かれたりした。


「……呆気なかったな」


「うむ、見事に視線が痛いな」


「まあ、最初の一投で全部入るよりはよかったんじゃない? 練習の時、何回かできてたやつ。あれを決めちゃうよりは、まだマシだよ」


 勝利ムードに乗れない僕ら三人は、バラバラの位置から集まって苦笑を漏らした。


 実際、競技玉入れでは限られた人数で試合を行い、すべての玉をかごに入れたタイムを競うらしい。なので、最高レベルの戦いだと、たった一回の投擲で全部入れることも多いらしい。


 そして、練習をはじめて二週間くらいの高校生(ぼくら)でも、一発で全部入ったことはあった。技術も必要だけど、運が良ければそんなこともあるみたいだ。


『終了です!』


 五組、六組がまだ頑張ってる中、お互いの検討を(たた)えていた四組は、終了の合図で自陣へと戻る。最後なんかただの雑談だったし。


 一回戦とは違って、体育委員が数えているのは入らなかった玉の数になっていた。何せ、僕らは全部入れちゃったからね。その方が早いと判断したんだろう。


 結果、赤組、黄組、青組の順番だった。聞くまでもなかったけど、順位発表がされた後は四組が再び盛り上がったのは言うまでもない。


 後は僕らも見学だけ。気楽に試合を観戦することにした。玉拾いでちょっとだけ疲れたし、ゆっくりさせてもらおう。


 三回戦は、特筆すべき点はなかった。何人かが僕らの真似をして投げていたけど、成功率は低いように見えた。


 それはそうだ。事前に練習していた僕らでさえ、投げ役はかなりのセンスがあった人たちばかりに頼んで、結果が出せたのだ。意外とコツがあって難しく、一度見たからってその人がうまくいくとは思えない。


『玉入れ』の作戦を事前に伝えていたのは、二年生と三年生の四組だけだったから、他のクラスは知らないはずだ。見てたら玉の投げ方も、玉の積み方もめちゃくちゃだったし。


 結局最後は普通に投げていて、終了した。結果は、黄組、青組、赤組だった。最終的な点数では三組とも同じだけの点数が入ったから、成績に影響はでなかった。


 まあ、僕ら四組の『玉入れ』スタイルが衝撃を与えたみたいだったけど。もしかしたら、来年から佐伯くんが調べた競技玉入れスタイルが主流になるかもしれないね。


 そうして、ちょっとした結果を残せた僕らは退場し、次の競技の準備に移ったのだった。




 ある意味無双です。


 競技玉入れのルールは詳しく調べていませんが、本編に()せた内容は大体あってると思います。私がそれを見たのは、某有名アイドルグループのバラエティ番組でした。


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