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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
一章 部活動 ~高校一年生・一学期~
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凛の十八 体育祭 ~女子五十メートル走~


 凛ちゃん視点です。


 体育祭編は蓮くんと凛ちゃん、交互の視点でプログラムを消化していく予定です。


 ついに体育祭の日が訪れました。昨日は早めに睡眠も取りましたし、体調はバッチリです。


 朝から気が高ぶっていたのか、私はいつもの起床時間よりも随分と早くに起きてしまいました。身支度を整えてもまだ早かったのですが、使用人の方に無理を言って早朝に登校することとなりました。


 どうやら私は、気が高ぶるとじっとしてはいられない性分のようです。まだ閉まったままの校門前で下ろしてもらい、先生が来られるまで待つことにしました。


 意図したものではありませんが、お兄様がまだ就寝中であったこともあり、今日は一人での登校でした。とても気分がいいです。


 空は灰色の雲で覆われていましたが、少しでも監視の目がない自由を噛み締める私の心は青く澄みきっていました。


 少しすると先生がいらっしゃり、驚かれながらも校舎へ入ることができました。クラスの皆さんが登校されるまでは、いつものように読書で時間を潰します。


 結構な時間が経ってから、長谷部さんと、ついでに立川さんと合流し、一緒に集合場所まで向かいました。


 道中、相馬さんのお姿が確認できましたので、思わず声をかけてしまいました。今日はいいことが重なりますね。とっても気分がウキウキします!


 が、集合場所でクラスメイトの方々とのやりとりを相馬さんに見られてしまい、穴かあったら入りたい気持ちになりました。


 もしかして、私が他人に横暴を働く人間だと思われたかもしれません……。あんな軍隊と教官みたいなやりとりを見られてしまったら、そう思われても仕方ないんですけど。


 相馬さんと目が合ってしまったときは思わず目を背けてしまいましたが、次に横目で確認しますと別の方へ向いてしまわれていたので、どう思われたのかは不明です。


 ち、ちゃんと『部活対抗リレー』の時に、誤解だということを相馬さんにご説明して差し上げねば!!


 競技選定の日から様子がおかしいままのクラスメイトの方々にちょっぴり非難混じりの視線を送り、私たちは体育祭の開会式に臨みました。




「んじゃ、柏木さん。頑張ってね」


「はいっ! 行ってきますっ!」


 特に変わったこともなく開会宣言がなされ、退場した私は早速入場ゲートへと並びました。長谷部さんからのエールを受け、やる気をぐんぐん伸ばしていきます!


 プログラムの最初は、『女子五十メートル走』です。普通の徒競走ですね。


 各学年のクラスから選抜された皆さんが集まり、ランダムで九人が一斉にグラウンドを走る、オーソドックスな競技ですね。一度に走る人数は多いですけど。


『選手入場』


 スピーカーから軽快な音楽が流れ、集まった私たちは駆け足でスタート地点へ向かいます。一クラスで選ばれる選手は少ないのですが、三学年各九クラス分の生徒が集まれば、かなりの人数ですね。


 そうしてスタート地点に到着した私たちは、色組ごとに別れています。それぞれ、一・四・七組が赤組、二・五・八組が青組、三・六・九組が黄組になります。


 私は一年三組の黄組なので、そちらの列に並びます。順番は特に決められておらず、皆さん自由に並んでいますね。


 そして、一度に走る九人は事前に話し合いの場が設けられ、すでに決まっております。赤・青・黄組が各三人ずつになれば後は自由で、誰と走りたいかを話し合いました。


 私の走る順番は、一番最後です。それまでは、皆さんの健闘をじっくりと拝見させていただきます。


『位置について、よーい……』


 第一走者の面々が一列に並び、空砲の音と同時に走り出しました。


 私たち女子の徒競走は五十メートルですので、直線のコースを一気に駆け抜ける形となります。皆さん真剣に、されど楽しそうに走っていきます。


「ふっふーん。カリンちゃん、後輩だからって、あたしは手加減しないからね!」


「私もー! 負けないよ!!」


「よろしくね~?」


「精一杯、力を尽くさせていただきます!」


 そして、最後の走者である私はスタート位置につきました。


『女子五十メートル走』の最後を飾る九名中、半分が演劇部のメンバーです。発言は上から、ミィコ部長、トーラ先輩、ミト先輩、私の順番となります。


 皆さん、『部活対抗リレー』の練習時に、少しだけ個人走を見せていただいたのですが、さすがのスピードでした。対戦形式で一緒に走ったこともありましたが、その時は数度しか勝てませんでした。


 特にイメージ通りにトーラ先輩と、意外にもミト先輩が非凡な俊足を見せ、一度として抜けませんでした。


 トーラ先輩は、まだわかります。普段からとてもエネルギッシュな先輩ですし、演技の練習でも大仰(おおぎょう)で力強い動きをする役を好まれておられました。


 しかし、ミト先輩は完全にダークホースでした。常の雰囲気も口調もフワフワされており、何事もスローテンポな動きをなされます。演技でも同様で、静かかつ優雅、されどとても強いインパクトを観客に与える演技でした。


 ですが、いざ早い行動を求められると途端に機敏となり、ギャップだけではない俊敏さを見せてくれました。ということは、ミト先輩の身体能力が元々高次元にある、ということでしょう。


 もちろん、ミィコ部長も身体能力はとても高い方です。徒競走で勝負すると、私の方が勝率が低かったので、全般的に私よりは上のポテンシャルを有していると考えていいでしょう。


 また、他の一緒に走る方々も運動部所属の方ばかりで、何より上級生ばかりです。私にとっては、かなり不利な勝負となるでしょう。


『位置について』


 体育委員の先輩に促され、スタートラインに移動します。短距離走ですので、姿勢はクラウチングスタートです。両手を地面につき、しゃがみこんで待機します。


 横一列に並んだ先輩方の存在を意識し、緊張感が高まります。


『よーい』


 腰を上げ、蹴り足をしっかりと踏みしめます。先のゴール地点を見つめながら、全身の神経を集中させます。


 パァン!


 そして、空砲が空へと打ち上げられ、私たちは一斉に駆け出しました。


 スタートはほぼ互角。横一列になって走る私たちは、少しでも相手を追い抜こうと足に力を込めます。


「っ!」


 中盤になって頭ひとつ飛び出したのは、なんとミト先輩でした。運動部の先輩方を尻目に、徐々に速度を上げて着実に距離を離していきます。


 次点はトーラ先輩です。ミト先輩の一歩分後ろに追従し、ほとんど離されずに食らいついています。


 その次がミィコ部長でした。さすがに身体スペックの差から少しずつ遅れがちでしたが、皆さんのペースから考えますと上位は間違いなさそうです。


 周囲の様子を視界の端で確認している私は、僅差で最下位でした。後続集団に属する私たちはほぼ団子状態で走っており、前を行く部長たちの背中に追い(すが)ります。


 すでにコースの半分を消化し、猶予(ゆうよ)がなくなってきました。速度が乗りきる後半戦での挽回(ばんかい)は、距離が少なくなっていますから難しいでしょう。


(くっ、このままでは、負けてしまいます!)


 現状のままでは負ける、と悟った私は打開策を考えますが、この段階になりますと頭を使って逆転できる状況は過ぎてしまっています。


 ならば、力を振り絞って駆け抜けるのみ! そう思ったときでした。


「凛! 頑張れ!!」


 不意に、私の耳にお兄様の応援が聞こえてきました。


 同時に、恐らく私が自己ベストを出せたであろう情景が、脳内で再生されました。


(っ! 駄目です! 待ってください!!)


 思い返すは、演劇部の歓迎会があった日のこと。


 私と同じ部活に決めていた、とおぞましいことを口にし、私が直立して気絶してしまった隙に先へと行ってしまわれたお兄様。


 私の自由とプライバシーを守るため、一心不乱に全速力を出していました。


 あの時の嫌な記憶が(よみがえ)り、先頭を走るミト先輩の背中とお兄様の背中が重なります。


 私は当時の心情をはっきりと思いだし、お兄様(ミトせんぱい)を止めるために地を蹴りました。


「……えっ!?」


「うわぁ!」


 自分でも信じられない力が発揮され、ぐんぐんとスピードが乗っていきます。後続集団から抜け出し、続けざまにミィコ部長とトーラ先輩を追い抜きました。


 残りは約十メートル。


 ミト先輩との差は約二歩分。


 私の一着(プライバシー)は、譲れません!!


「ああっ!!」


「っ!!」


 私の気合いの声がゴール時に漏れ、隣からミト先輩の強い息遣いも聞こえます。ゴールテープが体に纏わり、足を小刻みに踏んで速度を落とします。


 気がつけば、私は五十メートルを走り終えていました。


「カリンちゃん、スゴいね~」


「……へ?」


 一瞬何を言われたかわからず、振り返るとミト先輩が胸の前で手をパチパチと叩いていました。……いつ見てもおっきいですね。


「すごい! すごい!! カリンちゃん、途中からコボウ抜きだったよ!!!」


「あたしもビックリしたよ! カリンちゃん、追い上げ半端なかったね!」


 続けて声をかけてくださるトーラ先輩とミィコ部長の言葉にも、少しの照れと大きな疑問が生まれ、まともに反応できませんでした。


「一年生なのに、よく頑張ったね。はい、おめでとう」


 困惑する私でしたが、近づいてきた体育委員にあるものを渡されて、ようやく得心しました。


 徒競走では、一着の方に目印としてたすきが渡されるのです。それぞれ所属する色組と同じ色のたすきであり、私が受け取ったのは黄色のたすきになります。


 つまり、結果は私が一位でゴールできた、ということなのでしょう。


「あ、ありがとうございます!」


 一位という感動と、初めてミト先輩やトーラ先輩に勝てたことで、私は笑顔を抑えられませんでした。二重の喜びのまま、私は体育委員の方に促されてすでに走り終えた方々の列へと移動します。


「いや~、まさかカリンちゃんに持ってかれるとは思わなかったね。あたしも、結構自信があったんだけどなぁ~」


「ホントだよ! それに、最後の方はカリンちゃんちょっと怖かったしね!」


「そうね~。うちも~、背後からものすごい執念を感じたわ~。よっぽど勝ちたかったんだね~?」


「あ、あはは……」


『女子五十メートル走』の結果発表を聞き流しながら、私は部長たちにいじられっぱなしでした。まさか、お兄様の姿を重ねてたから、などと言えるはずもなく、私は言葉を濁しながら先輩たちの称賛を受けました。


 徒競走は先着順で点数が色組に加算され、一位が三点、二位が二点、三位が一点です。全体結果は、赤・青・黄組とほぼ横一列で、まだまだ勝負は見えません。


 大きな拍手と歓声に迎え入れられながら、私たちは音楽に合わせて退場します。


 そして、自分のクラスのところへ戻る前に、次の競技の出場者の方へと目を向けました。


(……一応、お兄様のおかげ、ということなんでしょうけど。何故でしょう、そう考えると素直に喜べない自分がいます……)


 次の『男子百メートル走』に出場し、私へ声援を送ってくださったお兄様のことを考え、微妙な表情を作ってしまいます。


(はぁ、どうせなら、相馬さんからの応援を聞きたかったです……)


 色組の組み合わせとしては敵同士ですから、無理なのはわかっていてもため息はこぼれてしまいます。やはり、嫌な人からの応援よりも、好きな人からの声援の方が嬉しいですしね。


 残念な気持ちを心に残しつつ、私は勝利を喜んでくださったクラスの方々の元へと戻っていきました。




 シスコンの愛は偉大だった(笑)


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