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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
一章 部活動 ~高校一年生・一学期~
29/92

凛の十二 ピンチ? いえ、むしろチャンスです!


 凛ちゃん視点です。


 2015/9/23、小林先生→林先生 に訂正しました。名前変えててすみません(汗)。


 ゴールデンウィーク中の演劇部での活動は、『悲劇の丘』と同じようにお兄様との演劇の練習が中心でした。役柄と自分を重ねることは止め、頑張って声を張ったところ、ミィコ部長からは何とか及第点を頂けました。


 ただ、お相手が変わらずお兄様だけで、他の演者がいない二人での演技ばかりです。多少慣れが出てくると、他の部員の方々との練習もしてみたい欲求に駆られました。


「そう? わかった。考えとくね」


 その(むね)をお兄様の目を逃れ、ミィコ部長にご相談したところ、色好(いろよ)い返事が得られました。期待に胸が膨らみます。


 女性との共演もそうですが、特に相馬さんとの演劇は非常に楽しみです。お兄様の目を気にしてしまい、最近は同じ部活でも交流が一切ありませんでした。部活動を名目にすれば、目くじらをたてられずに少しはお話しできるかもしれません。


 そのように考えられるほどには、演技への抵抗はなくなったということでしょう。練習は相変わらずハードですが、それも慣れれば日常です。


 まだ人前では演じていませんが、ミィコ部長の(おっしゃ)っていた自分と違う人を演じる楽しさに気づいたからかもしれません。


 さて、そのような心境の変化がありつつ、長期の休みが明けた教室でのことです。


「知ってるやつもいるだろうが、今月下旬に中間テストがある。んで、それが終わればすぐに体育祭がある。お前ら覚えとけよー」


 朝のホームルームで、担任の林先生が仰られた言葉です。あ、今さらかもしれませんが、林先生は三十代くらいのがっしりとした男性教諭です。


 見た目は、いかにもなスポーツマンなのですが、担当教科が数学という、アンバランスな方でもあります。顔立ちは整っていますから、女子生徒には人気があります。


 まあ、それはさておき。その時は詳しい説明もなく、林先生はすぐに教室を出ていってしまわれ、私以下、事情が飲み込めないクラスメイトの方々は頭に疑問符を浮かべていました。


 そして、授業を消化した放課後、再び林先生に皆さんが質問しました。


「あー、あまり大きい声で言えないんだけどな。普通の学校では秋ぐらいに体育祭をやることが多いだろ? 西高(うち)も最初は九月にやってたんだよ。

 だが、お前らが覚えてるか知らんが、五年前に残暑が恐ろしいほど暑かった年があっただろ? そんときに体育祭やったら、熱中症と脱水症でお前らの先輩がバッタバッタと倒れたわけだ。

 結構な人数が救急車で運ばれちまってな、PTAやら教育委員会やらが大騒ぎ。仕方なく気温がマシな六月頃になったわけだ。

 ああ、ちなみに多少の雨天なら決行するからな。他の学校行事も詰まってっし、梅雨時期だからって中止になることはほぼねぇからな? 覚悟しとけよ?」


 それはそれで保護者や教育委員会から苦情がきそうなことを、林先生はご説明なされました。


 しかし、そのような事情であれば致し方ないでしょう。最近は地球温暖化とメディアでもよく取り上げられ、昔のデータからすれば異常な気象や天候が増えてきましたから、身を守るためにも必要な判断だったのだと思います。


「で、だ。この体育祭な、その五年前から新入生へのレクリエーションも兼ねたスタイルに変更されて、クラスや上級生と一緒にする競技が多いんだわ」


 すると、次の林先生の言葉で、クラスの男女から一気に不穏な空気が噴出されました。これが俗に言う、空気が凍る、といったことなのでしょうか?


「……変に察しがいいな、お前ら。話が早くて助かるが。ま、お前らの想像通り、西高の体育祭は男女混合で行う競技も多い。交流の意味合いも含めてな。

 それが俺には非常に、ひっじょ~に心配だ。ぶっちゃけ、そこら辺は俺は基本ノータッチでお前らに決めて欲しいと思ってる。

 っつーわけで、柏木に立川、あとは任せたからな。うまくやれよ?」


 しかも、こんな最悪な空気を作るだけ作って、林先生はクラス委員長である私と、副委員長である立川さんに丸投げして、さっさと逃げられました。


 ……く、空気がギスギスしすぎています。先生がいなくなり、しばらくお互いを牽制するように男女間で睨み合いが発生しています。


 あわや抗争一歩手前にまで緊張感が高まりましたが、手が出ることはなく皆さん各々の部活動へと向かわれました。


 人が少なくなった教室で、私はほっと息を吐きます。これを私たちに任せるって、無理難題もいいところではないでしょうか?


「あ~、面倒くせぇ! っつか、うちのクラスも大概だろ! あれからもう一ヶ月だぞ? 普通忘れるか和解するだろうが!」


 同じく居残っていた立川さんも、私と似たような不満を口に出しておられました。


 何が彼らをそこまで(かたく)なにさせているのでしょうか? 叫びたくなった立川さんの気持ちは、私もよくわかります。


「確かに長いよね~。クラスの溝を気にしてないのって、たぶん私たちだけじゃない? 他の子はちょっと口を開けば男子の文句ばっかで、聞いてる方が滅入っちゃうよ」


 ため息混じりに立川さんに同意されたのは、長谷部さんです。数少ない中立派の私たちは、居心地の悪い教室のストレスを共有できる仲間であり、自然と一緒にいることが多くなってきました。


「男子は影でこそこそ悪口言っては、同意を求めようと話振ってくるんだよ。俺からしたら知らねぇしどうでもいいのに、ちょっと曖昧な返事すれば変な連帯感を押し付けようとしてくるしよ。

 いい加減付き合うこっちの身がもたねぇよ。面倒臭すぎて、最近はクラスのやつらを避けてるくらいだしな。絡んだら疲れるんだよ」


 立川さんもうんざりしたように愚痴り、長谷部さんと似たため息を吐き出しました。事態はかなり深刻なようです。


「確かに険悪な状態が進んでいますが、これは逆にチャンスかもしれませんよ」


「チャンス?」


「どゆこと?」


 暗いムードが続きそうでしたので、私が前向きな台詞を口にすると、立川さんも長谷部さんも私に注目されました。


「今回の体育祭は、主に生徒間の交流が目的なのですよね? でしたら、本来の意義に沿い、体育祭への参加でお互いを和解させる方向へ向かわせるというのは如何でしょうか?

 自分達の所属する組が勝利するよう練習を頑張って努力し、もし結果が伴えば、相手のことを認めた上で謝罪の流れに繋がるかもしれません」


「……柏木さんって、案外体育会系な考えしてんだな」


「そううまいこといくかな~?」


 私の考えを示してみると、立川さんも長谷部さんも微妙な顔つきです。


 しかし、私は有効な手段だと思いますよ? 一つの目標に向かって反目しあった人たちが力を合わせ、相応の結果を得られれば、少なくとも相手に対する感情は悪いものだけではなくなるはずです。


 さすがに私も、体育祭だけで関係改善に劇的な向上があるとは思っていませんが、歩みよりの一因にはなってくれると思っております。


 何事も些細なことがきっかけとなり変化の取っ掛かりになってくれるものです。何をしても無駄だと、最初から諦めてしまうよりは、余程可能性があると思います。


 と、言うような意見をお二人に聞いていただきました。


「う~ん、一理ある、か。なら、俺も手伝うよ。こんなギクシャクしたクラス、精神的にキツいからな」


「じゃ、私も協力するよ。面白そうだしね。リーダーは発案者の柏木さんね?」


「えっ!? 私がですか?」


「そりゃそうだろ? ここは頑張ってクラスを纏めてくれよ、委員長~」


「だって私たちの中で、ってか一年生の中で柏木さんが一番頭いいもんね? 私らが勝手にやるより、柏木さんの案に乗った方が、確率高いよ、きっと」


「……はぁ、わかりました」


 何だか無理矢理責任を背負わされた気が致しますが、元はといえば私が争いの火種となった事態です。私の手で収拾をつけるのが筋でしょう。


 具体的な行動はテストが終わってからになりそうでしたので、今日は解散して部活動に励みました。


 体育祭をきっかけに、少しでも皆さんの仲が良くなってくれればいいのですが。



 繋ぎ感がすごく出てしまった感じがします。


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