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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
一章 部活動 ~高校一年生・一学期~
22/92

蓮の十 人それぞれ、大変なんだなぁ


 蓮くん視点です。


 柏木さんが部活見学に来た翌日。僕は朝から死んでいた。


「おいおい、どうしたんだよ博士? 最近やつれてきてねぇか?」


「うむ、冗談ではなく顔色が悪くなっているぞ? ちゃんと食事や休息はとっているのか?」


「誰のせいだと思ってんのさ……」


 今は昼休みになり、モソモソと自分の机で弁当を食べている。クラスのみんなは、学食に走ったりグループを作ったりと、楽しそうに食事をしている。


 僕はというと、いつものメンバーで机を囲んでいた。僕だけは肉体疲労と筋肉痛に悩まされつつ、机に突っ伏していた。椅子を隣から借りた階堂と春は左右に陣取り、心配そうにこちらの様子を窺っている。


 とはいえ、こうして毎日が疲労と倦怠(けんたい)感に包まれているのも、僕を演劇部に放り込んだこいつらが原因だ。一つや二つの恨み言くらいでてもしょうがないよね?


「まあ、悪いとは思ってるよ。まさか、博士がそこまで体力ないと思わねぇし、演劇部がそんなにきつかったとは思ってなかったしなぁ」


「確かにな。部員数も二桁ではなかった故、もっと緩い感じに活動をしていると勘違いしたのは、拙者としても否定できん」


「その結果が、僕という尊い犠牲なんだよ……」


 ちなみに、僕の友人関係は相変わらず階堂と春を中心とした、以前からの知り合いしかいない。高校に入学しても、新たな友人関係は構築できないでいる。


 原因は、やっぱり中学の時からの噂なんだろうな。僕はみんなからかなりのキモオタ認定を受けているみたいだし、個性を重視する面子とばかり交友がある事実が、避けられてる理由になっているんだろう。


 人の噂は七十五日、だっけ? あれ絶対嘘だよ。今四年目に突入しちゃったし、現在進行形で尾ひれがついているような気がしてならない。


 あ、部活の先輩とかは友人関係には含まれていない。友人ほど気安くないし、普通に先輩後輩だし。でも、キャラが濃いのは階堂たちと似たり寄ったりだなぁ……。


「でもきついだけじゃねぇんだろ? ちらっと見たけど、演劇部のメンバーって美形ばっかだったじゃん。それに、女の子の方が多かったから、おいしい展開とかあるんじゃねぇの?

 まあ、二次元に比べりゃ劣るから俺はパスするけどな」


「階堂氏の下世話な発言はさておくとしても、相馬氏とてしんどい思いだけでは一週間と続かなかったはずだ。厳しさ以外にも、演劇部のよさもあったのだろう?」


「……、まあね。先輩たちみんな優しくて気遣ってくれるから、楽しい部分もあるよ」


 僕だって自分は三日もせずに投げ出すと思っていたんだけど、想像以上に長続きしている。我ながらビックリだ。


 体力作りは正直嫌で仕方ないけど、先輩たちがうまく僕の限界を見極めて引いてくれる。それで僕はもう少しできるんじゃないか? と思って頑張れるんだろう。


 先輩たちは全員ストイックだけど、優しいからね。人間関係においても悪くなる気配がない。そう考えれば、部活を演劇部にして正解だったのかもしれない。


「そういえば、二人はどう? 部活も頑張ってるんでしょ?」


 ふと気になり、今度は階堂と春に部活の話を振ったら、目に見えて顔が曇った。


 え? どうしたの?


「あー、うちはあれだ。先輩部員にそりが合わねぇのがいてな。顔合わせてアニメ談義をすりゃ、すぐに突っかかってくる面倒なのがいたんだよ。

 俺もそうだけど、あっちも基本的に自分の意見を曲げねぇから、すぐに喧嘩になっちまってな。他の同志たちにも迷惑かけてる状態だな」


「拙者の部活は、早々に派閥が別れてしまった。二人も知ってるように、料理研究会は女子が大半を占める部活なのだが、実は部員の中で部活の目的が異なるのだ。

 簡単に言えば、調理を楽しむ派と調理の上達派で別れている。前者はおしゃべりしながら楽しく作りたいとし、後者は純粋に料理の腕を磨きたいと思う人らが集まったものだ。

 どうやら拙者が少々張り切りすぎたようで、上達派の魂に火をつけてしまったらしい。料理の目的など人それぞれでいいと拙者は思うのだが、目的意識の違いから対立してしまってな。

 今では調理室を綺麗に二分して、お互いの存在を無視するように活動している。どちらでもいい中立派の拙者からすれば、無駄に緊張感があって居心地が悪いのだよ」


 そういうと、二人は同時にため息を吐いた。よくはわからないけど、問題は根深そうだ。


 やっぱり、大変なのは僕だけじゃないんだなぁ、と思いつつ僕はご飯を口に運んだ。




「じゃ、また明日ね」


「お~う、そっちも頑張れよ~」


「うむ! 拙者も覚悟を決めたぞ!」


 放課後になり、僕らは挨拶もそこそこに解散した。僕と階堂は部活が休み、春は今日は活動日らしい。


 階堂はいくつかお店を回りながら帰宅するとのことで別れ、春は戦争にでもいくような気合いと悲壮を背にし、立ち去っていった。ドンマイ。


 で、僕はというと、いつもの練習場へと向かっている。


 部活が休みなのに、何故? と思うかもしれないが、今日の目的は体力作りではない。先輩たちが来たとしても、今日は集まるだけで部の活動はしない予定だ。


 何をするかというと、僕と柏木さんとハーリーさんの入部祝いだそうな。お菓子類やジュースを持ちより、駄弁(だべ)りながら親睦を深めよう! というミィコ部長の提案である。


 僕も部室に寄る前に購買で何点かスナック系のお菓子などを購入し、部室に向かっている。参加者は僕らと発案者のミィコ部長以外は自由で、盛り上がるかどうかは不明だ。


「失礼します」


 練習場の扉の前で、深々とお辞儀。これも伝統らしい。ほら、野球部がグラウンドに一礼したりするのと同じやつだよ。


「おっ! 主役の一人が到着したね!」


「ミィコ部長。今日はありがとうございます」


「いいって、いいって! 結構毎年部長が言い出すことなんだからさ! これもある意味、恒例行事の一つなんだよ!」


 練習場にいたのは、ミィコ部長だけだった。やっぱり、他の先輩たちは忙しいんだろう。一年組とミィコ部長の四人での参加になりそうだ。


「あー! レンマ君発見!!」


「お邪魔しま~す」


「あれ? トーラちゃんにミトちゃん? 来てくれたんだ?」


 少し雑談をして残り二人を待っていたところ、次に現れたのはトーラ先輩とミト先輩だった。トーラ先輩は両手一杯にジュースをぶら下げ、ミト先輩はポッ○ーとかプ○ッツとかの、シェアしやすいお菓子を買ってきた模様。


「トーラ先輩、ミト先輩、お疲れさまです」


「私は疲れてないけどね!!」


「そ~ね~。うちらよりも~、レンマ君の方がお疲れだものね~」


「うっ! 否定できない……」


「あはは。早速いじられてるねぇ、レンマ君」


 女性が三人となり、一気に場が華やいだ部室に、先輩たちのおしゃべりが響いた。う~む、何となく居心地が悪いな。


「やあ。俺も参加させてもらっていいか?」


「ちーっす」


「こら、キョウジ! 先輩の前で失礼だろうが!」


 すると、僕の祈りが通じたのか、男性陣(?)も続々と現れた。紙コップや紙皿、ウエットティッシュなどを持参したターヤ先輩と、手ぶらのキョウジ先輩、何故か柿ピーやするめを持ってきたトウコ先輩だ。


 そういえば、誰も取り分けるお皿とかスナック菓子で手につく油とか、あまり気にしてなかった気がする。ターヤ先輩、細かいところも気がつくんだなぁ。


 キョウジ先輩は、そういう人だと思うことにした。


 そして、トウコ先輩のチョイスが渋い。今からビールを一杯引っかけるレパートリーじゃないかな? もちろん、お酒類を持って来るような人はいないけど。


「男の子がレンマ君一人じゃ可哀想かな? と思ったんだけど、キョウジも考えることは同じだったか?」


「あー、まぁ、そんなところっすね」


「私はこいつの監視に来ました」


 お、おぉ。結局、全員集まることになりそうだ。まあ、ただ雑談するだけだけど、人数がいた方が面白いよね。


「ん~、それにしても、ハーリーちゃんとカリンちゃんは遅いね? 何かあったのか?」


「ホームルームが長引いているんでしょうか? 二人とも同じクラスだそうですし、きっとそうじゃないですか?」


 それからしばらく先輩たちとおしゃべりしていたが、残りの一年生がなかなか来なかった。ミィコ部長も不思議そうだったが、僕はクラスが別なのでなんとも言えない。


「……っと! 待ってください!」


「お、来たか?」


「……それにしては、騒がしいね?」


 すると、部屋の外から柏木さんらしき声が聞こえてきた。キョウジ先輩とターヤ先輩も気づいたけど、ちょっと様子がおかしいような?


「失礼するよ」


「……へ?」


 しかし、入室してきたのは予想に反し、見たこともないような男の人だった。


 見た目は、王子様? 特に女子が思い浮かべるような人を、黒髪黒目にしたような人だった。先輩たちに勝るとも劣らないイケメンで、どちらかといえばターヤ先輩の系統に近い。


 でも、この中では誰一人として知り合いはいないようで、みんなポカーンと乱入してきた王子様を見上げていた。


 誰?


「待ってくださいと申し上げたはずです、お兄様!!」


「うわちゃ~、ちょっと遅かったかぁ」


 遅れて登場したのは、柏木さんとハーリーさんだった。結構急いで来てたのか、肩で息をしながら王子様に追いすがっていた。


 ……というか。


『お兄様?』


 ミィコ部長以下、全員の声が一致して首をかしげる中、王子様はとても爽やかな笑顔を浮かべて、こう告げた。


「初めまして。僕は今年から転校してきた、二年生の柏木晃と言います。妹が入部されたということで、ご挨拶とこちらをお届けに参りました」


「は、はぁ……」


 困惑しながら立ち上がり、ミィコ部長が差し出された何かを受けとると、目を真ん丸にして驚いていた。


「これ、入部届?」


「はい。僕も凛のいる部活動にお世話になろうと思っていましたので。今後とも、兄妹ともども、よろしくお願いします」


『……ええーっ!!??』


 腰が直角に曲がってるのではないかと思うほど、柏木先輩はミィコ部長へ深いお辞儀をした。


 あまりに急すぎる展開に、僕を含めた何人かが驚きの声をあげた。


「ふむ、これで部員数が十人か。二桁の大台は初めてだな」


「もしかしたら~、昔は多かったかもしれませんけどね~」


 冷静だったのはターヤ先輩と、意外にもミト先輩だった。いや、冷静というより、マイペースなだけかな?


「……どうして、お兄様が……、はぁ」


「あー、……っと、カリン、ドンマイ?」


 柏木先輩の背後では、今の僕よりも疲れた様子でため息を吐く柏木さんと、肩を叩いて慰めるハーリーさんがいた。


 階堂、そして春よ。


 うちの部活も、平和とはいかないらしい。



 それぞれの部活で生じた問題を出してみました。春くん、余計なことしちゃったね(笑)


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