17:やったか!? そう思った時が落とし穴になる
「よくも私の仲間を追い詰めてくれたなッ!?」
クリスは威勢の良い声と共にパイロットスーツに包んだ前足を踏み込む。
これが敵に突き入れたランスカノンをさらに押し込んでメカ虫の機体をひしゃげさせる。そうして動かなくなったのを後続のに叩きつけて俺を後退させる。
「まだ来るか!? 合体した以上はリードくんにも誰にも傷を付けさせはしないぞ!!」
四つの蹄を踏ん張り仁王立ちするクリスをトレースして、イクスブリードである俺もまた堂々たる殿役の構えを。
これに怯んだのか、メカ虫の突撃が鈍る。と思ったが、槍の先が届かない暗がりから口吻部の熱線砲が。
「私たちがただの騎兵で無いのは思い知っていると思っていたけれども!?」
しかしクリスは浴びせられるものを装甲で弾きながらランスカノンのトリガーを。
円錐形結晶質の砲身から放たれたビームがメカカブトムシの外殻を穿つ。間違っても遺跡を貫通しないように威力を絞ったものでこれだ。
向こうの攻撃は通じないが、こちらは倒せる。メカ虫側からすればひどいワンサイドゲームに見えるだろう。
「……あとは退避を急いでもらえれば、だね」
だがクリスが後退りしつつ呟くように、見た目ほどにこちらの余裕は無い。
こちらの耐久力も装甲に帯びたバリアによるもの。受けるにも攻撃するにもエネルギーが要る。元のランドイクスにブリードボディの持つエネルギーコアが重なる事で、パワーも持久力も大幅に高めてくれている。だが無限ではない。
そしてパイロットであるクリス自身のスタミナと集中力も、また有限だ。
その限られたエネルギーをどれだけ保たせられるか。そこが勝負どころだ。
「さあ! かかってくるがいい! いくらでも相手をしてやるぞ!」
だがクリスは前の足を振り上げて馬蹄を鳴らして敵へランスカノンを浴びせる。
これはもちろん彼女がヤケを起こしたワケじゃない。集まってる敵を減らすのはある。が、それ以上にこちらの余裕をアピールする事で敵の警戒を誘うためのけん制だ。
これが通じたのか、メカ虫の吐き返して来る熱線もまばら。クリスはこれを易々とさばきながら出入口へ向けての後退を進める。
そのまま俺たちは、メカ虫が積極的に突っ込んで来ることもなく、じわじわとついてくるのにエネルギー弾を浴びせかけながら壁役を務めていく。よしよし、順調じゃあないか。
「いや、アレは?」
しかし安堵する俺に反して、クリスは正面のある一点を見据えて警戒を強める。
クリスが見つけた異変。それはメカカブトムシが折り重なったところ。そこでバキバキギチギチと音を鳴らしながら奴らは絡み合っている。アレは、まさか……食いあってる、のか?
「イヤな予感がする!」
同感だと俺が思うのと同時に、クリスは塊になったメカ虫にランスカノンを放つ。
これに前にいたのが割り込んで盾に。光の槍は庇い立てしたのをやすやすと貫いた……が、その奥の塊には浅く刺さるだけに終わる。
そしてドロリと熔けた装甲を散らして倒れたのも、また硬い音を立てて塊に取り込まれる。
機械が食いあって何になる。生き物同士であったって生き残りの栄養になるだけだ。俺のやけに冷静な部分がそう言うが、頭の中の警告は止まらない。
「止めさせるなら突っ込むしか無いか!」
一方で何としても止めるべしと心を決めているクリスの動きは早い。力強く踏み込んでランスカノンを放ちながら突撃をかける!
エネルギー砲を受け風穴をあける機械虫の塊。だがそこから飛び上がったモノがこちらの正面に。
緩い山なり軌道に砲撃を避けて迫ったそれに、クリスはとっさに左腕を上げてランスカノンのひとつを盾に。クリスタルの砲身に鋭いアゴで食いついていたのは、鋭角で構成された鉄の顔。
長いアンテナの下には吊り上がったカメラアイは怒りに染まったかのようにギラギラと。その後ろに続く体は丸く厚みのある装甲に覆われているのは変わらず、しかしいくつもの節を連ねたものに。それはグソクムシとムカデを合わせたような姿で。
その巨大な海底ムカデが大アゴを軋ませると、食いつかれた俺の腕が、それを支える肩から四つ足の下半身にまで圧力を受ける。
対してクリスと共に蹄を踏ん張り、スラスターも噴かすも、イクスブリード・ランドである俺の機体は後ろへ押し流されてしまう。
「くうッ!? なんて、パワーだッ!!」
合体してなおパワー負けする。この事実に歯噛みしながらも、クリスは食いつかれたのとは逆のランスカノンをムカデの頭の付け根に撃ち込みトリガー!
エネルギー砲は掴みかかる足もろともに、オオムカデの頭を吹き飛ばす。そうして勢いのままのし掛かってくるのを振り払った……が、しかし吹き飛ばしたはずのムカデの顔が再び俺の目の前に?!
「なんとぉ!?」
声を上げたクリスはどうにか体をひねって肩装甲に食いつかせる。
コイツ、壊れた先端を切り離して新しい頭を出したって事か!?
厄介な仕組みを作ってくれて!
クリスと声を合わせて肩に食いついているムカデの顔と睨み合う。
その大アゴの隙間からはチャージ中の熱線が明々と覗いて。
急いでムカデの脇腹を槍で突き破って切り放し、仰け反る胴体へ後ろ蹴りを見舞い離脱。
放ち損ねたエネルギーを暴発させたムカデの頭を無視して、クリスはコックピットでギャロップ。この瞬発力が俺の四つ足をひと息に最高速へ持っていく。
広がった鉄の遺跡に馬蹄の音を響かせながら、クリスは腰をひねって後ろへランスカノンを。
案の定復活していたグソクムカデのロボは、光の槍に貫かれた節をまた切り捨てて追いかけてくる。
そうして大アゴを鳴らして俺の尻を狙ってくるのに対して、クリスも迎撃のランスカノンを絶やさない。だが振り向いての姿勢が仇となって、壁や天井まで足場とするグソクムカデの足を止められない。
「大物が来てる! 離脱はまだ!?」
「護衛チームは脱出完了しているわ。出口には十字砲火を構えさせてる!」
「承知!」
オペレーターのアーシュラさんの返事に、クリスは威勢の良い返事を。
そして足をほんのわずかに緩めて、グソクムカデのアゴが届くか届かないかという位置にまで下げる。
当然勢い付いた追跡者が食らいつきに来る。が、これをクリスは槍をアゴに叩きつけて打ち払う。
この抵抗に苛立ったのか、巨大な鉄ムカデは大アゴ奥の熱線砲を天井や俺の足元を狙って。
対してクリスは鋭く息を吸い込んで強い踏み込みをひとつ。落ちてくる天井を置き去りに、足を焼き切りに迫るのをかわす。
「これはお土産さ、受け取っておくれ!」
そして振り向きざまに強めのランスカノンを一撃。自分の熱線でルートを限定したムカデの顔面を打ち砕いた。
その隙に解き放った足の勢いを高めるままに太陽の下へ飛び出す。そして出入口前にできた広場で大きく弧を描きながら勢いを緩めていく。程なく遺跡出入口を正面に捉えたところで、頭を取り替えた巨大メカムカデが飛び出してくる。
「撃てぇえーッ!!」
エキドナのライエ副司令からの号令一下、白日に飛び出した巨体に砲火が殺到する。俺とクリスのランスカノン二つはもちろん、二点で待ち構えていた陸戦隊のビームキャノンが交差型に。上空からも空戦隊のミサイルやエキドナからのホーミングレーザーが雨あられと。
眩いばかりに弾ける光がまた合図を受けて収まれば、もうそこには何もいない。
強烈な砲撃で耕された地面があるだけだ。
この結末に通信機の向こうでは口々に安堵の声が。そして油断無く両の槍を向けていたクリスもまた積み重なった疲労を吐き出す。
そこで俺は足元に震動を察知。クリスの操作を待たずに飛び退いた直後、地面を噛み裂く大アゴが飛び出した!




