伝えたい想い
翌日ーー
昨日のどんよりとした曇り空とは一転して、雲一つない清々しい青空が広がっていて、太陽が眩しく輝いていた。
家を出る前に、昨日購入したフルーツとジャム類がエコバックの中に入っているか確認。全てあることを確認した俺は、いつも通り優奈と学校までの道のりをゆっくりと歩いていた。
「えっ?お義母さま、今日の文化祭にいらっしゃるんですか?」
「うん。昨日家に戻ってから明日の文化祭って来るのかって確認したら『絶対に行くわ!』って言ってた」
母さんには、いつの時期に学校行事があるのかを一応伝えている。
保護者として息子の学校で何があるのか知りたいと言って月初めの電話で毎回聞かれるため、昨日と今日文化祭が行われているのは母さんも知っている。
『文化祭』というワードを出したとき、「文化祭なんて久しぶり。最後にやったのは大学生の頃だから二十年以上前の出来事だわ……」と電話越しから過去の出来事を感慨深そうに振り返っていた。
「わたしたちの出し物のことについては……」
「聞かれたから答えたよ。『明日は撮影で大忙しね!』って」
とは言っても、文化祭中は基本撮影禁止。
そのことも母さんにはきちんと伝えている。
学校の決まりであるため、そこは受け入れてもらわなければならない。最初は文句を垂れていたが、渋々納得してくれた。その代わり、『心というフィルターにその姿をしっかりと焼き付けておくわ』と、言葉を残していた。
シフトの時間も伝えているので、おそらくその時間帯に高校に訪れるだろう。
「良くん。お義母さまに愛されていますね」
「ありがたいことにな」
小さく笑みを見せる優奈に、俺も微笑みを浮かべた。
一人息子というのもあるのだろう。好きを通り越して溺愛されていると感じるくらいだ。
時々疎ましく思うこともあるが、興味なさげに関わりを持たれなくなるよりは百倍マシである。
「母さん、俺のメイド服姿だけじゃなくて優奈の執事服姿も見たがってたぞ」
「お義母さまに執事服姿を見られるのは少し恥ずかしいですね……」
「俺だって母さんにメイド服着てるとこ見られるなんて絶対に嫌なんだが」
俺の姿を見つければ、絶対にんまりと笑顔を見せてこちらを見つめてくるのが目に浮かんでくる。
息子、優奈好きである母さんにとってはまさに幸福の時間なのだろうが、変に手を振ってきたりしないだろうかとやはり不安に襲われてしまい、俺は思わず深いため息を漏らす。
お互いに昨日のことは話さなかった。
いや、話そうとはしなかった。今はこうして普通に話せてはいるが、そのことに触れればまた変に意識をしてしまい顔を合わせられなくなるほどに恥ずかしくなるのが分かっていたからだろう。
隣を歩く少女に抱いているこの感情は間違いなく本物だ。仲直りをしたときから、一緒にいたいと強く願うようになった。それは今の関係ではなくて。
でも今の関係が崩れてしまうのもたまらなく嫌だった。積み上げたものが崩れ去るのは、本当に一瞬のことなのだから。
自分の素直な想いを伝えることはこんなにも難しくてもどかしいものなのだと、しみじみに感じながら歩いていた。
次話から文化祭二日目に入ります。
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ、評価等いただけたら嬉しいです。




