姫は可愛いぬいぐるみが大好きで
俺たちは水族館の入り口のすぐ近くにある小さなミュージアムショップに足を運んでいた。
店内には水族館にいる生き物をモチーフにした筆記用具やお菓子、タオル等が置かれていてどれもこれも目がいってしまう。
優奈が見ていたのは水色のハンカチ。隅っこにはサメの刺繍が施されていた。
「これってさっき見た白ワニというサメですよね?」
「あーそうだな。色もなんとなく似てるし。見た目は全然違うけど」
そう言うのもペンギンたちのいる屋内開放型プールを後にした俺たちは、ミュージアムショップに向かっている最中に白ワニがいる水槽に足を止め、白ワニを眺めていたからだ。
大きな身体は薄茶色で、大きな身体に凶暴な顔立ち。突き出た鋭い牙はどんなものでも噛みちぎるのではないかと思わせる。
だが実際は、おとなしく攻撃的ではない性格で動きも遅い。のんびりと泳ぐ姿は可愛く、子供たちも興味深そうに見ていた。
それでも刺繍のサメは凶暴さどころか、むしろ可愛らしさの塊である。それを手に取った小さな女の子が「ママッ!これ買って!」と母親にねだっていた。その母親はしばらく考えたあと、目をウルウルとさせる娘の反応を見て「仕方ないなー」と頭を優しく撫でながら、そのハンカチを受け取っていた。
結構子供にも人気があるようだ。
「わたしも買おうかな」と優奈は呟いて、それを手に取った。そのあとも俺たちはショップの中を歩き回る。
「良くん?」
俺が立ち止まった瞳の先には、クラゲやイルカなどのキーホルダーがあった。俺が手に取ったのはペンギンのキーホルダーである。作り物だが大きくつぶらな瞳がこちらを見つめていて自然と掴んでいた。
「買うんですか?」
「まぁな。そりゃあプールでのあの愛くるしい姿を見せられたら買わないわけにはいかないだろう」
「だったらわたしも……」
優奈は俺と同じものを手に取った。そしてそれを見せて「お揃いですね」と言うと、俺に笑みを見せた。
「おう」
お互いにペンギンのキーホルダーを買うことにした。お揃いというのは気恥ずかしさもあったのだが。買いたいものは買えたしそろそろ会計済ませるかと思っていると、
「可愛い……」
今度は優奈の足が止まる。
棚にはファンシーなぬいぐるみたちが並んでいた。いろんな動物のものがあるが、中でもイルカとペンギンのぬいぐるみが人気らしく、残りわずかとなっていた。
そういえば優奈の家には可愛らしいぬいぐるみが多く置かれていた。可愛いものには目がないのだろう。
彼女が取ろうとしていたのはイルカのぬいぐるみ。しかし御目当てのものは高い棚に置かれていて爪先立ちして必死に手を伸ばすも、僅かに届かない。
俺は腕を伸ばして、優奈が取ろうとしていたぬいぐるみを掴んで優奈に渡す。
「ほら」
「ありがとうございます」
手渡されたイルカのぬいぐるみを大事そうに受け取った。目をキラキラとさせている優奈を見て、普段は近寄り難い雰囲気を出しながらもやっぱり女の子なんだなと思った。
会計を済ませて、俺たちはミュージアムショップから出る。俺はキーホルダーしか購入おらず、ポケットにしまえる程度だが、優奈はイルカのぬいぐるみを購入しているため、片手が塞がっている状態だ。
だが優奈は満足げな表情を浮かべていて、それを大事そうに抱きしめていた。
「買えてよかったな」
「はい」
水族館を後にして俺たちはレストランへと足を運んだ。やはりお昼時であるためか、店内はそこそこ混んでいたが座れないほどではなく、俺たちは店員に案内されたテーブルへと向かい、椅子に座る。
「ここは洋食が人気らしくてな。一度行ってみたかったんだ」
ネットで調べたのだが、家からは中々距離があるし高貴な雰囲気であったため一人で行くには少し躊躇いがあったのだが、優奈が一緒ならと思い、このレストランを選んだのだ。
「店内も落ち着いた雰囲気で、リラックスできますね」
俺たちはこのレストランの一番人気であるハンバーグを注文した。頬張ると口の中で肉汁が溢れだす。柔らかなお肉が口の中で溶けていく。
「とても美味しいです」
優奈の評価も高く、このレストランを選んで良かったと安心する。あっという間に食べ終わって会計を済ませて、俺たちはそのレストランを去った。
「ここからさらに暑くなってくるし、早いところカラオケ屋に向かおうか」
「そうですね」
互いの身体が触れ合いそうな距離感で、俺たちはカラオケ屋へと向かった。
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