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ダンジョンに潜むヤンデレな彼女に俺は何度も殺される  作者: 北川ニキタ
第三章

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―61― 自己紹介

 その男は勇者エリギオンと名乗った。

 知っている名だ。

 百年後では、魔王を倒した勇者の名として語られている。

 それが、今、目の前にいた。


 彼らの話を聞くに、アリアンヌ地方で行なわれたため、『アリアンヌの戦い』と呼ばれる魔王軍と勇者軍の大規模な戦争において、勇者軍は劇的な勝利を収めたらしい。

 しかし、肝心の魔王を倒すことはできなかった。

 敗走した魔王は身を隠すために、【カタロフダンジョン】の奥地に逃げたことまでわかったが、肝心の【カタロフダンジョン】の内部構造に詳しい者が味方にはいなかった。

 なにせ【カタロフダンジョン】はSランクダンジョンで攻略した者がいないとされているダンジョンだ。

 途方に暮れたところ、その【カタロフダンジョン】を攻略した冒険者が現れたという噂をちょうど耳にしたという。

 その者を探し回った結果、俺のもとにたどりついたとのことだった。


「それで、キスカくん、案内をお願いできるかな?」


 そう言って、勇者エリギオンは手を差しのばす。


「一つだけ質問してもいいですか?」

「もちろん、なんでも聞いてくれても構わないよ」

「アゲハという名に心当たりはありませんか?」

「わからないな。君の知り合いかな?」


 勇者エリギオンは即答する。

 勇者以外の仲間に知っている人がいないか目配せするが、誰も答える様子はない。


「えっと、実は人捜しをしていまして」

「そうだったのか。期待に応えられなくて申し訳ない」

「いえ、知らないようなら仕方がありません」

「それで、急かすようで悪いが僕たちに協力はしてくれるのかな? もちろん相応の報酬は払うことを約束する」


 さて、どうしたものか。

 協力すべきかしないべきか。俺の目的はあくまでもアゲハと出会うことだ。

 頭を悩ましていると、吸血鬼ユーディートの言葉を思い出す。

 魔王は勇者アゲハによって、滅ぼされた。

 つまり、魔王の近くにいれば、いずれアゲハも表にでてくる可能性が高い。


「わかりました。協力させてください」


 彼らが魔王を追っている以上、彼らと行動することで魔王に近づけるのは間違いない。

 この行動がアゲハに繋がることを願って、俺は彼らの協力に申し出ることにした。





 それから俺たちは軽く自己紹介をした。

 これから、共に高難易度のダンジョンに潜ろうというわけだから、お互いのことについて少しは知っておくべきだろう。


「キスカです。職業は剣士。それから〈挑発〉スキルを持っているので、敵を引きつけることができます」

「いいね。回避盾とかができそうだ」


 勇者エリギオンがそう言う。

 回避盾というのは、確か、敵の攻撃を回避しながら引きつける役割の人のだったと聞いたことがある。

 やったことはないが、問題なくできるだろう。


「貴様、ランクはいくつだ?」

「プラチナです」

「プラチナか。なら、我々の足手まといにはならないな」


 女騎士の言葉にほっと胸をなで下ろす。

 ランクがプラチナのおかげで、舐められずには済んだらしい。


「それじゃあ、次は僕から自己紹介しようか」


 そう言ったのは、勇者エリギオンだった。


 まず、このパーティの主力であり人類の希望でもある勇者エリギオン。

 本名は、エリギオン・ラスターナ。

 ラスターナ王国の第一王子とのこと。

 そういえば、勇者エリギオンの身分が王子だったのは聞いたことがあった。確か史実では、この後、国王に就任するはずだ。

 こんな高い身分の人が目の前にいると思うと少し緊張するな。

 ちなみに、ラスターナ王国はここカタロフ村を領地に含む大国だ。

 職業はもちろん勇者。

 聖剣を使って戦うとのこと。

 ランクは最高のマスター。序列は7位。


 次に自己紹介したのは、俺を冒険者ギルドから引きずった女騎士。

 本名はカナリア・グリシス。

 職業は聖騎士。

 剣術と治癒魔術が得意なジョブだ。

 国王の近衛兵も務めているらしい。

 ランクはダイヤモンド。


 その次は、ドワーフのゴルガノ。

 使う武器は斧。

 職業は戦士。


「あんちゃん、よろしくな!」


 と言って、戦士ゴルガノは俺の肩を叩いた。

 親しみやすそうな人だ。

 ランクはダイヤモンド。


 次は長身で不気味なローブをまとった男。

 かぶっているフードが深いせいで顔を判別することさえできない。


「ノク。よろしく」


 男は抑揚がない言葉でそう自己紹介をする。


「こいつはいつもこんな感じだ。だから、あんま気にするなよ!」


 と、戦士ゴルガノがフォローしてくれる。

 人見知りってことなんだろうか。

 職業は意外にも剣士。てっきりローブを身につけているので魔術師だと思ったが、違うみたいだ。

 ランクは教えてくれなかった。


 そして、もう一人。


「いいですか、ニャウは見た目のせいで、よく子供扱いされますが、こう見えて年齢はあなたよりもずーっと上ですから。けっして、ニャウのことを子供扱いしないでくださいね!」


 見るからに幼い少女がそう言って、自己紹介を始めていた。

 理由はわからないが、なにかに怒っているように見える。


「お嬢ちゃん、今、大事な話をしているから、あっちに行ってくれると助かるな。あっ、もしかして、ママとはぐれたのか?」


 なぜ、幼い少女がこんなところにいるんだろうか、とか思いながら、そう尋ねてみる。迷子なら早く母親を見つけてあげないと。


「うわぁーんっ、この人、ニャウのこと、子供扱いしてきたーッ!!」


 少女は泣きながら、勇者エリギオンに泣きつく。

 おい、勇者様を困らせるのはマズいだろう。


「この子はこう見えて、僕たちよりもずっと年上のエルフなんだよ。だから、あまり虐めないであげてほしいな」


 勇者エリギオンがそう説明する。

 エルフとな? 見ると、彼女の髪に埋もれてよく見えなかったが、耳の先端が尖っていた。

 そういえば、エルフは長寿で成長が遅いと聞いたことがある。


「その、エルフとは知らず失礼しました」


 一応、謝っておく。


「ほら、彼もこう言っているんだ。許してあげて」

「次、ニャウのこと子供扱いしたら、許しませんからっ」


 泣きべそをかきながら少女はそう言う。

 正直、これが自分より年上とか思えないな……。

 エルフで本名はニャウ。

 手には背丈より大きなロッドを持っている。職業は、魔術師。

 ランクは、見た目に反してダイヤモンド。


 というわけで、全員の自己紹介が出揃った。

 勇者エリギオン。

 聖騎士カナリア。

 ドワーフの戦士ゴルガノ。

 謎のローブ男。剣士ノク。

 エルフの魔術師ニャウ。

 そして、俺、キスカ。


 このメンバーで、【カタロフダンジョン】に潜ることになった。

 俺にとっては人生二度目のダンジョン攻略だ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ステータスとかスキルが存在する世界で、見た目で年齢とか強さとかを判断するのって愚かすぎませんか? しかも今回は勇者パーティの仲間っていう肩書きのお墨付きまであるのに
[良い点] 謎のローブ男 [気になる点] タイトル的に傀儡廻ちゃんに未来はなさそう [一言] 殺された冤罪というのが、あながち間違いとも断言できず意味深い
[一言] アゲハがいつくるかドキドキするので、 ニャウたんは貰っていきますね
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