第17章:お兄ちゃん《断章3》
【村雲明彦】
夏姫とのデートの最後は夜の公園でのんびりとしていた。
夕食を終えて、2時間ほどカラオケを満喫した。
帰り際、コンビニで買ってきた肉まんを2人で食べる。
「もう、この時期で肉まんなんて売ってるんだ」
「最近、寒くなってきたし。言ってる間に冬になるからな」
「んー、熱いけど美味しい。そうだ、冬と言えばクリスマスじゃない。クリスマスは明彦と一緒に過ごせるといいなぁ」
俺たちの関係がどうなるか分からない。
「ケーキ作ってこっちにくるから。一緒に過ごしてくれるよね?」
「そうだな。夏姫の手作りケーキを食べながら、クリスマスを過ごすのもいい」
その辺の事は近づいてから考えるようにしよう。
ベンチに座りながら、夏姫と寄り添いあう。
夜の公園は人通りも少ないし、2人っきりの雰囲気を満喫できる。
「……ねぇ、明日はどうするの」
「俺も実家に行くよ。まずは夏姫の夢を叶えるために説得する。それが第1の目標だ。大学に進学せずにパティシエになるための専門学校に行きたいんだろ?」
「うん。それがこの2週間で出た私の答えだから」
本物のパティシエの空気に触れて、彼女は余計にその夢を強く抱いた。
そんな彼女の夢を俺も応援したい。
「明彦がくれた時間のおかげだよ。ありがとう」
この2週間、彼女にとって意味のある時間になったようだ。
両親がどう判断するのかは分からないけどな。
「もし、反対されても、私は夢を叶える」
「……そうか。その辺は自分でしっかりと説得するんだぞ。夏姫の気持ちが大事なんだから。自分の言葉で言うんだ」
「うんっ。頑張るっ」
可愛らしい笑顔で決意をする。
俺にはフォローはできても代弁はできない。
彼女自身が乗り越えなくてはいけないものだから。
「そして、そのあとは……」
「私たちの交際を認めてもらうんだよね?」
俺たちにとってもうひとつの大きな問題。
不思議な話ではあるけども、2週間という時間が俺たちの関係も変えた。
あの日、家出した夏姫を見つけてから色々とあった。
時間にすれば、たったの14日なのに本当に長く感じた2週間だった。
「そこは俺の出番だな。俺が伝えなきゃいけない。何度か反対されてもな。それでも俺も夏姫と恋人になりたい」
「私も……明彦と堂々と恋人になりたいよ」
甘えるように夏姫が俺の頬に唇で触れる。
俺は彼女の頭をぽんぽんと撫でた。
「んっ……」
くすぐったそうに目をつむる彼女。
すっかりと生意気だった頃の彼女は見る影もない。
愛しくて可愛らしい少女としての夏姫がそこにいる。
「星だ」
「ほし?あぁ、星か。どうかしたか?」
俺たちは夜空を見上げる。
都会の夜空は明るい街の光で、遮られ、星を満足にみることができない。
うっすらと見える星々。
「こうやってゆっくりと空を見る機会なんてこの2週間なかったなぁって」
こういうのも、たまにはいい。
「寒くないか?」
「明彦とこうしてるから、全然寒くないよ」
俺の腕に抱きつく形の夏姫。
肌を通しての温もりは、俺たちにとって互いに心地よい。
もっとこうしていたい。
この子の温もりを感じていたい。
「夏姫……好きだぞ」
「……うん。私も、大好き」
まもなく俺たちのデートは終わる。
だけど、俺たちの関係はこれで終わりじゃない。
これから先も恋人関係を続けていけるように。
俺も夏姫も互いに譲れないもののために頑張るのみ。
「明日が大変だな」
けれど、この2週間の結果を出す日でもある。
「……大丈夫だよ。だって、明彦がいるもん。私は明彦のためになら、なんだってする。夢も恋も諦めない、絶対に叶えようよ」
俺たちの運命を変える。
明日という日がついにやってくる――。




