第12章:超える一線《断章1》
【村雲明彦】
夏姫が好きだと気づいて、彼女に告白をして。
俺達は恋人にはまだなっていないけども、それに近い関係だ。
「あのさ、夏姫?」
「なぁに、明彦?」
「俺も夏姫とこういう関係になれたのは嬉しいんだが」
「うんっ。そうだよね」
俺もいろいろと期待はしていたさ。
夏姫が可愛くて、恋人にしたいと思ったわけだし。
「でも、だからと言って……告白してすぐにこれはどうかと思うんだよ」
独り暮らし用の狭いお風呂場。
そこにタオルをつけただけの夏姫がいる。
「何でこうなった!?」
白い肌が見え隠れするタオル姿。
タオルの胸元を押さえる夏姫は笑顔で言う。
「えーっ?いいじゃない?お風呂だって小さい頃はよく一緒だったし」
「小学生時代と比べるな」
「むぅ……明彦は私と一緒にお風呂に入りたくないの?」
「……違うんだ、違うんだよ、夏姫」
俺だって、胸以外が成長したお前のそう言う姿に期待していないわけではない。
特に背中からお尻にかけてのラインとかは正直、良いと思います。
いきなりお風呂に一緒に入ろうって流れになった事に頭がついていっていない。
「俺達、恋人じゃないだろ」
「明彦は告白しても、まだそういう事を気にするし」
気持ち的なものかもしれないが、俺達はまだ恋人ではない。
こういう事は……そうなってからでもいいだろうに。
「……ぐすっ」
何て言うと、拗ね始める夏姫。
お風呂場に響くんだよ、その声が……。
俺の良心というか、心が痛む。
「明彦なら、私の全てを見せてもいいし、好きにしてもいいのに」
甘く囁く唇が艶めかしくて、ドキッとしてしまう。
「私は兄妹以上恋人未満の関係なのに」
「その言い方は世間的に誤解を招きかけないのでやめよう」
「何よ、明彦ってば。私の身体に興味がないとか?」
顔を赤らめさせながら、彼女はタオル姿の身体を見せる。
夏姫って、スタイルは……まぁ、胸の付近は寂しいですが。
肌は綺麗だし、可愛いし、ドキドキしないかと言えばウソになる。
「……普通に入るのなら」
「やだぁ。普通に入るよ?もしかして、変な事を想像しちゃった?」
一応、俺も男ですから。
なんて事をしながら俺達は一緒にお風呂に入る。
狭いので、どちらかひとりしか湯船には入れない。
「~っ♪」
俺が湯船につかっていると、夏姫がシャワーを浴び始める。
「……」
その姿を見ているだけ、下半身には優しくない。
夏姫は俺の視線を気にしていないのか、楽しそうに笑っている。
「明彦とお風呂だっ」
「何が楽しいんだ?」
「一緒にいられるだけで楽しいの」
そんな言葉を満面の笑みで言われて喜ばない男は多分いない。
可愛いってのはずるいと思うんだ。
「夏姫、お前は変わりすぎだろ」
「好きな人の前で変わるのは当然でしょ?」
……そんな問題なのだろうか?
夏姫の変わりようはそんな言葉で説明できないんですが。
シャンプーで泡だらけになる夏姫。
妙な色っぽさを感じてしまう。
「夏姫の髪って綺麗だよな」
「え?そう?」
「昔はもっと長かったよな?」
俺の記憶では高校に入った直後くらいに今の肩ぐらいの短さになった。
それまでは腰に届きそうなくらいに長髪だったのに。
「手入れが面倒になったんだよね。長いと大変だし」
「そんな理由なのか?」
「うん。明彦は長い方が好き?だったら、また伸ばすけど」
「いや、今のままでいいよ。夏姫らしくて、良いと思う」
今の方が可愛らしさ的には魅力があると思う。
湯船を交代して、俺がシャワーを浴びる。
夏姫はのんびりと湯船でくつろいでいる。
「ねぇ、明彦?」
「ん?なんだ?」
「私でも欲情したりする?」
「ぶっ!?危険な発言はやめろ!?」
危うく吹き出しそうになった。
「だって、普通だったら、もうちょっと色っぽい展開になったりしない?」
「なることに期待しているのか?」
「……ちょっとだけ」
照れて言うなよ、可愛いから。
「ほら、襲われちゃったりするのかなって期待感」
「そこに期待しないでくれ」
お風呂に浮いたタオルから見え隠れする肌の露出が増えている。
視線をそらせない男の性。
好きな女の子の裸に欲情しない男はいないのだが。
「それで、どうなの?」
こちらの反応を伺う夏姫に俺は告げる。
「俺、もう出ます」
「あーっ、逃げた」
「そういうのはもっと大人になってからにしてくれ」
俺のセリフに夏姫はむくれる。
「ふんっ、どうせスタイルよくないですよー」
そう言う事じゃないんだけどな。
「明彦は胸の大きい人が好きなのねっ」
文句を言う彼女から逃げるように風呂場を出ていく。
「はぁ……」
俺は脱衣所に出て、ホッとする。
あのまま、夏姫を見ていたら襲ってたかも。
「自制心なんて抑え続ける自信はないぞ」
目の前に好きな女の子が無謀な姿をさらして我慢できるか。
「……それでも、こうして逃げてしまう俺はヘタレなのだろうか」
軽く落ち込みながら俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
恋人未満の妹との生活は残り少ない。
そのわずかな時間を精一杯に楽しもうとしている。
夏姫と過ごす、どんな時間でも愛しく思えていた。




