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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ

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70◆魔神さん、あちらです


 魔神フェイラスは異界からやってきた。

 ベリアルの話によれば、彼女と同じ程度は異界で過ごしていたそうだ。

 となるとひとつの疑問が浮かぶ。


 はたしてフェイラスは、この世界の魔素を吸収できているのだろうか?


 ベリアルはそれができずに常に腹ペコ状態。彼女自身の燃費がめちゃくちゃ悪いのを考慮しても、フェイラスが補給なしで長く活動できるとは思えなかった。


 だから時間を稼ぎ、なるべくフェイラスが魔力を無駄に使うよう仕向ける作戦を考えたのだ。


 しかし先の疑問の答えが『YES』なら、作戦の大前提が崩れてしまう。

 そこで注意深くフェイラスを観察していたところ。


「この世界はどうなっていますの? まったく魔素が吸収できないなんて」


 そんな愚痴をこぼしていたではないか。

 独り言で嘘は言うまい。でもいちおうベリアルに確認する。


「魔力の補充ができないにしてはのんびりしてるよね?」


「あまり深く考えてない。思いついた作戦が絶対に正しいと決めつけてるから」


 お墨付きをいただいたので信じよう。

 そんなわけで、フェイラスの魔力を無駄に消費させる作戦が敢行された――。





 街の中央通り。建物の陰から俺は様子を窺う。

 上品に歩くフェイラスに、冒険者の男性が近寄っていく。


「よう姉ちゃん、また会ったな」


「誰ですの?」


「うぐっ。ほ、ほら、前にあんたが俺を指差して、『ベリアルって女を探してる』とか訊いてきたろ?」


「そうでしたかしら?」


「そうだったんだよ。で、そのベリアルって女の居場所が――」


「わかりましたの!?」


 ぐわっとものすごい食いつきだ。


「い、いや、それらしき女を見たって奴が――」


「すぐに案内なさいな。ほらほら! 今すぐに!」


「話は最後まで聞けよ!」


 冒険者さんはちょっと涙目だった。


「いいですわ。聞きましょう。ですがもし、わらわが望む話ではなかったら――おわかりですわよね?」


 赤い瞳が妖しく光る。


「そうプレッシャーをかけないでくれよ……。もし間違ってたら、あんたに無駄足を踏ませちまうだろ?」


「言われてみればそうですわね。それで?」


 ふうとため息をついてから冒険者さんは言う。


「んじゃ、まずは容姿からだな。そいつが見たのは、銀色っぽい長い髪で赤い目をしたとびきりの美女だったそうだ」


「ベリアルお姉様に間違いありませんわ!」


「早いなっ! で、だ。その美女は――」


「どちらにいらっしゃいますの!?」


「だから話は最後まで聞けよ!」


 冒険者さん、がんばって!


「この街の南東にある中級者向けの洞窟ダンジョンで魔物狩りをしてたそうだ。昨日の話だが、テント持参で数日は泊まりこんでる様子だったらしい。もしかしたらまだそこで魔物を狩ってるかもしれねえぞ?」


「お一人で、ですの?」


「ああ、単身ソロだった。あまりに集中してたっぽくて話しかけられる雰囲気じゃなかったそうだが、テントも一人用で周りには誰もいなかったってよ」


 フェイラスは怪訝そうに眉をひそめた。


「どういうことですの? ベリアルお姉様は囚われているのではないのでしょうか?」


 この作戦では『ベリアルが街ぐるみで囚われている』との誤解を解消することも目的としている。一度では解けなくても、何度もやれば効果はあるかもしれない。


「はっ!? まさかお姉様の弱みにつけこんで無償労働させているのでは? そうに違いありませんわ!」


 本当の本当に面倒くさい魔神ひとだなあ。


「とにもかくにもまずは確認、ですわね。情報提供、感謝しますわ」


 投げキッスとウィンクを報酬にして、フェイラスはびゅびゅんと駆け出した。ものすごく迅い。


 完全に姿が見えなくなってから、俺は冒険者さんに近寄った。


「お疲れさまでした」


「ああ、マジで疲れたぜ。なんつーか、話してるだけで精神がガシガシ削られてなあ」


 冒険者さんは肩をこきこき鳴らして続ける。


「しかし、なんか妙な感覚だな。うまくは言えねえんだが――」


 ちょっと居心地が悪そうに、申し訳なさそうに、


「あの姉ちゃん、あんま悪い奴には思えねえ。だからか、騙すようなマネをしてちょいとばかし心が痛むな」


 俺も二人のやり取りを眺めていて同じ気持ちになっていた。

 根が正直な彼女を騙すのは気が引ける。でも――。


「悪いな。変なこと言っちまった。あの姉ちゃんが街を破壊するって宣言したのは確かなんだ。許しちゃなんねえよな」


 そう、根が正直な彼女だからこそ、あの発言は本音に違いないのだ。

 ただそれでも俺は、フェイラスが悪い魔神には思えなかった――。





 後の報告で、彼女がダンジョンに飛びこんだのは確認できた。

 文字通り魔物の巣窟なので出会う端から彼女は魔物を狩りまくっていたそうだ。もちろんベリアルはその場にいないので無駄足だったのだけど、フェイラスは丸一日をかけて寝ずに探し回っていたのだとか。


 その後も作戦は続行された。


『ギルラムの十一階層でそんな女を見たな』

『南にある拠点の町で買い物してたわね』

『川の上流で釣りしてたよ』


 ダンジョンの内部だけでは疑われてしまうかもなので、道中で魔物に遭遇する場所へ彼女を誘導する。

 まんまと先々で戦闘させることに成功したものの、やはり俺の心はちくちく痛んだ。


 街に戻ってきた彼女はどこか暗く、落胆しているように見えた。


 監視している間に眠ったとの報告はない。

 寝る間も惜しんでただベリアルを探し続けていたのだ。


 哀れに思う反面、俺は焦り始めていた。

 だってフェイラスってば、まったく魔力が枯渇する様子がないのだもの。


 それもそのはず。

 彼女は街に戻ると魔物を倒して得たドロップアイテムを換金し、まっすぐ食料品店に向かった。


「そちらからこちらまで。あとはあちらの棚もすべて買いますわ」


 金額の計算はお店の人に任せ、ギリーカードをぽんと放ると、でっかいお芋を生のままがりがり貪る。

 ベリアル同様、たくさん食べて魔力を補充しているらしい。


 むろん可能性は考慮していた。けれどベリアルはそれでも追いつかなかったのだ。しかしどうやら彼女、ベリアルよりも経口摂取での魔力供給の効率がよいらしい。


 買った商品をあらかた食べ尽くしたフェイラスが店を出る。ただ彼女はそこで不満そうにつぶやいた。


「まったく足りませんわね……」


 どうやら効率がよくても全快はしないらしい。ホッと胸を撫でおろすも、長期戦の様相を呈してきたので再び俺は焦った。


 あまりに長びかせれば祭りが始まってしまう。それまでに解決しなければベリアルが祭りを楽しめない。街の人たちも不安だろう。


 それに長く続けられる作戦でもない。どこかでフェイラスの我慢が限界に達し、暴挙に出るかもしれないからだ。


 そこで一計を案じた俺。

 心を鬼にして、フェイラスの弱体化を早める作戦を実行に移した――。



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ひょうし
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