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姉ちゃんは同級生 ~井の頭の青い空~  作者: 山崎空語
第5章 高校生の俺達 ~大人への階段~
98/125

5-25 助っ人を頼まれた日(その5)~3月号の撮影~

 12月22日、姉ちゃんと俺はハモニカ横丁でちょっと大きめの薔薇と柊のブーケを買って、午前9時頃御殿山スタジオに入った。2スタだから教室のシーンだ。3月号のスナップと言う事で、早春のイメージだそうだ。つまり、スナップチームの中では姉ちゃんと俺の得意のシーズンと云う事になっている。具体的には、新しいデザイントレンドの制服をアピールするため、中に着る物の色、つまり、アンダーカラーを春色にして姉ちゃんと俺が『春』を予感するポーズをとると言う事だ。なので、若草色のベスト、白やパステルピンクやクリームイエローのワイシャツやブラウスを着る。ネクタイもそれに合わせて変えるのだが、誰の趣味だか、猫のキャラがデザインされたものが多かった。中でも俺はぷにゅぷにゅの肉球がそれとなくデザインされたのが気に入った。

  『それじゃあ、始めます。』

俺は山内さんの号令を聞き流して、

「姉ちゃん、この制服良いね。」

「なんかね。たぶん、黒の中に赤い糸が入ってるんだわ! ほら、ここなんか。」

姉ちゃんが上着の裾を持ち上げたので、俺は少し前屈みになってそれを見詰めた。

  『おお、いいねえ、流石だ!』

「黒い制服はなんか喪服みたいだと思ってたけど、この制服は高級感があるね。」

「新作なんだわ、生地もデザインも。ウールのせいかしら、ほんのり暖かいわ!」

ふと気付くと、姉ちゃんのブラウスが薄いピンクで、ブラが透けて見えていて、ウエストあたりに皴が寄っている。その皴に何となく見とれていると、

「どうしたの?」

「姉ちゃん、ウエストに皴が寄ってる!」

「当たり前でしょ、そこは細いんだから。」

姉ちゃんはそう言いながらも脇の余った布を整えてスカートに押し込んだ。

「これがいわゆるクビレってやつ?」

「そうね。」

「大人になると無くなるんだよね。」

「そんな事無いわよ! ばか!」

「そうすか。じゃ、遠慮なく。」

俺はそのクビレに右手をまわして、姉ちゃんをちょっと引き寄せて2人寄り添ってからカメラ目線を繰り出した。

  『おおぉー、いいねえ』

姉ちゃんがスクールバックを体の前で両手で持って首をかしげるお得意のポーズを執ると山内さんが必ず喜ぶ。

  『いいぞ~、いい!』

俺は姉ちゃんの後ろから斜め上の天井を見る様にして、2人の興味が別々の所にある様な雰囲気を作る。

  『おお~、それも良いなあ!』

こうして10時半を過ぎた所でコーヒーブレークになった。


 俺はコーヒーカップを左手に持って、絵コンテを表示しているPCのマウスを操作してスタイルKの掲示板を開いた。

「姉ちゃん見て! 『あかま』の正式ユニット名が決まったみたいだ。」

「どうなった? 今朝は未だupしてなかったよね。」

「えええぇ~~!」

「どうしたの?」

「スワイプ・イン・ドリームに決定だって。」

「すごい、凄いよ翔ちゃん!」

「なんか俺、責任押し付けられたような気がする。」

「どうして?」

「だって、この名前のせいで売れなかった・・・とか。」

「良い名前だと思うわ! きっと売れるよ、逆に!」

「お、西田社長のカキコがある。」

「どこ?」

「下から3番目。」

「本当だ! 『今時の若い人のフットワークの軽々しさと爽やかさと未知の可能性が感じられる』だって。」

「なんかベタ褒めだね。」

「スゴイね。」

姉ちゃんと俺は顔を見合わせて苦笑した。

「あ、セットリストが決定版になってる。」

「本当だ。コメンタリーも書いてあるわ!」

姉ちゃんと俺はそのセットリストをフルスクリーンにして見た。


**********

(1)恋人がサンタクロース、

    全員全力で歌う。『とにかく音を出して通行人の足を止める!』

(MC:マサシ)みなさーんこんにちはー・・・懐かしい曲でした~掴み

(MC:ショウ)これからだんだん僕等の時代の歌になります。

    〇 メンバーと関係を紹介。

    ・高田馬場大学の学生バンド、ビート・ストック

      ベースの『シュン』

      ドラム&パーカッションの『ヨウタ』

      リードギターの『マサシ』

    ・スタイルK

      キーボードのハルちゃん

      サイドギターのショウ君

      ビート・ストックの『マサシ』は高校の先輩

    ・ナタプロのスワイプ・イン・ドリーム

      明莉ちゃん

      加代ちゃん

      円ちゃん

      スワイプ・イン・ドリームの『加代ちゃん』は同級生

    まず、スワイプ・イン・ドリームが1人ずつ順番に季節の歌をう。

(2)明莉:雪の華

(3)加代:冬のうた

(4)円:冬がはじまるよ

(MC:加代)私達、今日の為に練習しましたが、

    お父さんとお母さんの時代の歌。うまく歌えてましたか? 

      ・・・(たぶん拍手)有難うございます。

    それではスタイルKの2人にも歌って頂きます。

(5)ショウ:クリスマスイブ

(6)ハル:神様のいたずら

(MC:ショウ)さてそろそろ若い皆さんにも聞き覚えのある曲を歌います。

    まずは先輩達が居た軽音楽部由来のアニソンから。

(7)天使にふれたよ!

(8)冬の日

(9)Beautiful World

(MC:マサシ)最後は大学生が好きなゲーム音楽です。

    高校生にR18のゲームの歌は悪いかとも思いましたが、

    快く歌ってくれるそうです。

   (スワイプ・イン・ドリームがメインで歌う)

(10)舞い落ちる雪のように

(11)POWDER SNOW

(12)Twinkle Snow

(MC:加代)残念ですけど、もうそろそろお別れの時間

    最後にスワイプ・イン・ドリームのステップを見せる。

(13)スタート・ダッシュ

(14)スノウ・ハレーション

(☆予備orアンコール)赤鼻のトナカイ

(MC:ショウ)今日は、

   高田馬場大学の学生バンド、ビート・ストック

    俊介、陽太、将司(敬称略)

   中野タレントプロモーションのスワイプ・イン・ドリーム

    明莉ちゃん、加代ちゃん、円ちゃん

    スワイプ・イン・ドリームは来春デビューします。

    応援よろしくお願いしまーす。

   最後にスタイルKの読者モデル

    ショウ君とハルちゃん

   この3つのユニットのセッションでお楽しみいただきました。

   どうもありがとうございました。

**********


「なるほど、良い感じだね。」

「私も歌うの決定なのね。」

「仕方ないね。1人だけは逃げられないと思うよ。」

「練習しなくっちゃ!」

「後ろに譜面スコアが付いてる。木村先輩ってやっぱよく気が付く人だね。」

「そうね。・・・そうだ、このリストとスコア印刷してもらわない?」

「家でもできるけど?」

「そっか、じゃあお願い。」

「うん。わかった。」


 少し離れた教卓の前でレンズを磨いてブロアーしていた山内さんが撮影再開の指示を出した。

「ハルちゃん翔太君、そこに置いてあるパンフを見ているシーンを撮ったら1スタへ移動な!」

『はい』

姉ちゃんと俺はハモった。俺はPCを絵コンテ表示モードに戻して、キーボードの横に置いてあるパンフを持って、教室の中央付近の机に移動して広げた。姉ちゃんもそれを見た。

  『ハルちゃんが座って、翔太君が誘ってるという絵ね!』

「はい。ってかスキーに誘うのかぁ!」

  『じゃあ始めよう!』

ライトが明るくなり、シャッター音が始まった。姉ちゃんはパンフを広げた机の席に両手でお尻を撫でる様にスカートを整えながら座った。そのタイミングで俺は姉ちゃんに話しかける。もちろん想定の演技だ。

「ハルちゃん、2人でスキーに行かない?」

「私滑れないけど、良いの?」

姉ちゃんはそう言って俺を見上げた。当然だが、俺と視線が重なる。

  『おおぉ、良いねえ。なんで君達はそんな簡単に気持ちが合うんだ?』

「教えてあげるよ!」

「本当? じゃあぁ、連れてって!」

姉ちゃんの瞳が輝く。俺はアグリーの微笑みと視線を首をかしげて返す。

  『おいおいおい、凄いじゃないか!』

「てか、俺もボーゲン位しか出来ないんだけどね!」

「ええぇ~ じゃあぁ、スノボは?」

「乗った事無い。」

「スノボにもボーゲンとかあるのかなぁ。」

「さあ、どうだろう。知らない。」

俺が首をかしげて分らないって表情をすると、シャッター音が早まった。

  『おおぉ、珍しい表情だ。いただき!』

「スキーみたいにパラレルは無いよね。」

「なんで?」

「2本無いもの!」

「そっか、2本並列って意味ですか・・・そっかぁ。」

姉ちゃんが少しドヤ顔になって俺を見る。するとまたシャッターの間隔が短くなる。

「ゲレンデに学校が有るでしょ?」

「そうだね。2人で入学しよう!」

俺が机に手をつくと、姉ちゃんが嬉しそうに俺を見上げた。同時にシャッター音が連打状態になった。

  『なんでこんなに良いタイミングで良い表情が出るんだろうね! サイコー!』

そこへ長谷さんが入って来た。なんかいつもと違って、白いモコモコのタートルネックのセーターに黒いジーンズだ。そう言えば、メークも濃い目の様な気がする。

「姉ちゃん、見て、長谷さん。」

「どうしたの?」

「なんか、違くネ?」

「そうね。・・・翔ちゃんは私以外の女の人には敏感なのね?」

「えっ!・・・そ、そんな事無いと思うけど。」

「そうかしら。」

「長谷さんに感想言ってみよっか!」

「駄目よ!」

「なんで?」

「理由、解ってるから。」

「ナタプロ?」

「たぶん。」

「なんか言った方が良くネ?」

「ちょっと探ったほうが良いわ!」

  『どうした、2人共』

流石山内さん。ファインダー越しに俺達の変化を感じ取る。なら、仕方が無い。

「長谷さん、今日は一段と格好カッコ良いすね。」

「あら、翔ちゃん、目聡いわね。」

「はい。それはもう輝いてます。」

山内さんはカメラを両手で構えたまま振り返った。吉岡さんは反射的にデフ板を翻して長谷さんを下から照らした。シャッター音が数回した。

「チョッと、ヤマさん。私を撮ってどうするの!」

「・・・そうだな。」

山内さんは長谷さんに見惚れているみたいだった。

「俺、買います。」

「こら翔太君、何を言うの!」

「もう、翔ちゃんたら!」

「非売品ですから。」

「ヤマさん配布も禁止ですから!」

「ほい。」

「ところで、1スタの準備できたみたいよ!」

「じゃあ、1スタへ移動しよう!」


 1スタに行くと、クロマキースクリーンをだらりと伸ばしたフロアに炬燵が置いてあり、本当にスイッチが入っていて、暖かくしてあった。炬燵の上には定番の『みかん』の外にバナナも籠に入って置かれていた。そして、スキーのパンフも置いてあった。どうやら続きの様だ。姉ちゃんと俺はその炬燵に制服のままあたった。

 俺は横目で絵コンテを見て状況設定を確認した。彼女の部屋の炬燵の様だ。ファーニチャーは合成クロマキと書いてあった。

  『えっと、まずは対面でやってみようか!』

「遠くネ?」

「なんかお見合いみたいで絡み辛いね。」

数回シャッター音がして、

  『やっぱり、シヨウ君が1つ動くか!』

「じゃあ隣に。」

俺は1つ移動して、スキーのパンフを広げて姉ちゃんに説明している感じを出してみた。山内さんはカメラを構えて炬燵の周囲を歩き回りながらシャッターを切っている。

  『やっぱり並んで座ってみようか!』

俺が姉ちゃんの右隣に行くと、姉ちゃんは少し左に動いた。かなり密着して座った。そして、俺がパンフを右手人差し指で抑えると、姉ちゃんがそこを覗き込む。

  『いいねえ、やっぱり並ぶのが!』

「スタイルKのスナップにしては刺激的過ぎませんか?」

  『良い感じだけど?』

「マジすか! じゃあ、こうしよう。」

俺は左手で姉ちゃんの肩を抱き寄せてみた。姉ちゃんは体を傾けて俺の左胸に凭れかかってパンフを見詰めた。

  『いいね、良いね。流石中西姉弟だ! だが、使えんなこれ。』

それを見ていた長谷さんが、

「じゃあ、部屋着にしてみましょう。」

女子の部屋で2人共部屋着になる? なんて事は普通は無い事だが、まあ演出がそうなっているから仕方が無い。姉ちゃんは暖かそうな淡い黄色の、つまりパステルイエローの緩いセーターとチェックのシックなロングスカートに、俺は薄いグレーのトレーナーに緩いジャージの生地のパンツに着替えた。そして、さっきの様に2人並んでパンフを見ているシーンだ。

「スキー場には温泉あるよね。」

「たぶんね。」

「夜は温泉でコリをほぐすのね。」

「俺が解して差し上げましょうか? ふくらはぎとか。」

姉ちゃんは俺を睨んだ。

  『いいねえ、良い!』

「じゃあ、お願いしようかしら。」

「まいど。」

「姉ちゃん、寝っ転がってみる?」

「そうね。」

並んで座っていた姉ちゃんと俺は、炬燵に足を入れたまま寝っ転がって、俺が右手で姉ちゃんが左手でパンフを持って見ているポージングになった。

  『おお、良くある感じでサイコー!』

姉ちゃんは更に俺の方に頭を傾げてみたが、俺の左腕が邪魔だ。

「腕枕して!」

「あ、うん。」

姉ちゃんが少し頭を持ち上げたので、俺は腕を頭の下に入れて姉ちゃんの左肩を抱いた。

「これで良いかな?」

「うん。」

  『良いね、いい。サイコー』

山内さんは姉ちゃんと俺に覆い被さる様に立って、シャッターを押しまくりになった。俺には山内さんの要求アップが何となく予想できた。

「山内さん、俺、姉ちゃんを襲うようなシーンできませんから。」

  『なんで、私の妄想が解る?』

「うフフ、だって山内さんと翔ちゃんって、同じタイプの妄想癖だもの!」

  『あっちゃー、そうか、もう『分析済』なのかぁー』

「それじゃあ、ラストはウエアね。」と長谷さん。

姉ちゃんと俺はスキーウエアに着替えて、ブーツを履いて、ゴーグルを首に巻いて、ストックと板を持ってポーズを執った。さらに、ラフなスノボのウエアにも着替えて、ボードを抱えたり担いだりしてポーズを執った。これまで見た事が無い姉ちゃんの格好と厚手のメークがとても新鮮で、可愛かった。

「翔ちゃん、格好良い!」

「姉ちゃん、可愛い!」

いつもの様にちゃんと正直な感想を述べあった。こうして午前中の3月号の撮影が終了してお昼休みになった。


 12時過ぎ、姉ちゃんと俺がいつもの焼肉デラを食べ終わった頃、第1スタジオのドアが開いて元気な声が入って来た。

「おはようございまーす。エッコでーす!」

「あぁあ、エッコ先輩! おはようございます。」

「おおぉ、翔太、ハルちゃん。お久!」

エッコ先輩は脱いだコートをコート掛けに掛けると、振り向いて俺を見た。いつもの様にナイスバディーだ。先輩は立ち上がって並んいる姉ちゃんと俺に正面から近付いて、両手を拡げてそれから姉ちゃんと俺を軽く抱える様にした。エッコ先輩の柔らかいものが俺のお腹の上あたりに触れた。

「今日が最後だ。色々あったな。でも楽しかった。今日はよろしく頼む。」

「先輩!」と姉ちゃん。

「まだ飛び込みが有ると思いますけど。」

「飛び込みじゃあお前達とは別撮りになるかんな!」

「ですかね。」

「ちょっと早いけど、クリプレだ。こっちがハルカ、こっちが翔太だ。」

「有難うございます。」

「これはバックインバックですね。」

「ああ、下手だが刺繍しといた。」

「あ本当だ。似顔絵の刺繍ですね。」

「ああ。」

「それ、翔ちゃんに良く似てるわ!」

「姉ちゃんも。」

「悔しいけどね。」

「有難うございます。嬉しいです。」

「私達からもあります。」

そう言うと姉ちゃんは薔薇と柊のブーケをスタジオの隅から持って来てエッコ先輩に渡した。

「ありがとう。お前達って、ほんと、良い奴だな。なんか嬉しいじゃん。」

エッコ先輩は少し涙声になった。

「泣かすなよ、メーク流れるじゃん!」

「ごめんなさい。どうぞ。」

姉ちゃんはハンカチを差し出した。

「ありがとう。これも貰っとく。」

「はい。」

「エッコ先輩、俺からはこのストラップ、ネットでゲットしました。」

エッコ先輩はストラップを数えて、

「おおぉ、ネコ10匹か、可愛いじゃん。ありがとう。」

「イヤホンピアスにすればスマホにも乗ります。」

「おお、本当だ。良いね。」

そう言って俺を見上げた先輩はもう1度両手を拡げて姉ちゃんと俺を抱きしめた。

「ありがとう。お前達だけだ私と普通に付き合ってくれたの。」

「何言ってんすか! 俺、先輩にいっぱい助けてもらいました。」

俺も何かこみ上げて来て涙声になった。姉ちゃんも俺より早く涙目になっていた。3人は暫らく抱き合って最後の別れの感傷に浸った。


 1時前、吉村さんが入って来た。そして、スワイプ・イン・ドリームの3人が続き、最後に小泉さんが入って来た。

「おはようございまーす!」と明莉。

「おはようございます。」と加代。

「おはようございますぅー」と円。

「おはようございます。みんな!」と俺。

小泉さんが1スタの皆を見渡して、

「おはようございます。ナタプロのプロデューサーの小泉と言います。今日はよろしくお願いします。」

俺はエッコ先輩をスワイプ・イン・ドリームに紹介した。

「こちら、三村栄子さん、エッコ先輩です。」

「初めまして、スワイプ・イン・ドリームの明莉です。1年です。」

「明莉ちゃんね、よろしく。」

「同じく1年の円です。」

「円ちゃんね、よろしく。」

「加代と言います。中西姉弟の同級生です。」

エッコ先輩は興味津々に加代を見詰めて、

「貴女が煉獄の姫君ね。翔太もぐらつく訳だ!」

「先輩! 勘弁してください。」

「良いじゃないか、悪い事じゃ無いし。」

「加代ごめん。」

「いいって、なんとなく褒められたみたいだから。」

「うん。思った通りの良い娘だ。」

そう言うとエッコ先輩は加代をハグした。そして耳元でおそらくこう言った。

「翔太を大人にしてくれてありがとう。」

「あ、いえ、してません。」

「またまたぁ。まあ、男とは言ってないから。」

加代はウザそうだった。そんな事には全く無関心に、円が目を輝かせて言った。

「エッコ先輩はスイムのモデルさんなんですよね。いつもナイスバディーであこがれますぅ。」

「おお、ありがとう。だけど、翔太の保護者でもあるんだ。悪い虫が着かないようにな!」

「えぇ~!」

「エッコ先輩。何を言い出すんですか!」

「おっと訂正・・・年上の妻です。いつも主人がお世話になっております。」

「いやだぁ~、こちらこそですぅ!」

そこへ長谷さんが割って入った。

「ハイハイ、もう挨拶は終わったかしら? 今日の予定を説明したいんだけど。」

『はぁ~い!』

「これからここの更衣室で制服に着替えて、1スタでスワイプ・イン・ドリームとスタイルKの3人の合計6人の仲良しJKのスナップ撮りをします。」

「俺は?」

「あ、ごめん。翔ちゃんはDKだったね。」

「証拠見せましょうか?」

「やだあぁ~、ショウさんはそんな事言っちゃだめですぅ!」と円。

「え?、生徒手帳だけど? 何か?」

「え、えぇー!」

「とにかく、ハーレム状態。ある意味・・・嬉しいです。」

「翔ちゃん!」

「へいへい!」

「コホン! 良いかしら?」

『はぁーい!』

「此処、つまり。1スタでコーヒーブレークした後ですから、3時半頃かしら、2スタの廊下でスワイプ・イン・ドリームのステップのVを撮ります。著作権があるから没になるかもしれませんが、ミニDVDにするかも知れません。」

「わーい。DVDですかぁ、嬉しいです。」と明莉。

「過渡な期待はしないでね。あ、スタイルKの3人はエキストラ出演よ!」

『はーい。』

「それが終わったら、2スタの教室でショウクンとハルちゃんの周囲に集まって仲良く歌ってる絵ね。」

「了解です。」と俺。

「ちょっと盛り沢山だから、キビキビお願いします。」

『はあーい。』

「それじゃあ着替えとメークを始めてください。」

 スワイプ・イン・ドリームの3人は野崎さんに連れられて右側の更衣室に、スタイルKの2人は左側の更衣室に入った。俺は当然だが、外で待つべきと思って行かなかった。すると間もなく左側の更衣室のドアが開いて、エッコ先輩が顔を出した。

「翔ちゃん、何してんの? 早くおいでよ!」

「あ、いえ、俺は後で。」

「もう、最後なんだから遠慮すんな!」

「何の遠慮っすか?」

「天国に決まってんじゃん!」

「翔ちゃん、早くして!」

「へいへい、ではお言葉に甘えまして。」

俺が入ると、エッコ先輩も姉ちゃんももうスカートを穿いていて、結局ハズい思いをしたのは俺だけだった。ハメられた。

 こうして、スタイルK組は午前中に着ていたのと同じ新作の黒いブレザーの制服に、スワイプ・イン・ドリームはパステルピンクのブラウスに加代が緑のスカーフ、明莉と円は赤いスカーフでチェック柄の短めのスカートに濃紺のブレザーに着替えた。

 俺が更衣室から出ると、スワイプ・イン・ドリームの3人は既に外に出ていて、はしゃいでいた。

「なんか、良いですぅ、この制服。」と円。

「スカート短過ぎないか?」と加代。

「そんな事無いです。もっと短くても良いかも。」と明莉。

「おおぉ~、3人共可愛いじゃん。」と俺。

「ショウさんもカッコ良いですぅ。」と円。

「加代ちゃんはスカーフ緑なのね。似合ってるわ!」と姉ちゃん。

「ああ、やっぱ上級生なんだそうだ。」

「そっちの方が私の好みだ。取り替えて欲しい。」とエッコ先輩。

「エッコ先輩は俺達と同級生になりましたね。」

「そうか。それならまあこれでも良いか。」

「じゃあ、エッコって呼んで良いですか?」

「それは許さん!」

「はい。承知。」

「もう、バカね。」


 例によって木下さんがスワイプ・イン・ドリームのブラウスやスカーフの具合を調整し、野崎さんがメークブラシで額のテカリを抑えたりした。それが1段落つくのを見て長谷さんが指示を出した。

「それでは、スワイプ・イン・ドリームの皆さんはそちらの青いスクリーンの前に行ってください。」

『はぁ~い。』

これまでの『あかま』の並び順を守りながら3人が並んだり、加代が1人後ろに立って明莉ちゃんと円ちゃんが前で中腰になったり、逆に加代だけが前に座って、2人が後ろに立ったり、3人共横座りでちょっとドキッとするくらい白い足を出したり、並んで体育座りしたり。色々なポーズの撮影をした。ただ、並びは必ず『あかま』で、ユニットの立ち位置を変えないってのが定めらしい。そして、例によってスタイルK組がカメラマン山内さんの後ろで3人の表情作りに貢献した。

「それではコーヒーブレイクね。それから2スタに移動しましょう。」

こうして撮影は順調に進行した。2スタに移動した時のスワイプ・イン・ドリームのはしゃぎ様は凄かった。学校そっくりだったのが物凄くビックリだったようだ。そう言えば、撮影の間、スタジオの隅で吉村さんと小泉さんが何やらひそひそと話し込んでいた。何となく旧知の仲に思えた。

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