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姉ちゃんは同級生 ~井の頭の青い空~  作者: 山崎空語
第4章 高校生の俺達 ~赤いミラーレス~
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4-28 ロケに行った日(その4)~リゾートライフ~

 午後はホテルの庭を借りて、リゾートの雰囲気でのスナップ撮りをした。まずホテルの門から玄関にかけての前庭だ。手入れされて咲いているブーゲンビリアやハイビスカスの花の前や後ろで、制服やちょっとセレブな感じの衣装で撮った。

「姉ちゃん、またJKになったね。」

「翔ちゃんもDKだよね。」

吉岡さんが大輪のハイビスカスを買ってきて、それを野崎さんがアレンジして、レイと言う程ではないが、俺の首飾りと姉ちゃんの髪飾りにした。

「翔ちゃん、良いね。それ!」

「姉ちゃんもなんか良いね。」

「ありがとう。可愛い?」

「え? う、うん。」

姉ちゃんと俺は見詰め合ったり微笑んだりした。

  「良いねえ、いつもながら!」

山内さんは俺達の周りを動き回ってシャッターを押している。が、芝生と道の切れ目につまずいて転んだ。それでもカメラを両手で支えて落とさないから、さすがにプロだ。だが、両手が塞がっているから起きれない様だ。皆はもがく山内さんを見て爆笑したが、長谷さんだけが駆け寄って起こした。

  「ありがとうジュンちゃん。」

  「もう、夢中になると、ただのカメコになるんだから!」

  「面目めんぼく無い。」

俺はその様子を見て、

「なあ、姉ちゃん。山内さんと長谷さんって、なんか仲良くね?」

「そうね。ひょっとしたらかも。」

姉ちゃんもそう感じてたみたいで俺達は見詰め合って微笑んだ。

  「いいぞいいぞ! その表情頂きぃ。」

「でも、歳離れ過ぎだけど。」

「そんな事無いわ!」

「歳の差は関係ないって言いたいんだろ!」

「そうじゃなくて、長谷さんは30過ぎで、山内さんは40よりは若いから、多くても5、6歳しか離れて無いはず。」

「そっか。ならまだOKだよね。」

そう言って、俺は姉ちゃんを前にして、髪飾りのハイビスカスの香りを嗅ぐような仕草をした。

  「おお、いいねえ!」

姉ちゃんは俺を見上げるように振り返って、

「つまり、翔ちゃんのストライクゾーンは5、6歳?」

「うーん。いや、もっと狭いと思う。」

「そうね。」

姉ちゃんと俺は見詰め合ってまた微笑んだ。

  「良いよ、良いよ! その微笑み。最高!」

いやいや、これは演技じゃなくて山内さんと長谷さんのおかげですから。

  「じゃあ、次はテニスコートに行きます。」

長谷さんの号令でひとまず全員バスに戻った。


 ホテルの中庭にあるテニスコートに移動した。もちろんバスで2人共テニスウエアに着替えた。姉ちゃんは白いノースリーブのワンピースタイプで目の粗いニットのセーターを羽織った。ピンクの縁取りとブルーのストリングのシューズが可愛い。俺は短パンに半袖のウエアに同じ荒目のセーター、そしてグリーンの縁取りにブルーのストリングのシューズだ。どうやら、渋谷のスポーツシューズ店の広告も兼ねているようだ。ホテルのインストラクターの男女2人にエキストラになってもらった。吉村さんの強引なお願いで快く引き受けてくださった。混合ダブルスのプレーの雰囲気やプレーヤーベンチで談笑している感じのスナップを撮った。最後にちょっとだけ乱打ラリーをしてみた。

「姉ちゃん、まだ結構できるね。」

「翔ちゃんも。」

「お上手ですね。」とインストラクターさん。

「中学の頃かじりました。」

「やっぱりそうですか。レジャーテニスの構えじゃ無いはずです。」

姉ちゃんと俺は少し本気になった。インストラクターさんペアに勝った。久しぶりにアドレナリンが出た。山内さんは当然だが、大きなズームレンズに1脚を付けて写しまくりだった。周囲にハイビスカスが咲き乱れて風に揺れているコートで混合ダブルスを優雅にプレイするなんて、なんてセレブなんだろうと思った。そういう感想が持てるって事は、つまり俺は庶民だ。

  「次はビーチね。」

長谷さんが進行の指示を出した。試合を続けられると困ると思った事だろう。


 ロケバスで水着に着替えてその上に制服の衣装を着てパーカーを羽織って、ホテルのプライベートビーチに出た。熱くて眩しい南国の陽光と青い空の下に珊瑚が砕けた白い砂浜とエメラルドグリーンの渚が拡がっていて、『ザワザワッ、ザワッ、ザワー』っと心地良い波の音がして、気持ちいい海の風が流れていた。いよいよエッコ先輩の出番だ。

 エッコ先輩がガウンにビーサンにグラサンで登場した。折りたたみ式のビーチチェアが2つ用意してあって、その間に小さいテーブルがあり、トロピカルな青い色の飲み物が置いてある。テーブルの後ろにはビーチパラソルが立ててある。エッコ先輩はそこへスタスタと歩み寄って、大げさにガウンを脱いで木下さんに渡してから右側のチェアに寝そべった。

「す、スゴイ!」

黒いレザー調のビキニの左胸にハイビスカスが咲いている。

「翔ちゃん、見て! やっぱり栄子先輩だね。」

「う、うん。」

「翔ちゃん、何妄想してるの?」

「ハイビスカス。」

「え?」

「冗談。してないってば!」

エッコ先輩は上半身を起こしてサングラスを少し下げて上目遣いに俺を睨んだ。

  「いいねえ! JKとは思えんよ!」

  「あら、JKでないと困るわ!」

エッコ先輩はグラサンを1度外して頭にティアラの様に挿した。

  「その方が良いわ!」

  「了解。」

吉岡さんがデフ板で1度エッコ先輩を照らしたが、すぐに降ろして、薄いガーゼで反射面を覆ってからもう1度照らした。

  「ちょっと待って! テカッてる。」

野崎さんがメイク筆でエッコ先輩の額を撫でると、確かに額が落ち着いた感じになった。

  「中西君達はバックよ!」

「はい。分かりました。」

姉ちゃんと俺はパーカーを脱いで、20mほど離れた波打ち際に近い場所の砂浜に並んで座った。そして、海を見詰めて談笑しているポーズをとった。つまり、エッコ先輩のバックに姉ちゃんと俺の少しピンボケした制服の高校生アベックが居て、その更に奥にエメラルドグリーンの渚がキラキラと輝いているという構図だ。

「きれいな海だね。」

「そうね。」

「遊園地のプールがこの色に塗ってある理由がわかったよ。」

「そうよね。何であんなわざとらしい色なのかずっと不思議だったわ!」

「南の島の海の色だったんだね。」

  「ハルちゃん、翔太君、パーカーになってくれないか?」

山内さんの要求アップだ。水着は着てるんだが・・・

「どうしよう、制服脱ぐ?」

「脱がないと変だわ!」

「そうだね。」

姉ちゃんと俺は立ち上がって制服を脱いでパーカーを着た。木下さんが脱いだ制服をバケットに仕舞った。

  「良いぞー、ありがとう。」

「姉ちゃん、山内さんの次の要求わかる?」

「パーカーをね。」

「だね。」

予想通りの要求が来た。

  「パーカー脱いでくれる?」

  「ヤマさん駄目です。」

  「ダメかぁー」

姉ちゃんと俺は顔を見合わせて苦笑した。

「姉ちゃん、泳がないか?」

「泳ごっか。」

姉ちゃんと俺はパーカーを脱いで小走りに海に入った。ぬるい海だった。でも気持ち良い。俺は姉ちゃんに思いっきり水を掛けた。

「キャー、何するの!」

姉ちゃんも俺に報復した。

「きゃはは。」

姉ちゃんと俺の突然の奇行に周囲の皆が驚いた様子だった。

  「いいぞー 最高!」

山内さんだけが大喜びだった。エッコ先輩が羨ましそうな視線で睨んでいた。


 木下さんと野崎さんと俺と姉ちゃんで丸いカーテンレールでできた屋外着替え用の目隠しを持って、その中でエッコ先輩が次々に水着を着替えてスナップを撮った。ブーゲンビリアやハイビスカスや白百合などの花の小道具も取り替えた。

「翔ちゃん、絶対覗かないでよ!」

「覗かないってば!」

「見ても良いぜ! 翔太なら。」

「ダメよ先輩、そんなこと言ったら、本気にするから!」

「あら、わたし結構本気なんだけど!」

「わかったから! 俺、後ろ向きで持ちますから。」

「うん、それで良し!」

「あー、海が綺麗だ!」

「ああぁ、海ばっか見てろ!」

エッコ先輩は脱いだ水着を俺の手に掛けたりした。ワザトだ。俺はそれを溜息交じりに木下さんに渡した。チラッと見てからだけど。先輩が着替える度に、姉ちゃんと俺も制服を着たりパーカーになったり、水際ではしゃいだりした。制服の衣装が水を含んでだんだん重くなった。でも、不思議な事に宮古島の海水はサラサラでべとつかない。真水の様に透明で汚れてないのだ。だが舐めるとやはり海水だ。塩っぱい。こんな調子で5時過ぎまで撮影が続いた。そして、プール横のシャワーを借りてから、5時半過ぎ宿泊先の西海ホテルに向かった。


 6時前西海ホテルに到着した。昼間撮影をした有名リゾートホテルに比べると・・・かなりアットホームな雰囲気だ。コテージ風という売りの通り、宿泊客の人数に合わせて、大小の別棟の建物が点々と建てられている。スタイルK御一行様は男4人で女5人の1軒家だった。ただ、このコテージは実は8人様用で、3人用の寝室が2つと2人用の寝室が1つという潜在的問題を持っていた。

 リビングにひとまず荷物を置いて大浴場と食堂がある管理棟に行く事になった。その準備をして、リビングでテレビを見ながら皆くつろいでいると、バスを駐車場に止めた吉岡さんが大きな荷物を抱えて最後に入って来た。機材関係のハードケースを床に置いて、

「吉村さん、荷物置きたいんですが、僕はどこですか?」

ここでようやく問題が発覚する。部屋が足りないのだ。

「そうか、忘れてた。部屋割り難しいんだ。」

吉村さんは手帳を拡げて考え込んだ。同時に長谷さんが部屋を見て回った。

「ムラさん、床で寝るならここしかないね。タクここで良いか?」と山内さん。

「仕方ありませんね。」

「あら、駄目よ! 運転士がちゃんと寝られないのはリスクが大きいわ!」と長谷さん。

「まあそうだが仕方が無いだろ!」

「俺、ここで寝ても良いですけど。」

「翔太君はモデルさんなんだから床はダメ。」と野崎さん。

「1番奥の3人部屋なら簡易ベッドが出せるわ!」と長谷さん。

「男の人は簡易ベットは無理ね。」と木下さん。

「つまり、女子4人は1部屋に入れるという事か。」

「男3人が真ん中の部屋とすると、残るのは・・・」

そう言いながら吉村さんが姉ちゃんと俺を見た。

「良いですよ。ね、翔ちゃん。」

「まあ、姉弟ですから問題ありません。」

「おお、そうか。助かるよ。」

「何なら、私と翔ちゃんでも良いよ!」とエッコ先輩。

「俺、今夜くらいは爆睡したいです。」

し、しまった。地雷踏んだ! エッコ先輩がニヤリとした。

「それって、つまり、あんた私を寝かさないって事?」

「あのねぇ、そう言う意味じゃありませんから。」

「翔ちゃん、ムキになるほど墓穴だよ!」と姉ちゃん。

「じゃあ、時々抜き打ちで確認しに行ってあげるよ!」とエッコ先輩。

「それはどうも有難うございます。でもそれ、完全に不要ですから。」

「親切で言ってあげてんのに。」


 大浴場にゆっくり浸かって食堂に行った。バイキングを予想していたが、そこは琉球畳が冷たくて気持ちが良い居酒屋風の大きい長テーブルの座敷だった。伊勢海老、ゴーヤチャンプル、そうめんチャンプル、スパムの炒め物、モズク、ミミガー、島らっきょ、ジマミ豆腐、島豆腐、アーサの天ぷら、海ブドウ、グルクンの唐揚げ。次々に初めて食べる沖縄料理が出てきて、どれも美味くて、死ぬほど食べた。ただ、のどを通らない物もあった。イリチーという食べ物だったと思う。大人たちは星座の名前が付いたビールから始まって、『お通り』とか言う無茶な泡盛の飲み方を勧められて、すっかり出来上がってしまって、優しさもエロさも、セクハラもパワハラも区別がつかなくなってしまった。


 10時ごろコテージに戻った。エッコ先輩は『十分な睡眠が欠かせない』と先に帰って眠った。大人たちは酔っぱらって眠そうで、とっとと部屋に入って行った。姉ちゃんと俺も1度部屋に入ったが、歯磨きで洗面所に出て、それからリビングでテレビのニュースを見ていた。

『鍵無くしちゃった。』

コテージの外から突然聞き覚えのある声がした。姉ちゃんも俺もびっくりした。

「姉ちゃん、いまの声は!」

「エリちゃんみたい。」

「だよね!」

姉ちゃんは立ち上がって、カーテンを少し除けて、窓から声がした外を見た。そして、

「ワァー、エリちゃん!」

そう言って急いで窓を開けた。

「ハルカ? 本当に春香なの?」

「久しぶり―!」

通路を走り寄る足音がした。

「ビックリだよー!」

「翔ちゃん、来て! やっぱりエリちゃんだった。」

俺は姉ちゃんの横から首を出した。

「あんた、翔ちゃんなの?」

「ああ、俺、翔太。」

「なんか大きくなったねー」

「うん。」

「エリは変わらないな。」

「ほっとけ!」

「相変わらず可愛い!」

「な、何? も1度言って!」

「だから、可愛い。」

「あ、ありがとう翔太。」

「で、宮古島で何してんの?」

「遊びに来たに決まってんじゃん。」

「家族で?」

「ううん。従姉とよ!」

「ふうーん。」

「ねえ、ここに泊まってんの?」と姉ちゃん。

「うん。隣のコテージ。」

「すごいすごい。それって、物凄く奇遇だね。」

「そうだ、こっち来ない?」

「これから?」

「うん。」

その時、隣のコテージの入り口あたりで声がした。エリの声にそっくりだった。

「エリちゃん、私が持ってたわ!」

「アキねえ、友達が隣に泊まってた。来てもらって良いよね!」

「うん。良いよ!」

「ハルちゃん、翔ちゃん、すぐ来て!」

『うん』

姉ちゃんと俺は窓を閉めて、カードキーを1枚持って隣のコテージに行った。

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